アドリブを教えていると、休符をただ単に休むところ、弾かないところだと捉えている人が非常に多いと感じます。
これは間違いです。
休符は休むところではなく、「弾かない音符」「音を出さない表現」として意識的にデザインするべきものなのです。
また、ジャズやその他の即興要素の強い音楽においては、休符は他の楽器との会話を促すツールでもあります。
伴奏者からすると、休符がなくてずーっと弾いているだけのソロは会話がなくつまらないものです。
そうなるとリスナーもただソロイストの個人技を見るだけになってしまい、即興演奏の醍醐味も半減してしまいます。
では「休符を弾く」「休符をデザインする」とはどういうことでしょうか?
これは意外と簡単なので初心者でも取り入れることができます。
では見ていきましょう。
本シリーズや教則本、レッスン等で僕は「同じフレーズを繰り返すことがアドリブの基本、アドリブの入り口としてきました。
それは休符も同じです。
また、厳密に全く同じことを繰り返していくだけだとリフみたいに聞こえてしまい、アドリブ要素が極端に減ってしまうことも一緒です。
そこで、休符もある程度崩していくことが必要となります。
それを念頭に次のソロを聞いてみてください。
こちらはFブルースの簡単なアドリブです。
まずは聴いてみてください。
譜面はこちら。
これまでご説明してきた通り、フレーズの繰り返しを多用していますが、今回は休符に目を向けてみましょう。
譜面を見てみると、だいたい各小節頭で2拍程度休んでいることが分かります。
休符もフレーズと同じで、全く同じものを使いすぎると硬くなり、アドリブ感が薄れてしまうので、適度に崩します。
9小節目で一旦完全に崩れますが、またすぐに2拍休みに戻し、全体の統一感を回復させています。
このように休符をデザインしたことで何が起こっているのか?
どんなメリットがあるのでしょうか?
アドリブの初心者はどうしてもフレーズを沢山弾くことに執心してしまい、つい弾きすぎてしまいます。
その結果呼吸がなくなり、聴いていてなんだか苦しいものになってしまいます。
特にギターやピアノなど、楽器の演奏そのものに呼吸が必要のない楽器はどうしてもそうなりがちです。
そこで「フレーズに呼吸をさせましょう」となるのですが、実際問題、呼吸というものは休符によって生じ、認識されます。
ですので、休符をデザインする=フレーズに呼吸させると捉えてもいいでしょう。
休符を意識的に使うことで、フレーズが呼吸し、より自然で聴きやすいアドリブになっていきます。
休符をデザインすることにより、ジャズにおいて最も重要な会話(インタープレイ)が生まれます。
上記のようなしっかりしたサイズの休符を定期的に入れていくと、何度目かで伴奏者がパターンに気づいて合いの手を入れてくるはずです。
そうなると楽器同士での会話がはじまり、単なるソロの発表会からジャズのインタープレイへと昇華することができます。
これは休符がなければ生まれ辛いし(生まれないこともないが、分かり辛い)、休符もある程度同じものを繰り返していかないと会話になり辛いです。
例えば雑談をしていて、一人早口でなにかをまくしたてたかと思うと、突然ピタっと話を止めるような人とは会話になりませんよね?
スムーズな会話は、一環した話題(同じフレーズ)と定期的な間(休符)によって生まれます。
では実際やってみよう…と試してみると、恐らくほとんどの方は、自分が何拍休んだかなんて覚えていなくて、結果休符がまちまちになってしまったり、だんだん休符がなくなってずっと弾きっぱなしになってしまうでしょう。
その対処法としては、まず正確に休符を再現しようとしないことです。
そもそも全く同じ休符を同じタイミングで使いたいわけではなく、むしろそれを崩していくことに意義があります。
ですので、『だいたいこんなもんだったっけ?』ぐらいで休符を入れていった方が自然に崩れつつも同じ休符を継続できていい感じになると思います。
あと、セッションでやる場合は自分が休符をカウントするというより、合いの手で入ったフレーズで確認するのも有効です。
休符を入れたところピアノが絶妙の合いの手を入れてくれた→さっきの合いの手もっかい欲しい→よし、もっかい同じタイミングで休符入れよ→また同じ合いの手来た!……こういう流れもよくあります。
これだとよりライブ感が出て聞いている人も楽しいと思います。
そもそも、ジャズミュージシャンは上達すればするほど自分が何を弾いて何拍休んだかなんて考えておらず、感覚やその場のノリで行っています。
合いの手や会話については生身の相手でないと試せないので、まずは同じ休符を同じタイミングで入れる練習をしてみましょう。