これまで、ジャズのアドリブではできるだけ同じフレーズを使うことが大事だと説明してきました。
とはいえ、いつまでも同じフレーズばかりを弾いているわけにもいきません。
かといって新しいフレーズをどんどん投入していくと散漫になっていきます(第2回参照)。
そこで、最初に使ったフレーズを継続して使いつつも、それをさらに変化・発展させていくという方向でアドリブを進めていきます。
ジャズ界隈ではこれを「モチービック・デベロップメント」と言いますが、いちいちこんなカッコ付けた言い方をしたがるのがジャズの悪い癖です。
ここでは「同じフレーズを変化させる」で通します。
そもそもアドリブ界隈において「フレーズを変化させる」という概念はあまり浸透していません。
いわゆる「モチービック・デベロップメント」も、『関連したフレーズをどんどん投入し、アドリブを豊かにしていこう』と解釈されている節があり、結局アドリブとは沢山フレーズを覚えて、それをじゃんじゃん使っていくことだと思っている人が多いからです。
「フレーズを変化させる」とはそういうことではなく、あくまでフレーズの母体を残したままほんの少しだけ変化させるのです。
ということは、まず自分がどういったフレーズを使っているのかをはっきりさせる必要があります(ほとんどの人がここに自覚的でないからフレーズを変化させることができない)。
今回は第1回で使ったこちらのフレーズを引き続き使っていきましょう。
このフレーズを変化させていきます。
さて、フレーズを変化させるには大きく分けて2つの方法があります。
・母体となるフレーズを変える(下記①~④)
・母体となるフレーズは変えず、その前後にフレーズを足す(下記⑤、⑥)
以下ひとつひとつ例を挙げていきましょう。
なお、それぞれの変化は挙げていけばきりがないので、ここではひとつだけに留めます。
音の長さを変えることでフレーズを変化させます。
例えばこんな感じ。
これだとかなり原形が残っていて、同じフレーズを変化させていることが実感できます。
今度は音を短くしてみましょう。
もともと短いフレーズがさらに詰まって特徴的になります。
これもかなり原形に近いフレーズです。
2音フレーズをひとつ消して1音だけにするのもありです。
こうなると原形を留めていない感もあります。
なんかものすごく頼りない感じがしますが、これも立派なフレーズの変化です。
8分音符のフレーズなら3連にしてみるのも効果的です。
このへんになると完全に違うフレーズと感じる人もいるでしょう。
個人的には同じフレーズの変化としてもいいと思いますが。
ここからは母体となるフレーズには手を付けず、そこにさらにフレーズを足すことで変化させていきます。
母体となるフレーズの前に音を足しています。
これもいろんなバリエーションがありますが、とりあえず4分音符ひとつにしてみましょう。
これだけでも結構印象が変わります。
フレーズの位置に注目してください。
4拍目から始まり、小節をまたぐようにフレーズが配置されています。
こうすることにより、ジャズらしさがより際立ちます(第1回参照)。
こちらは一度休符を入れて一音足しています。
こういうパターンもありです。
上記だけでも同じフレーズで6種類の変化があることが分かります。
さらに第1回でお教えした基本的な変化もあるので、ここで一度おさらいしておきましょう。
- 母体となるフレーズ
・基本的な変化
拍をずらす、使う音を変える、繰り返す(第1回参照)
・フレーズの変化
音価を変える、音を足す/引く(今回)
たったひとつのフレーズに対し、これだけの変化が付けられます。
もうこの時点で全部使い切れないぐらいやることが出てきました。
ではこれを使ってアドリブをやってみよう!と言いたいところですが、もう少しだけ理解を深めてみましょう。
せっかちな人は『なるほど、上記の6種類のフレーズを使ったらいいんだな!』と思っているかもしれませんが、そうではありません。
それだと「6種類のフレーズを弾く」というアドリブになります。
そうではなく、そもそも母体となるフレーズを使い続けるという意思が重要なのです。
なぜなら、同じフレーズを使うことで表現が統一され、伝わりやすくなるからです。
とはいえ、頑なに同じフレーズだけを使っていてもジャズのアドリブにはならないので、変化していくことも必要です。
じゃあなんの関係もないフレーズをどんどん投入していってもいいかというとそれでは散漫になる。
そこで同じフレーズを変化させるというコンセプトが発生します。
プロセスとしては以下のようになります。
○
同じフレーズを使っていくぞ→でもずっと続けるとリフみたいになるし→じゃあフレーズを変化させて使い続けよう!
×
いろんなフレーズの変化を知ってるからいろいろ使っていこう!
では上記の変化を含めたアドリブを行ってみます。
その前にやることを再度確認しましょう。
- できるだけ4拍目からスタート
まず基本として、フレーズをできるだけ4拍目から始めます。
その方がジャズらしくなるからです。
- 音をランダムに変化させる
使う音が毎回同じでは厭きてきます。
音をランダムに変化させてみましょう。
といってもあまり広げすぎても迷ってしまうので、今回も第1回で使った以下の4音を使ってみましょう。
いつどの音を使っても大丈夫です。
- フレーズの変化は2つ程度でOK
アドリブでよくあるのが、学んだことを全部やろうとして失敗するケース。
最初からそんなに縦横無尽に変化させようとしなくて大丈夫です。
フレーズの位置の変化や音使いに加えて、上記①~⑥のうち1つか2つ使えればそれで十分です。
では一度弾いてみましょう。
ではこのソロで何をやったのかを分析・解説してみましょう。
赤=母体となるフレーズ。
黄色=変化③。
青=変化②。
まず、母体となるフレーズをセオリー通り4拍目から弾いています。
そもそもがこれを使い続けるぞという意思があります。
変化③(黄色)でややアクセントを加えつつも、最初のフレーズからは基本変化しません。
8小節目までは最初のフレーズしか使っていないと言ってもいいでしょう。
そこから変化③と②を使うことで、さっきまでと違うタイム感になりました。
といっても大幅にフレーズが変わったわけではないので、大筋では同じカラー、同じ表現の中にいることが感じられると思います。
最後はまた母体のフレーズを繰り返してまとめています。
分析してみるととてもシンプルで変化といえるほどの変化もないのですが、しっかりとマンネリ感やリフっぽさを回避し、アドリブらしくに聞こえると思います。
一方で弾きすぎ感やなにがやりたいのか分からない散漫さもないと思います。
使っている音は4音のみですが、それでもしっかりジャズに聞こえると思います。
これまでお伝えしてきた要素をしっかりと盛り込めば、たった4音、ひとつのフレーズからここまで作ることができるのです。
もちろんこの先に様々な変化があり、フレーズや音、アプローチなどを増やしていかなくてはならないのですが、ことブルースなら極論すればこれだけのアプローチで最後まで弾くことも可能です。
さて、ここまでやってみて、同じフレーズを使い続けながら変化させていくということが少しご理解いただけたかと思います。
と同時にこんな疑問は浮かんで来ないでしょうか?
『同じフレーズを変化させると言うが、どこまでの変化が”同じフレーズ”で、どこからが”異なるフレーズ”になるの?その境界線は?』
結論から言うと、境界線はありません。
なんとなく同じようなフレーズに聞こえていたら同じフレーズだし、全然違うフレーズに聞こえたら違うフレーズを弾いていることになります。
それは音の微妙な伸ばし具合だったり、フレーズのつながりなどで変わってきます。
弾き手によって同じフレーズの境界線も違ってくるでしょう。
また、アドリブソロなので、その日の調子によっても変わってきます。
この辺はレッスンで細かく詰めていかないと分からないところです。
では今回の内容を踏まえてご自身でソロを弾いてみてください。