八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ジャズのアドリブをやってみよう2 同じフレーズを使い続けることの意義


八幡謙介ギター教室in横浜

ジャズのアドリブをやってみよう 1

k-yahata.hatenablog.com

同じフレーズを使う

第1回では、同じフレーズを使い、配置や音を変えながらアドリブしてみました。

簡単でそれなりに効果のあることから、ジャズ初心者の方は『こんなんでジャズになるのか!』と驚かれたと思います。

一方で、『でもジャズってもっと多彩じゃないといけないんでしょ?』『さすがにいつまでも同じフレーズってわけにもいかないよね?』と思っている人もいるでしょう。

また、中~上級者(プロ未満)の方は『こんなんでジャズができるわけがない』『最初はいいかもしれないけど、もっといろんなアプローチを覚えないとジャズにならないよ』と批判的に見ているかもしれません。

 

そこが根本的な勘違いなのです!

 

確かに、ジャズは多彩なフレージングで組み立てられているという側面もあります。

と同時に、フレーズや間の一貫性に支えられている面もあります。

あえてどのどちらがジャズかというと、後者になります。

つまり、極論すればジャズのアドリブとは同じフレーズ(間)を使うことであると言っていいでしょう。

ただし、そこにジャズ独特の哲学があるため、表面的には多彩で煌びやかに見えてしまうという特徴があります。

今回はそうしたヴェールを剥ぎ取り、ジャズのアドリブの本質である<一貫性>について解説したいと思います。

 

 

同じフレーズを使ったアドリブ例

まずは同じフレーズを使っているアドリブ例を聴いてみましょう。

 

  • No Blues/Wes Montgomery

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ウェス・モンゴメリー - Wikipedia

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「Smokin At The Halfnote」というアルバム収録のブルース曲です。

0:19辺りからウエスのソロ。

最初2コーラスは比較的自由に弾いています。

0:53辺りからジャブ的に同じフレーズを出しているのが分かります。

1:18から本領発揮。しつこいくらい同じフレーズを使い続けているのが分かります。

同じフレーズの3回目からよく聴くとドラムが食いついてきています。ウエスはそれを待っていたようです。

1:32から別のフレーズに変えてまた続けようとし、ちょっと失敗していますね。フックとなる箇所がどんどん移動しており、伴奏者も掴めないのか合わせに行こうとはしません(コーラスの後半、スネアだけ様子見で合わせていますね)。

それでもめげずに使い続け、次のコーラスの1:48からフレーズを立て直し「これでどうだ!」と使っていくと、ドラムがすぐに食いついてきました。

この先も同じように、しつこいくらい同じフレーズを使い、バンドを煽っていきます。

 

  • ST. THOMAS/Sonny Rollins

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ソニー・ロリンズ - Wikipedia

「Saxphone Colossus」収録曲。

St. Thomas

St. Thomas

  • Resurfaced Records
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0:55のソロの冒頭から、極端に短いフレーズを何度も何度も繰り返しています。

途中でジャズらしい流麗なフレージングに切り替えていますが、また最初のフレーズに戻ります。

 

 

  • A Love Supreme/John Coltrane

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ジョン・コルトレーン - Wikipedia

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コルトレーンが1965年にリリースした「A Love Supreme」収録。

A LOVE SUPREME

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1:04あたりからソロが始まります(正直ここがテーマなのかソロなのかよくわかりませんが、どっちにしてもアドリブです)。

一番最初に使ったフレーズをゆったりと崩しながら継続しているのが分かると思います。

2:06から今度は短いフレーズを怒濤のように繰り返します。

2:30辺りで一度完全に壊しますが、その後また同じフレーズが復活します。

細かく言うと、2:06からの3音のフレーズはソロのかなり初期にちょっと出てきて、その伏線として復活しているんですが、それは今は置いておき、とにかく同じフレーズを何度も繰り返し、そこから崩して、また同じフレーズ……というサイクルが理解できると思います。

 

  • Chitlins Con Carne/Kenny Burrell

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ケニー・バレル - Wikipedia

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「Midnight Blue」収録。

Midnight Blue

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こちらは同じフレーズというよりは同じ”間”を継続しています。

1:58辺りからソロに入りますが、フレーズと休符の間が基本同じに保たれたまましばらく続きます。

 

 

フレーズの繰り返しはジャズの入り口にしてゴール

上記を聴いてもらえれば分かる通り、フレーズ(間)の繰り返しは決して超初心者がなんちゃってでジャズっぽくアドリブするための方便ではありません。

ジャズの偉人たちがキャリアの頂点で残した名演にもふんだんに使われている技術です。

つまり、フレーズの繰り返しはジャズの入り口にしてゴールなのです。

ですから、とっかかりとしてひとつのフレーズを繰り返すことから始めるのは、最もジャズに適したアドリブの始め方だと言えます。

しかし、ジャズプレイヤーの多くはジャズを学ぶ過程で必ず一度は多彩さの虜になり、それを絶対視し、そこから抜け出せなくなってしまいます。

そうして「弾けてるけどなんか違う」「上手いけど聴いていて楽しくない」「何が言いたいのかわからない」というアドリブから先に進めなくなってしまいます。

その原因は同じフレーズ(間)の繰り返しというジャズに絶対必要な要素を無視しているからです。

なぜ同じフレーズの繰り返しを教えてもらえないのか?

ここまで読み進め、納得できた方はこう思うでしょう、

 

『同じフレーズの繰り返しがジャズの名演で行われていて、そんなに大事なら、なんで教本も先生も、ジャズプレイヤーもそれを教えてくれないの? 何冊も教本を読んだ、教室や学校に習いに行った、ワークショップに通った、動画を観あさった……でも誰でも教えてなかったよ』

 

確かに、ジャズを学んでいて、「同じフレーズを繰り返すことが大事だよ」と教わった方は恐らく皆無でしょう。

僕もアメリカ留学までしましたが、誰一人そんなことは教えてくれませんでした。

最終的に歴史的な名演を何度も聴き、「繰り返し」の存在を自分で発見しました。

ではなぜ誰も教えてくれないのか?

答えはシンプルです。

 

誰も気づいてないから

 

です。

僕自身最近まで信じられませんでしたが、近年になってそう確信しました。

ここ数年、僕よりもはるかに年上で、ジャズ歴(リスナー歴)で言うと30年40年という方に教えてきましたが、上記の同じフレーズを繰り返すということを話し、実際の例を教えると100%皆「知らなかった」と答えます。

プロのジャズミュージシャンでもほとんどは知らないか気づいていない、あるいは気づいてはいるけどスルーしていると思います。

なぜなら、ジャズ=多彩、多彩=ジャズというのが頭にすり込まれているからです。

同じフレーズを繰り返すことはもちろんアドリブのひとつのアプローチとして知っているけど、それがジャズの根幹だと思っている人はかなり少ないはずです。

実際、そこを追求しているジャズミュージシャンや講師を僕はいままで見たことがありません。

ただ、長年のジャズファンやジャズミュージシャンの名誉のために言っておくと、ジャズのアドリブにおけるフレーズの繰り返しは、実は結構分かり辛いものです。

上記は初心者でも分かりやすい例を挙げているだけで、他のケースはアドリブに埋もれて同じフレーズを繰り返していることが認識し辛くなっています。

多彩さのバイアスと同じフレーズであることの分かり辛さがあいまって、ジャズ=同じフレーズを繰り返すという認識は持ち辛くなってしまいます。

しかし、真にジャズのアドリブを理解し体得するためにはここを掘り起こして認識し、身につける必要があります。

 

では、上記の音源を使って、それぞれの繰り返しの意味を探っていきましょう。

 

 

No Blues/Wes Montgomery

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繰り返しポイント 1:18~

ウエスの繰り返しはほとんどがドラムとの会話です。

ドラムを煽ってバンド全体にドライブ感を出すことが目的でしょう。

だからフレーズを繰り返し始めると、必ずドラムがついてくるまで待ちます。

もちろん1回2回の繰り返しで次にいくこともありますが。

ウエスがフレーズを繰り返しはじめたらギターよりもドラムに注目しましょう。

ST. Thomas/Sonny Rollins

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繰り返しポイント 0:55~

ロリンズの繰り返しには責任感が垣間見えます。

なんでもないフレーズだからといってすぐに捨てて次にいくのではなく、自分が生み出したフレーズ、既に伴奏者やリスナーが認識したフレーズを責任を持って最後まで使い切るという姿勢が垣間見えます。

その分やや内向きで会話として成立し辛い(伴奏からすると読み辛い)面もありますが、それもロリンズの個性に昇華されています。

 

 

A Love Supreme

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繰り返しポイント 2:06~

 

コルトレーンは多彩さの代名詞のようなプレイヤーですが、やはり繰り返しも多用します。

ここまで分かりやすい例はあまりないと思いますが。

この曲の場合は、3音フレーズを繰り返すことで何か呪文を唱えているような魔術的な雰囲気を感じます。

この曲はコルトレーンが神からの啓示を受けて作ったとされるものでもあり、彼のキャリアの一つの頂点です。

3音フレーズをしつこいくらい繰り返すところで神に対し何かを捧げているような雰囲気があります。

さすがにこの境地はプロでも理解しがたいものがありますが、最上級のジャズのアドリブがただ単に多彩なだけではないという一例としてご理解ください。

Chitlins Con Carne/Kenny Burrell

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繰り返しポイント 1:58~

 

この曲の場合は”間”の繰り返しです。

これはいわゆる「コールアンドレスポンス」です。

分かりやすく言うと、合いの手を誘っています。

実際よく聞いてみると、フレーズの合間にギターが合いの手のようにコードを弾いているのが分かります。

この場合バレル本人がやってますが、本来は別の伴奏者が合いの手を入れてくるところです。

こうして合いの手を誘うような間を継続することで、ジャズ独特の音による会話を促しています。

 

 

極端な例を比較してみよう

ジャズにおける繰り返しの重要性や、その例はある程度理解してもらえたと思います。

とはいえ、繰り返すといってもずっとではないし、同時に多彩で流麗な面もあるのでまだ分かり辛いかもしれません。

そこで「多彩に弾く」「同じフレーズを繰り返す」の極端な例を示してみたいと思います。

 

  • 1、できるだけ同じフレーズを弾く

できるだけ同じフレーズを繰り返してアドリブしてみます。

ただしガチガチにフレーズを固めるのではなく、適度に崩しています。

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  • 2、毎回異なるフレーズを弾く

こちらは一度使ったフレーズは繰り返さず、すぐに新しいフレーズを弾いていきます。

上記と同じ3コーラスにする予定でしたが、勢い余って4コーラスやっています(深い意味はありません)。

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1はシンプルながらやりたいことが明確で、世界観もしっかり見えるので聴いていて安心感があると思います。

伴奏者もそういった世界観を感じ、じっくりとこのソロに付き合ってみようと思うはずです。

 

一方2は多彩さはあるもののフレーズを投げ売りしているような感じで、聴いていて『で、どれが使いたいの?何がしたいの?』とイライラしてきます。

伴奏者が心の中で早々と消化試合にするようなアドリブですね。

仮に2を多彩で格好いいと思う人がいたらジャズやアドリブを聴く量が足りません。

同じフレーズをどう使っていくか

さて、ここまで説明すると同じフレーズを繰り返すことの意義が分かっていただけたと思います。

問題はそれをどう行うのかです。

全く同じフレーズを全く同じ音使いで、同じ間で使い続けるわけにもいきません。

やはりアドリブなので、適度な崩しや、そこから次の展開、その次の展開なども必要になってきます。

もちろんどこかでジャズらしい流麗なフレーズも必要となるでしょう。

その辺をこれからじっくりと説明していくので、興味のある方は定期的にチェックしてください。

また、これらは八幡謙介ギター教室in横浜で教えているので、ギターに限らずジャズを演奏する方はよかったら一度習いにきてください。

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ジャズのアドリブをやってみよう3

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