八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ジャズのアドリブにおけるマンネリ化を防ぐ方法 ~手の内からの<逸脱>


八幡謙介ギター教室in横浜

このブログでも時々書いていたり、横浜ギター教室でもよく相談されることですが、ジャズのアドリブをしているとどうしてもマンネリ化が訪れます。

何を弾いてもだいたい同じ、悪くもないし成立はさせられるけど、別にいいとも思わない。

もっと違うことを弾いたり、大胆なアドリブがしたくて色々勉強してみるけど、いざ弾いてみるとやっぱりいつも通り……

初心者を脱却したあたりから誰にでも訪れるジャズの難題です。

横浜ギター教室ではこれの対策をかなり早くから行っています。

一言でいえば、手の内から半歩出るのです。 

 

ここで言う手の内とは、手癖や間の癖、既に習得しいつでも使えるものだけでアドリブすることです。

手の内で弾くと安心感、安定感があり、心地よく、失敗のリスクもかなり低い状態でアドリブを成立させられます。

と同時にマンネリになり、何度やってもだいたい同じソロになってしまいます。

じゃあ手の内から出ればいいということになりますが、いきなり知らないことを弾こうと思っても毎度毎度インスピレーションが湧くわけでもなく、失敗の怖さや不安を払拭するために知らず知らずのうちに手の内で弾いてしまっています。

もちろん完全に手の内から脱却し、インスピレーションのままに知らないことがどんどん弾ければいいのですが、それはなかなか難しいので、まずは手の内から半歩出ること目指します。

 

手の内から半歩出るとはどういうことでしょうか?

例えば手癖フレーズがあるとします。

仮に小節頭から2拍使うフレーズだとしましょう。

いつも通りこれを小節頭から弾くと、手の内で弾いていることになります。

そこで、同じフレーズなんですが、半拍早く弾き始めてみましょう。

すると、いつも通りのフレーズになりません。

そこでなんとかつじつまを合わせようとあたふたします。

そのあたふたの分不安だし、失敗するかもしれません。

しかし、同時にいつものマンネリ感とはひと味違うテイストになっているはずです。

また、フレーズを弾いたあと、いつもなら2拍程度休符を入れているとしましょう。

そしたら今度は、あえて3拍休んでみましょう。

するといつもの間ではなくなるので、次のフレーズが変化します。

その分あたふたしますが、新鮮味は出てくるでしょう。

このように、いつものフレーズ、いつもの間をほんのちょっとアレンジし、違和感や不安に耐えながらアドリブしていくことが手の内から半歩出るということです。

また、本ブログで言うところの<逸脱>です。

 

 

実際にやってみると分かりますが、手の内から半歩出てみただけでもとてつもない不安や恐怖、違和感に襲われます。

すると当然、プレイヤーはまた手の内に戻りたがります。

もちろん一旦いつものフレーズに度ってまたトライということもできますが、半歩外に出た状態を可能な限りキープする訓練をしていきます。

そうすると、自分が弾いたことのないフレーズ、使ったことのない間が増えていき、やがてマンネリを脱却することができます。

ここで重要なことは、違和感、恐怖感、嫌悪感などのマイナスの感覚に耐えるということです。

 

よくジャズミュージシャンや講師が「ジャズは難しくない、ただ気持ちよく弾けばいいだけ」と言いますが、これは嘘です。

そもそもジャズは黒人音楽であり異文化なので、日本人が気持ちよく弾いてもジャズにはなりません。

これは逆の例で考えればわかります。

日本の伝統的な文化をアメリカ人がアメリカ気質で気持ちよくやっても全然違うものになることは明白です。

異文化をきっちり学ぶと、必ず自国の文化との衝突が起こり、そこに違和感を覚えるはずです。

また、何かを気持ちよくやると、必ず自分の手の内で行うことになります。

自分が知っている範囲で、使いこなせる技だけを使い、自分が気持ちいいと思うことだけを無理なく行う……それを続けていると、必ずマンネリが訪れます。

だからジャズを気持ちよく弾いていると、必ずマンネリ状態にはまってしまうのです。

それを回避、あるいは脱却するためには手の内の気持ちよさ・心地よさをあえて捨て、そこから半歩出て違和感や恐怖感を感じながらアドリブをしていく必要があります。

私見ですが、「気持ちよく弾けばジャズになる」と言っている日本人は、どんなに大御所でも、どんなに上手くてもジャズが分かっていないし、芸術や人間に対する認識も薄っぺらいとしか言えません。 

 

僕はこのブログで、ジャズは<逸脱>の音楽だと言っていますが、それは今回の主題とも合致します。

今回は手の内からの<逸脱>として、半歩外に出てみて、よりアドリブをジャズ化していきます。

図にするとこのようになります。

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半円の中が手の内。

そこから<逸脱>すると未知の領域となりますが、いきなりそこに行っても何も出て来なかったり完全に失敗する可能性もあるので、とりあえず手の内の一歩外側、斜線のあたりを行ったり来たりしてみます。

それに慣れてくると、今度は斜線の範囲までが手の内となります。

その新しい手の内で弾いているとまたマンネリ化が起こるので、手の内が拡大したらまたその外側で弾くようにします。

それが次の図。

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このように、手の内が拡大し、安定して弾けることが増えてきたとしても、常にその外側に出ることを続けていけば、マンネリ化は防げます。

ただし、これはかなりきついです。

ずっと違和感、恐怖感、不安感を感じながら弾かないといけないので。

そういったマイナスの感覚に負け、「ジャズは気持ちよく弾いて楽しむもの」といった中身のない甘言に騙されてしまうと、あとはマンネリの中で変化のないアドリブを永遠に行うこととなります。

どっちが本当に楽しいか、選ぶのは自由ですが。