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「Enter Sandman」METALLICA 歌詞解説(英文/和訳)


八幡謙介ギター教室in横浜
Enter Sandman

www.youtube.com

1991年発売「METALLICA」(通称ブラックアルバム)収録曲。

楽曲の詳細はこちら エンター・サンドマン - Wikipedia

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アンダーラインが韻。

エミネムばりに韻を踏んでいるところにも注目。

メタルでは珍しい気がします。

サンドマン

元はドイツの伝承に登場する妖精で、眠気を誘う砂が入った袋を背負い、これをかけられると眠ってしまう。

夜更かしをする子に「サンドマンが来るぞ」と脅して寝かしつけるらしい。

A

Say your prayers, little one Don't forget, my son To include everyone

皆のために祈りを捧げよ、息子よ

 

I tuck you in, warm within Keep you free from sin

お前を暖かい中に寝かしつけ、原罪から解き放ってやる

 

'Til the sandman, he comes

サンドマンが来るまで…

 

【Say your prayers】祈りを捧げよ。

【little one】息子のこと。ここでは重複するので省略。

【To include everyone】直訳すると「皆も含めて」。

【tuck in】寝かしつける。

【sin】キリスト教の原罪。

【'til】untillの略。

 

父親が息子にお祈りをさせて、暖かい布団に入れてやり、寝かしつけているようです。

ほのぼのした家庭の様子が窺えますが、【'Til the sandman, he comes】で何やら不穏な空気が漂ってきます。

B

Sleep with one eye open

用心して眠れ

 

Gripping your pillow tight

枕をしっかり掴むんだ

 

【Sleep with one eye open】「用心して眠れ」という意味。

 

息子に忠告する父親。

「サンドマンが来てもパパが守ってやるぞ」的な台詞がないのが不安を掻き立てます。

サビ

Exit light

光が去り

 

Enter night

夜へと侵入する

 

Take my hand

手を取るんだ

 

We're off to never-never land

一緒にネバーランドへ行こう

 

【exit】動詞で「抜け出る」「退出する」「この世を去る」という意味

【off to】恐らくtake off toの略

【never-never land】「ピーターパン」に登場する異世界。歳を取らない国。和訳では「ネバーランド」だが、英語ではneverを二回繰り返す。

 

普通に読めば親子一緒に眠りにつくという描写ですが、どうしてもダークな印象が漂ってきます。

サンドマンについての説明が何もないところも恐いです。

A'

Something's wrong,

何かがおかしい

 

shut the light Heavy thoughts tonight

光を消すんだ、今夜は思考が重い

 

And they aren't of Snow White

それらは白雪姫(が登場するような話)じゃない

 

【Something's wrong】何かおかしい。口語でもよく使う。

【they】この場合はHeavy thoughtsにかかっている。

【aren't of】このofの使い方が不明。無視しても成立するのか?

 

2番に入り、1番の不穏な空気が弾けた感じがあります。

主人公は異変に気づき警戒します。

サンドマン、ネバーランドに続き白雪姫も登場し、ファンタジー感が増すと同時にダークさもまたじわじわと湧き上がってきます。

 

Dreams of war, dreams of liars Dreams of dragon's fire

戦争の夢、嘘つきの夢、龍が火を吹く夢

 

And of things that will bite, yeah

他にもいろいろ噛みついてくる

 

【and of】これも不明。たぶんofを無視してもいい気がする。

【will bite】bite=噛みつくだがwillと未来形になっていることに注目。

 

息子と眠りに入ったのに、なぜか思考が重く、いやなことがたくさん頭をよぎります。

B'

Sleep with one eye open

Gripping your pillow tight

 

同じ。

ただ、ここでは息子より自分に言い聞かせている感じがします。

サビ'

Exit light

Enter night

Take my hand

We're off to never-never land, yeah

 

同じ。

台詞

Now I lay me down to sleep 

今、私は眠りにつくにあたり

 

Pray the Lord my soul to keep

主に私の魂を捧げます

 

If I die before I wake

もし目が覚める前に私が死んだなら

 

Pray the Lord my soul to take

主よ、どうぞ私の魂をお納めください

 

【Lay me down】(自分を)横たわらせる=眠る。

【pray】祈る、願う。playと混同しがちなので注意。

【lord】主。自分が仕えている高貴な存在のこと。キリスト教ならキリストあるいは神。

 

キリスト教圏で子供が眠りにつく前に唱える祈りの言葉。

アメリカが起源とされているそうです。

なのでこのパートはメタリカ作詞ではない。

 

不穏な気配が漂ってきたので、もう一度神にお祈りを捧げているのでしょう。

C

Hush, little baby, don't say a word

静かに、何も言うな

 

And never mind that noise you heard

お前が聞いたノイズは気にするな

 

It's just the beasts under your bed

それはただの獣だ、ベッドの下にいる、

 

In your closet, in your head

クローゼットの中にいる、お前の頭の中にいる…

 

【hush】「シッ」に近い。

【little baby】この場合特に意味はない

 

ついに何かがベッドルームに侵入してきたようです。

そしてそれは、ベッドやクローゼット、頭の中にまで浸食してきます。

それを作中では【beast】としていますが、これが何なのか分からないところもちょっと恐いです。

恐らく獣のような危険な何かという意味でしょう。

サビ''

Exit light

光が去り

 

Enter night

夜へと侵入する

 

Grain of sand

砂粒が……

 

ここでようやくサンドマンを感じますが、父と息子は特に抵抗することもなく、そこから【never-never land】に向かっていきます。

サビ'''

Exit light

Enter night

Take my hand

We're off to never-never land, yeah

 

同じ

主題を読み解く

訳してみると意外と文学的な歌詞で、ちょっとエドガー・アラン・ポーの詩を彷彿とさせるものがあります。

それだけに文学に慣れていない人は普通に読んでも「?」でしょう。

 

まず本作のキーはサンドマンではなく、「眠り」にあります。

「眠り」はよく「死」に置き換えられます。

ちょうどポーの詞にも「The Sleeper」という作品があります。

The Sleeper | The Poetry Foundation

ポーはアメリカの古典文学ですし、ダークな世界観がメタルとも合うのでメタリカのメンバーも影響を受けていてもおかしくありません。

 

作中では眠りに就くことを「ネバーランドへ」と表現していますが、この「ネバーランド」は歳を取らない国で、そのまま死を連想させますよね?

そして、ネバーランドに向かう親子は神に祈り、神に魂を預ける準備ができています。

つまり、安らかに死のうとしているようです。

それを前提とすることでサンドマンの性格がなんとなく分かってきます。

 

2番に進むと、安らかな死を望んでいる父子に【戦争の夢、嘘つきの夢、龍が火を吹く夢】が噛みついてきます。

戦争は社会や国、嘘つきは人間、龍はファンタジーです。

つまり、この世のあらゆる物事がこの父子の眠り(=死)を邪魔してきます。

それは部屋の中に侵入し、やがて頭の中まで浸食してきます。

そして父子は不穏な空気とサンドマンの砂粒を感じながら、不安の中ネバーランドへと旅立っていきます。

どうやらサンドマンとはただ人を眠らせるのではなく、眠りに不安を与える存在、魂を神に捧げるのを邪魔する存在のようです。

 

ここまで読み解いてから改めてサンドマンとは何かを考えると、イメージと違ったものが見えてきます。

例えば、死を待つだけの病人や、死が唯一の希望であり覚悟ができているという人に対し、人道主義を振りかざして延命したり、「それでも生きろ」と無責任に告げる人たち……。

彼らはもしかしたらサンドマンなのかもしれません。

彼らは文字通り砂粒のようにあちこちに存在し、気が付けば自分たちの体にまとわりつき、正論や常識でこの父子のように死に最後の救いを求める人たちを苦しめてきます。

それは、ネバーランドに旅立つ覚悟のある人からすればモンスターのように恐ろしい存在かもしれません。

だから、サンドマンに見つからないようにひっそりとお祈りをすませ、旅だっていこう……

そういう悲しくも気高い父子の姿を、メタルらしいダークさ、皮肉、悲劇をもって描いた楽曲だといえるでしょう。

 

とまあこれは僕の解釈なので、興味を持った人は自分だけの「Enter  Sandman」を想像してみてください。

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