僕が横浜ギター教室でアドリブを教えるとき、必ず段取りを決めるようにしています。
段取りとは、大きく見るとソロ全体でどこに向かうか。
小さい範囲だと、1コーラス目はこう弾いて、2コーラス目はこうする、コーラスの境目はフレーズでまたぐ、できるだけ小節の頭から弾かない、などなど。
それをしておかないとアドリブは無茶苦茶になってしまいます。
「段取り」と言うと、アドリブにとってもっとも忌み嫌うべき概念のように思う人もいますが、そう考える人ははっきりいって勉強不足だと言わざるをえません。
一番分かりやすい例を挙げると、ウエス・モンゴメリのソロがあります。
ウエスは<短音→オクターブ奏法→コードソロ>といつも決まった段取りでソロを展開していきます。
また、多くのソロで、1コーラス目は抑え気味で2コーラス目からドライブするというような段取りもよく見られます。
逆に1コーラス目からフルスロットルで弾くというのもひとつの段取りでしょう。
リズム隊が2フィールからウォーキングに移行する、あるいは最初からウォーキングでというのも暗黙の段取りと言えるでしょう。
それらをある程度はその場で、しかしある程度は先に決めて進めていくとまとまったアドリブになります。
「即興」とはそのパーセンテージのことだと僕は解釈しています。
中には100%の即興もあるでしょうが、過去の名演や一流のプロのアドリブが全てそうだとは限りません。
ウエスは間違いなく段取りを組んでアドリブしているので、多くても即興要素は90%ぐらいとなるでしょう。
極論すれば、アドリブとは自分だけの段取りを構築することだとも言えます。
1コーラス目はペンタやキーのスケールでシンプルにはじめて、2コーラス目からコードトーンやテンションを足していく……などなど。
どこかの段階で特定の音符(16や3連)を強調するというのもあります。
そうした自分だけの段取りから自分らしいアドリブが生まれてくると僕は考えます。
「アドリブとはその瞬間のひらめきだ!」という神話を信じて何も考えずにただ弾いていると、あるレベルから必ず上達しなくなります。
ひらめきで弾こうとしているはずなのに、いつもいつも同じフレーズ、同じ展開でうんざりする、かといってどうやったら違うことができるのか分からない……
段取りを組むとそれがより助長されて同じことばかりやってしまう気がしますが、実際に教えてみると、むしろ自由度が増していき、生徒さんがより伸び伸びとアドリブしてくれます。
また、アドリブ中にいつもと違う自分を発見することの手助けにもなります。
土台がしっかりしているとその上に造れるものの自由度が増す、といったイメージです。
アドリブで行き詰まっている人は、アドリブ=瞬間のひらめきという神話は一度捨てて、アドリブの段取りについて考えてみましょう。
ちょっとかっこ悪い気がしますが、段取りを考えることで視野が広くなり、アドリブに新しい刺激が得られるはずです。