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政治を語るアーティストより政治を語らないアーティストの方がよっぽど政治巧者である


八幡謙介ギター教室in横浜

近年、アーティストや芸能人(以下総じてアーティスト)がSNSで政治を語る場面が増え、その都度議論となっています。

「アーティストが政治を語るな」

「いや、アーティストだって政治を語って当然」

個人的には後者の意見に賛成ですが、よくよく考えてみると、日本においては政治を語るアーティストは政治が下手で、政治を語らないアーティストの方がよっぽど政治的と言える気がします。

 

政治とは、一言でいえば関係性へのアクションです。

この関係性は伸縮します。

小さいものだと個人と個人、大きくなると国と国。

また、国と個人、会社と個人。

それらの関係性に対する全ての言動を「政治」と呼ぶことが可能です。

 

身近な例で考えてみましょう。

AグループとBグループがあり、それぞれは対立しています。

自分はどっちにも偏見はないけど、Aグループとよく遊んでいるからBグループとは距離を置いておいた方がいいかなと考え、近づかないようにする。

A君に告白され、気持ち的にはOKだけどA君は友達のBちゃんの元カレだから、Bちゃんとの今後の付き合いを見越してA君の告白は断る。

これが政治です。

 

 

今回のアーティストの話でいうと、政治的な出来事に対して自分はどういうスタンスを保つのか、そのスタンス自体が彼らが行う”政治(行為)”です。

 

当然ですが、アーティストが政治を語るのは自由です。

しかし、現代日本ではそれはかなり難しい政治(的行為)であることは確かでしょう。

有名人が好感度を下げず、ファクトもしっかり押さえて、炎上させず、仕事への影響も最小限に抑えて自由に政治を語るのは至難の技であると誰でも想像できます。

それを忘れて気軽に政治を語るのは政治(行為)が下手だと言わざるを得ません。

もちろん、下手だから政治について語るなということではありません。

ただ、それじゃ自分がダメージ食うだけなのにな……とは思います。 

 

あまりいい言い方ではありませんが、西川貴教さんは政治的なアーティストであると思います。

以前何かの番組で西川氏は台湾のことをしきりに「中国の台湾に行ってきまして…」「中国の台湾でライブが…」と何度も言っていました。

なんでわざわざ「中国の」と付けるのか?

”一つの中国”問題を知っている人なら分かると思いますが、中国は伝統的に台湾を中国の一部だと認識しています。

そうした”一つの中国”方針に反対するような国、団体、個人に対して厳しい措置をとることもあるようです。

だとしても、なんで西川氏がそこに配慮する発言をしたのか?

恐らく将来的な中国進出を狙っての布石でしょう。

日本のメディアでわざわざ「中国の台湾」と言ったのは、政治とエンタメが不可分である中国の実情を理解し、さらに中国と台湾のマーケットを比較した上で中国を選ぶという選択肢をした上での政治発言だと僕は捉えています。

その是非はともかく、これだけでも西川氏が政治が上手いアーティストであると言えるでしょう。

 

個人的に、政治を語らないという政治が上手いなと思うのは、花澤香菜さんです。

花澤さんはもう何年も前から中国に進出しており、あちらの音楽祭ではトリをつとめるほど人気があります。

僕は「ひとかな」(ラジオ)のリスナーなのですが、彼女はよく中国でのツアーなどの話をされますが、その中にほんの一言すら政治的な発言が含まれていません。

「台湾」という単語すら言わないように気を付けているように思われます。

また、中国の空港で機材のチェックをされ予定が遅れたり、ライブで機材トラブルがあっても体制や現地職員、現地スタッフの批判をせず、まるで天災に遭ったかのように上手に笑い話にしていました。

その他、時事問題や社会問題、国際情勢についても気を付けて触れないようにしている印象があります。

もちろん実力や容姿もありますが、それに加えてこれだけ注意して政治から距離を置くという政治を貫いているおかげで今の地位があるんだろうなと想像します。

 

政治を語るアーティストは前衛的で勇気がある、語らないアーティストは保守的で保身的……というのはあまりにも表面的な捉え方です。

保身的に政治的発言をするアーティストもいれば、ある種の気概をもって政治を語らないを貫くアーティストもいます。

語る/語らないだけではなく、その人の普段の言動や活動範囲を俯瞰で見てみると、そのアーティストのとっている政治が見えてくる場合があります。