八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

槇原敬之の歌詞で現代的なプロットを学ぼう


八幡謙介ギター教室in横浜

歌詞にはいろんなタイプがありますが、概ね物語が存在します。

主人公が何を考え、どう行動し、どこに着地するのか。

その仕組みのことを「プロット」と言います。

これは基本的に小説などで使われる用語なのですが、今回は歌詞に当てはめて考えてみたいと思います。

 

プロットは時代を反映します。

漫画で考えると分かります。

例えば、主人公の少年が冒険をしながら仲間や師匠と出会い、成長していく過程を最初からじっくりと描いていく……これが古いということは誰でも分かると思います。

つまり、プロットが古いということです。

初登場からいきなり最強!(いわゆる俺TUEEもの)だともっと現代的な匂いがします。ただしこれも2020年ではちょっと古くなってきていますが。

「呪術廻戦」は、修行と成長と実戦と世界観の提示と回想が全部同時に進行しているハイブリッドなプロットになっており、非常に現代性を感じます。

歌詞にもいろいろなプロットがあります。

「翼の折れたエンジェル」中村あゆみ 


中村あゆみ - 翼の折れたエンジェル

 

Thirteen ふたりは出会い

Fourteen 幼い心かたむけて

あいつにあずけた Fifteen

Sixteen はじめてのKiss

Seventeen はじめての朝

少しずつため息覚えたEighteen

(作詞:中村あゆみ 1985年 マイカルハミングバード)

 

80年代のヒット曲です。

このBメロの歌詞を見てみましょう。

この部分は、主人公と恋人の出会いから倦怠期までを時系列に従って順番に追っていくというプロットが採用されています。

とても分かりやすいですが、その分ちょっと単純で古くさい印象もあります。

他にも初まりから終わり(着地点)までを順番に追っていく構造の歌詞は沢山ありますが、いずれも古い作品が多いと思います。

湘南乃風の「純恋歌」は2006年リリースですが、プロットは時系列でちょっと古い匂いがします(あえてそうしているんでしょうが)。

youtu.be

そんな中、マッキーの歌詞だけは一線を画しています。

 

 

「もう恋なんてしない」槇原敬之 


槇原敬之 - もう恋なんてしない

 

君がいないとなんにもできないわけじゃないと

ヤカンを火にかけたけど 紅茶のありかが分からない

(作詞:槇原敬之 1992年 WEA Music)

 

こちらは冒頭部分です。

「君」が出ていったところからストーリーが始まり、それまでの経緯がごそっと省略されています。

君が出ていくまでのプロセスを考えてみると、

 

出会う

付き合う

同棲する

喧嘩する

出ていく

 

最低でもこれぐらいの出来事はあります(同棲していることは作中から読み取れる)。

もちろん、細かく見ればもっともっといろんなことがあるはずです。

本作は、これだけたくさんの情報を端折り、いきなり物語の佳境から始めています。

だから読んでる(聴いてる)方としては「何が起こったんだ?」と冒頭から引きこまれますし、行間の情報が豊かなのであれこれ想像して楽しむこともできます。

こちらは非常に現代的なプロットです。

漫画でいうと「進撃の巨人」のような、いきなり核心からはじまるタイプです。

では本作はいつリリースされたかというと、1992年、なんと今から約30年前です!

いかにマッキーが前衛的な感覚を持っていたかということが改めて分かります。

ちなみにマッキーはこの〈彼女が怒って出ていく〉というシーンからのスタートを他の作品でも使っています。

「どうしようもない僕に天使が降りてきた」


槇原敬之 - どうしようもない僕に天使が降りてきた

 

勢いよく閉まったドアで 舞い上がった枕の羽

今夜はついに彼女を 怒らせてしまった

(作詞:槇原敬之 1996年 river Way wea Japan) 

 

これも同じで、

 

 

出会う

付き合う

同棲する

怒らせる

 

 

という前提を省略し、いきなり彼女が出ていくところから始めています。

まったく同じパターンで2曲もシングルを書いているので、よっぽど強烈な実体験でもあったんでしょうか……。

ちなみに、この2曲は対になっているので歌詞を読み比べてみると面白いです。

「どうしようもない僕に天使が降りてきた」はある種「もう恋なんてしない」のアンサーソングのようにもなっています。

4年経ってマッキーの心の中で何かが変わり、どうしてもこの構造でもう一度書かないといけないことができたのでしょう。

そう考えると、自作に誠実なアーティストであると言えます。

 

 

「遠く遠く」

 

外苑の桜は咲き乱れ この頃になるといつでも

新幹線のホームに舞った 見えない花吹雪思い出す

(作詞:槇原敬之 1992年 WEA MUSIC)

 

さらっと読むと、桜の季節にちょっと思い出にふけっている青年の描写だと思いますが、実はこれも時間を短縮して提示しています。

 

この頃(桜の季節)になるといつでも←数年

新幹線のホームに舞った(略)←数年前上京したときに降り立ったホーム

 

要するに、自分は地方から上京してきて、そこから数年が経ったということを言いたいのです。

ということは、以下の情報をカットしています。

 

生い立ち

地方での生活振り

上京の意思

葛藤

家族に見送られ新幹線に乗るシーン

上京してからのとまどい、生活、仕事etc

 

これだけの情報をカットして行間に詰め込み、いきなり上京数年後からストーリーがスタートしています。

だからとてもスピーディかつ行間が豊かで、聞き応えのある歌になっているのでしょう。

これも非常に現代的なプロットだと言えます。

作詞する人は小説や漫画からプロットを学ぼう

作詞をしている人は、たぶん人の歌詞を読んで勉強していると思いますが、個人的にはそれよりも小説や漫画を沢山読んで、それらのプロットを学んだ方がいい歌詞が書けるのではないかと思います。

どれかひとつと言われたら、間違いなく「進撃の巨人」を挙げるでしょう。

もちろん、これ読んですぐに歌詞に生かせるということではないのですが。

進撃の巨人(1) (週刊少年マガジンコミックス)

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槇原敬之の音源