2023年11月26日、元ミッシェルのチバユウスケ氏が亡くなっていたそうです。
BUCK-TICKの櫻井さん、X JapanのHEATHさん、KANさんに続き、ミュージシャンの訃報が連続していて、さすがに何か感じざるを得ません。
SNSでは「ミュージシャンの人、頼むから健康診断受けてくれ」という悲痛な声も多いとか。
個人的にもプロ活動をはじめて1年程度の若い生徒さんが倒れたこともあって、ミュージシャンと健康というテーマを真剣に考えはじめています。
一般的には相次ぐミュージシャンの訃報を酒、煙草や不摂生と絡めて考えている人が多いようですが(もちろんそれもあるでしょうが)、個人的にはやや違うような気がします。
不摂生は何もミュージシャンに限ったことではないし、健康の代名詞のようなアスリートが意外な若さで亡くなるケースも多々見られます。
ミュージシャンは不摂生以外のもっと別な部分で不健康なのではないかと最近思えてきました。
いろいろ考えて、たぶんこれだろうなという結論は……
ストレス
です。
一般の方は、ミュージシャンというと好きなことやって面白おかしく人生を謳歌している自由人と思っているかもしれませんが、そんなことはありません。
ミュージシャンにはミュージシャンのストレスがあり、比べるものではないにせよ、もしかしたら一般職や他の芸術よりもストレスは多いのかもしれません。
そこで今回はミュージシャンがミュージシャンのストレスについて考えてみたいと思います。
初っぱなからヘヴィなことを言いますが、大抵のミュージシャンはミュージシャンである自分自身にストレスを感じています。
自分の演奏や楽曲、ミックスやアレンジなどに100%満足しているミュージシャンなんてこの世にいないでしょう。
どんなに売れているミュージシャンでも蓋を開けてみればコンプレックスの固まりで、「もっと上手くなりたいな」「なんで自分はこの程度なんだろう」「なんであの人みたいに弾けないのか」「こんな曲自分が作れたらな」と日々悩みながらミュージシャンをやっています。
しかもある程度の年齢を越えるともう自分が到達できるところや、一生かけても絶対に越えられない高みが見えてくるので、コンプレックスは絶望に近くなっていきます。
一生かけても自分はこんなもんか……と肩を落としながら、それでもできるだけ理想に近づけるように日々努力しているのがミュージシャンです。
そのストレスはかなりのものだと思われます。
ミュージシャンとしてステージに立つ人は、すべからく人前に出ることでストレスを受けています。
もちろん人前で演奏するのが好きで、やりたくてやっている人がほとんどでしょうが、だからといってストレスがないはずがありません。
一般職でも、たった5人の前でプレゼンするだけでも相当なストレスを感じますよね?
それが10人、100人、1000人となったときのことを想像してみましょう。
これに関しては舞台役者やプロアスリートなども同じかもしれません。
ミュージシャンは表に出る仕事の中でも制作に関わる比率がダントツに高いといえます。
タレントは基本100%プレイヤーだし、プロアスリートもそうでしょう。
役者さんはもプレイヤーの比率がかなり高いと思います。
一方で、画家や小説家、映画監督、などは基本ほぼ制作者ですよね。
が、ミュージシャンは多くの場合、プレイヤーであり制作者でもあります。
作詞・作曲をバンドや個人で行うのは当たり前、それに加えてアレンジやミックスまでする人もいます。
これは他のアーティストやタレント、その他表に出る人とかなり違うところではないでしょうか?
当然そこにかかるストレスは相当なものだと考えられます。
個人的にミュージシャンをやっていて一番辛かったのが移動です。
僕の場合は一番ライブをやっていたのはアメリカだったので、車で何時間も、時には1日がかりで移動するということがザラでした。
バンドに憧れている人は楽しそうと思うかもしれませんが、実際にツアーをやったことのあるミュージシャンと話すと9割は「辛かった」と言います。
僕が接した中でミュージシャンが引退する理由第一位は「ツアーの移動がしんどい」です。
余談ですが、僕は20代の頃よく旅行をしていて、飛行機に10数時間乗ったり、バスに12時間乗って移動などもしていました。
それが平気だったわけではありませんが、思い出すといい思い出になっています。
ただ、ツアーの移動に関してはしんどかったなあ…としか思えません。
「ライブがストレス」と言うと音楽ファンの人はがっかりするでしょうが、別に嫌々やっているという意味ではありません。
ジャンルにもよりますが、仮にライブで全く緊張しないとしても、大勢の観衆の前で90分~2時間程度、自分の命を燃やし尽くすようなパフォーマンスをすることが人体にストレスを与えないわけがありません。
そんなことを毎年何十回も、場合によっては100回以上やっていたらそらおかしくもなります。
たぶんこれは、ミュージシャンも意識していないストレスなんじゃないかと思います。
ライブはむしろオーディエンスからパワーを貰ってストレス発散になるというミュージシャンは多いと思います(実際にどうかは別として)。
ただ、レコーディングに関してはそうなるケースはかなりレア、というかたぶん皆無でしょう。
仮に全部自分が作った曲で、最高の機材に最高のスタッフが揃っていたとしても同じです。
レコーディングの恐怖は、自分の実力が見えてしまうことです。
ライブはある意味ノリや勢いでなんとかなりますが、レコーディングはそうはいきません。
何回やっても思った通りの歌やプレイにならない、理想の音が全然出ない、時間は刻刻と過ぎていき、焦れば焦るほど泥沼にはまり、だんだんスタジオが牢獄のように思えてきて逃げ出したくなったことがあるミュージシャンがほとんどではないでしょうか?
他のジャンルだとドラマや映画の撮影がこれに近いのではないかと思えます。
ただ状況にもよりますが、大勢スタッフや役者仲間がいて、外や大きなスタジオにセットを組んでやるのと、密閉された窓もない狭いスタジオで2~3名のスタッフと自分のみ、あるいは完全に一人でやるのはかなり気分が違う気がします。
ちなみにバンドでもレコーディングにメンバーが勢揃いすることは基本ありません。
改めて考えてみると、やはりミュージシャンは他のジャンルのアーティストよりもストレスを受けそうな気がします。
特に、ほとんどの場合、ミュージシャンはプレイヤー件制作者であるというところが決定的に違うのではないかと思います。
じゃあどうしたらいいかというと……たぶんどうにもできません。
突然楽曲を外注したらファンは戸惑ったり離れていくだろうし、音楽業界に金がないからたっぷりの予算をかけてのんびりレコーディングなんてのももう無理だし、常に他のアーティストと競争しているので休んでばっかりいたら忘れられてしまう……
ミュージシャンというのは、相当ストレスのかかる仕事だと改めて感じます。
そのストレスに酒や煙草などの負荷がかかると体は悲鳴を上げてしまうことが容易に想像できます。
そんな中できることは、可能な限り日々の疲れを取ることでしょうか。
毎日練習、リハーサル、本番、作曲、レコーディングなどで音楽漬けの方はこれを試してみて下さい。
最後に蛇足ですが、推しに生きていてもらいたい場合は、まずファンの方から不摂生を格好いいと思うのをやめましょう。
特にロックファン。
酒や煙草、もちろんドラッグなど、アーティストの不摂生を格好いいと思うファンはいまだに多いと思います。
アーティストは格好いいと言われたくて生きているので、当然ファンの「格好いい」が影響し、自分は不摂生をするべきだ、それが求められていると勘違いすることにもつながります。
アーティストはキラキラした自分を世に刻みつけることを目的に生きているので、伝説になれるのなら不摂生で死んでもいいといまだに思っている人は沢山いるでしょう。
それを逆手にとってファンの方から「酒や煙草をやめられないあなたはかっこ悪いです」「不摂生な姿がダサいのでファンやめます」と伝えればアーティストの意識も変わるのではないかと思います。
結局、音楽の不健康・不健全なところって、アーティストとファンが一体となって見てきた幻なんですよねえ……。
2023年末になって、ロックの衰退と共にようやくその幻が消えていきそうな空気が生まれはじめ、個人的にはいいことだと感じます。