八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

山﨑まさよしの「しんどい」発言をミュージシャンが解説してみる


八幡謙介ギター教室in横浜

山崎まさよし氏がライブで8曲しか歌わなくて炎上した件について書きましたが、

k-yahata.hatenablog.com

やや書き足りないことがあったので足しておきます。

それはミュージシャンと疲労についてです。

ミュージシャンじゃないと分からないことが多いと思うので。

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歌うのってしんどい

再引用すると、件のライブを観覧した方が書いたこちらの記事によれば、山﨑氏はライブ中何度も「歌うのってしんどい」「歌いたくない」と言っていたそうです。

note.com

これは一般の方が聞くと怠慢にしか聞こえないでしょう。

しかしミュージシャンからすると、表向きは賛同できないけど心の中では『わかるわかる』と誰もが頷いてしまうことでもあります。

特に一回でもツアーやったことのある人や音楽経験の長い人なら絶対そう思うはずです。

ただ、現役アーティストはファンの手前口が裂けてもそんなことは言えないので、僭越ながら音楽活動をやめた僕がミュージシャンを代表して音楽のしんどさ、ツアーのしんどさについて解説したいと思います。

音楽ファンの方は「へー、そうなのか…」とちょっとだけミュージシャンの苦労を理解してもらえれば幸いです。

 

 

そもそも、歌/演奏はしんどい

まず、歌を歌ったり楽器を演奏することは実はめちゃくちゃ体力を使います。

観ているだけでは分かり辛いようですが、人前で披露すること前提で歌や楽器を訓練したり、実際にステージでライブをすると、普通にスポーツをやるのと同じぐらい疲れます。

僕はカラオケは行かないので分かりませんが、たぶんカラオケで15曲歌ってもそこまでは疲れないでしょう。

でもステージで15曲歌うと、直後はもう動けないぐらい疲弊します。

音楽ってそれぐらいしんどいものなんです。

移動がしんどい

アマチュアでもやや遠くに遠征したり、ツアーを回ったりしたことがある人は、移動のしんどさを知っていると思います。

沢山の機材をかかえて車や新幹線で4時間5時間移動なんて当たり前、手ぶらで快適な環境で移動の際一眠りできるミュージシャンなんて一握りのトップアーティストだけで、ほとんどは狭い機材車でメンバーと交代で運転しながらの移動となります。

海外だと果てしない道を半日、1日かけて現場まで向かうなんてのもザラです(僕もアメリカで片道12時間移動とか経験しました)。

当然トラブルもあるし、メンバーもだんだんギスギスしてきます。

怖いなあ…と静かにしていると突然「ケン、お前は乗ってるだけでいいよなあ」とイヤミ言われたりしたのを思いだします…

 

 

ツアーがしんどい

そうして機材車に揺られて全国、あるいは海外ツアーを回ることが夢だというキッズも沢山いるでしょう。

まあ実際は地獄です。

僕の場合はアメリカ東海岸でのツアー(といっても最長4日程度)でしたが、移動の長さ、トラブル、メンバーの喧嘩などなど、ほとんど良い思い出はありません。

 

あと、ミュージシャン秘話としてここで暴露しておくと、ミュージシャンが引退する理由第一位は「ツアーがしんどい」です。

僕は仕事がらプロや元プロの人にも教えてき、本音や愚痴をたくさん聞いてきましたが、彼らが口を揃えて言うのが「ツアーがしんどい」です。

僕の中ではもはやテンプレになっていますが、意外とこれは表に出て来ない情報なんですよね。

ツアーの過酷さに耐えられなくてやめたとしても、元ファンに気を使って表では言わないのでしょう。

 

一方で移動大好き、ツアー大好き、1年のうちほとんどツアーに出てるけど楽しくて仕方ないという生粋のミュージシャンもいます。

僕がお世話になっている某先輩などは、大物ミュージシャンのツアーの中日に自分のライブを入れるほどの強者です。

結局パフォーミングアーティストとして生き残っている人はそういう人なのでしょう。

 

表向き「ツアー楽しみ!」「みんなと会えるのがうれしい」みたいに言ってるアーティストも、内心はしんどい、もうやめたいと思っている人も実はかなりいます。

ファンの方はいたわってあげましょう。

一方でツアーのしんどさをペラペラしゃべる現役アーティストはダサいなと思いますが。

そういうのを吐露するなら引退してからにしましょう。

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トラブルがしんどい

アマチュアバンドが組むツアーですらトラブルは日常茶飯事です。

それが有名アーティストともなれば予算、規模感、関わってくる人間、団体などが桁違いに増えるのでトラブルの数もぐんと増えるのは想像に難くありません。

どんなトラブルを抱えているにせよ、アーティストは表に出て演奏しないといけません。

なぜなら、基本お客さんにはそのトラブルは見えないし、関係ないからです。

演者にはトラブルに見舞われたしんどさと、それを隠さないといけないしんどさがついてまわります。

また、そうしたトラブルによってライブに支障が出てしまうと、アーティストが批判の矢面に立たされます。

これは相当しんどいでしょう。

 

 

同じことをずっとやるのがしんどい

アーティストは売れてしまうと同じことを求められるようになります。

ヒット曲を同じアレンジで、同じキーで、同じニュアンスで再現することを永遠に求められる、ちょっとでもアレンジを変えたりキーが下がったりしたら「なんか違う」「劣化した」と叩かれる、それが売れっ子の宿命です。

中にはジェフ・ベックやマイルス・デイビスのように進化した音楽性を示し続けることで人気を維持するアーティストもいますが、ほとんどは再現に終始することでファンをつなぎとめようとします。

これは地味にしんどいはずです。

世間やファンからは推すきっかけになった曲、はじめて聞いた思い出の曲、青春時代を彩るテーマソング、いつまでも色あせない云々と思われていたとしても、本人からしたら基本的にはそのときの自分の断片でしかなく、時が経つほどに過去の自分となっていきます。

もしかしたら本人の中では黒歴史となっている曲もあるかもしれません。

そんな10代20代の自分の断片を40になっても50になっても忠実に再現することを求められるのはかなりしんどいです。

郷ひろみさんのように、みんなが求めているひろみを還暦過ぎても演じ続けられる超人もいますが、ほとんどのアーティストは同じ曲を永遠に歌い続けることにうんざりしているはずです。

山﨑さんもそのモードに入っちゃったんじゃないでしょうか?

「いつでも探しているよ~」と歌いながら内心は『もう探してへんっちゅうねん!』とうんざりしながら歌っていたのかもしれません。

それが「しんどい」「歌いたくない」の真相なのかも……

だとしたらミュージシャンとしては分からなくもありません。

パフォーマンスがしんどい

最後に、歌や演奏を普通にこなすだけでもスポーツ並にしんどいのですが、それらを観客の心に届くレベルでパフォーマンスするとなるとさらに負荷が高まります。

といっても、踊ったり飛び跳ねたりシャウトしたりとかそういう負荷ではありません。

なんというか、気を入れるみたいな感じでしょうか。

いい歌をとどける、いい演奏をする、それが一番しんどいです。

もしかしたら上記の全部よりもこれが一番しんどいかもしれません。

個人的には山﨑氏はこれに疲れたのではないでしょうか。

体験ブログにも山﨑氏の歌や演奏には明らかに気が抜けていたと書かれてありますし。

活動は続ける、またいい曲も作るしライブもやる、でも一回だけちょっと気を抜かせてほしい、そのかわりトークで楽しませるから、だから今回だけは……

それがどうにも上手くいかず炎上したのではないか……

音楽はしんどい

結論、音楽活動ってほんとしんどいんです。

僕が講師業を早くから目指したのもそれが大きな要因です。

今回の山﨑氏のライブを擁護するつもりはありませんが、推す方はそのへんをちょっとだけ理解してあげると、今後の推し活が楽になると思います。

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