このブログで何度か小山田圭吾氏の過去のいじめ騒動に関して書きました。
その後もいろんなブログやYOUTUBE動画などを観ていたのですが、どうやら小山田氏のいじめ内容について紹介したブログに改ざんがあったり、誤解や曲解が一人歩きしているらしいということがわかりました。
一応ものを書く人間でもあり、「ミュージシャンなんてそんなもん」と結論付けたとはいえ、首を突っ込んだ手前ここで終わるわけにはいかないと思い、とりあえずフリマで当該雑誌をポチりました。
旬が過ぎたからか値段は思った程つり上がっていませんでした(まあ、高かったけど)。
出版社:(株)ロッキングオン
「血と汗と涙のコーネリアス」にて生い立ちからデビューまでを語る中で過去のいじめを告白。
全体の中ではいじめの記事は5%ぐらい。
出版社:太田出版
「村上清のいじめ紀行」第一回にて過去のいじめを長々と告白。
こちらがいろんな意味で問題の記事。
村上氏は冒頭で、
ーーーーーーーーーーーーーーー(引用)
*ある学級では、”いじめる会”なるものが発足していた。この会は新聞を発行していた。あいつ(クラス一いじめられている男の子)とあいつ(クラス一いじめられている女の子)はデキている、といった記事を教室中に配布していた。
とか、
*髪を洗わなくていじめられていた少年がいた。確かに彼の髪は油っぽかった。誰かが彼の髪にライターで点火した。一瞬だが鮮やかに燃えた。
といった話を聞くと、
”いじめってエンターテイメント!?"
とか思ってドキドキする。
(同誌p52)
ーーーーーーーーーーーーーーー(引用終わり)
としています。
構成としては、
- 小山田氏へのインタビューの経緯
- 小山田氏インタビュー
- いじめられっ子への取材の経緯
- いじめられっ子とその家族への取材
これらが20ページにわたり掲載されています。
「いじめ紀行」当該記事では、小山田氏の
- ダウン症の人ってみんな同じ顔じゃないですか?(p65)
という発言の「同じ顔」に対して、欄外で、
- 目と目の間隔が開いている特有な顔貌、低い鼻筋、太い首など、本当に皆そっくりな顔をしている。『家庭医学大事典』小学館刊より。ダウン症の子供には、音楽を楽しむ子が多い。『家庭医学大百科』主婦の友社刊より。(p65欄外)
と注釈がなされています。
村上氏が小山田氏の「ダウン症の人は同じ顔」発言を、辞典を引いて補強しているように読めます。
というか、『家庭医学大事典』とやらに「本当に皆そっくりな顔をしている」と書いてあるんでしょうか?
果たして辞典が「本当に」という表現を使うのでしょうか……?
12ページほど障害者いじめの話が続いた後、村上氏のナレーションで、
- 以上が2人のいじめられっ子の話だ。この話をしてる部屋にいる人は、僕もカメラマンの森さんも赤田さんも北尾さんもみんな笑っている。残酷だけど、やっぱり笑っちゃう。まだまだ興味は尽きない。(p64)
とあります。
これを読むと、小山田氏より編集部の方がよっぽど異常な気がします。
もちろん、この記述も本当かどうか定かではありませんが。
”いじめってエンターテイメント!?”というテーゼを立証するためにあえて膨らました描写かもしれないし。
さて、実際にこの二誌を手にして感じたことは、雑誌は雑誌ということです。
ネットで当該記事の引用あるいはスクショを読むのと、雑誌の中の一企画として読むのとではテイストが違いました。
特にQJの方は悪趣味雑誌の悪趣味な企画で、雑誌で読むとおよそここから何か真実をつかみ取ろうという気になりません。
ですから、僕のスタンスとして、これを犯罪の証拠とかいじめの証拠として扱うことはしません。
所詮雑誌は雑誌であり、創作物だからです。
ここに書いてあることを一言一句、それこそ「(笑)」まで本当に言ったことと断定できないし、かといって全部嘘とも言えない。
どこまでが本人の言葉でどこまで編集者が手を加えてるのかもわからない。
そうした創作物を読んで個人の人格を特定したり、過去のいじめや犯罪を一方的に断罪はできないと感じました。
障害者に対する偏見や差別、いじめ、暴行等はあって、小山田氏がそのいじめる側に属していたというのは間違いないとは思いますが。
雑誌を読んで改めて言えることは、「いじめ紀行」という企画自体が失敗に終わっているということです。
既に引用しましたが、本企画は”いじめってエンターテイメント!?"というテーゼから出発しています。
そして、編集者の都合通り小山田氏は障害者の容姿や彼らへの暴力から得られる反応を”エンタメ”として語っていくのですが(この都合の良さもしっかり認識しておく必要がある)、完全に読者不在で悪趣味な内輪ノリに終始しており、エンタメとして成立していません。
また、全部読めばわかりますが、企画は尻切れとんぼのように終わっていて、結論もないし、主題も全く見えてきません。
読み物としては破綻しています。
余談ですが、僕は90年代に思春期を迎えた生粋の90年代っ子ですが、当時でもいじめをエンタメとして茶化したり楽しんだりするムーブメントは一切存在しませんでした。
だからこそ村上氏はそうした流れを作り出したかったのかもしれませんが、それは見事に失敗し、こんにちの大炎上につながっています。
小山田氏非難はもっともで、擁護する必要は全くないと思いますが、それと同じぐらい村上氏も非難されるべきでしょう。
既に言った通り、本企画は”いじめってエンターテイメント!?"というテーゼの元に取材とインタビューが進められています。
そして、なぜかその企画通りに小山田氏はいじめや偏見を「エンターテイメント」とし、嬉々として語ります。
ちゃんと全部読めばわかりますが、インタビュー中小山田氏はいじめ自慢や不良自慢、武勇伝として障害者へのいじめや暴行行為を語っているのではなく、それらをエンタメとして楽しんでいたと語ります。
なんか都合よすぎませんか?
あまりにも企画の趣旨と合いすぎている……
「いじめはエンターテイメントではないか?」と考える音楽ライターの前に、いじめをエンターテイメントとして楽しんでいたミュージシャンがいきなり現れるなんてことがありますかね?
しかも、インタビュー直前まで村上氏と小山田氏は面識がなかったそうです(記事冒頭に初対面の記述あり)。
何度も言いますが、だからといっていじめや暴行はなかったとは思えないし、確実にあったんだろうけど、雑誌に書かれてある小山田氏の発言を100%事実とするのは無理があると思われます。
じゃあどこまでが創作か、どこまで本当か、それは小山田氏と村上氏以外にはわかりようがありません。
こちらの動画での吉田豪氏の発言(5:00あたり)によると、Rockin' On Japanには原稿チェックがないそうです。
当時から活動する音楽系ライターの吉田豪氏が言っているので間違いないでしょう。
QJもそうなのかは不明。
小山田氏のいじめ(暴行)に関しては9割がQJ掲載。
あと、村上氏は当時新人ライターだったそうです。
最後に、当該雑誌を読んだ上で本件を自分なりにまとめます。
- 悪趣味音楽雑誌の新人ライターが立てた悪趣味な企画に、悪趣味なミュージシャンがまんまと利用されてしまい悪趣味な告白をした。
- 雑誌自体低俗で企画もぐだぐだなのでどこまで本当かはわからないし、事件性を証明するほどの資料価値はない。
- 小山田氏にも村上氏にも障害者への差別感情がある。
- 小山田氏が過去に障害者いじめ、暴行等を行ったことは間違いないようだが、具体的に何をやったか、そのときの詳細な感情はこの雑誌だけではわからない(告白の何が事実で何が嘘かを証明できない)。
- いじめ=エンターテイメントと考えていたのは村上氏で、小山田氏がいじめ(暴行)を行っていた当時そう考えていたかは疑問。
- 90年代の悪趣味文化に「いじめ=エンターテイメント」という風潮はなかった。
- 当該記事だけ読むのと、雑誌として読むのでは印象が全く違う。
ちゃんと雑誌を入手し読んだ上で再考すると、よけいにもやもやしたところに着地してしまいました。
納得できない人は自分で当該雑誌を入手し、全体の中で読むことをおすすめします。
追記:本件の総括本レビュー。