Room335の解説をしていくにあたって、まずはラリー・カールトンについて勉強してみようと思い、資料を検索していると、ちょうどTBSの「SONG TO SOUL」という番組で「Room335 ラリー・カールトン特集」というのを発見しました。
ラリーや当時の演奏メンバーが70年代のLAセッションシーン、Room335レコーディング秘話などを語っている内容です。
文末に「*」マークがある箇所は番組で語られている内容です。
番組HPは記事末リンク参照。
略歴
1948年カリフォルニア生まれ。
2023年現在で75歳。
10歳からギターをはじめる*(Wikipediaには6歳と記載)。
当時のアイドルはカントリーギタリストのジョー・メイフィス。
50年代~60年代はロックに傾倒*。
1966年~68年にLAハーバーカレッジ、68年~70年までロングビーチ州立大学で音楽を専攻。
1968年にソロデビュー。
その後STEELY DAN、JAZZ CRUSADERSをはじめ様々なセッションワークやソロ活動で世界的ギタリストとなる。
フュージョンギターの第一人者。
1948年生まれというラリーの年代を考察してみましょう。
50年代(2歳~11歳)
音楽ではジャズ黄金期。
今日名盤とされている数多くの音源がリリースされました。
また、黒人のローカルミュージックであったブルースもアメリカ全土に広がりを見せはじめた時代です。
そして50年代はロックという新しい音楽が産声を挙げます。
ラリーがギターを始めたとされる1958年にはチャック・ベリーの「Johnny B Good」がヒットします。
ジャズ、ロック、ブルース、カントリーなど、様々な音楽がラリー少年の心を刺激したようですね。
カリフォルニアは昔から自由な気風があったので、白人が黒人の音楽を聴いたり演奏することにも抵抗はなかったのでしょう。
両親もそういう人だったのかもしれません。
エレキギターも50年代から黄金期に入るので、ギタリストとしてはとても恵まれた時代に育ったと言えるでしょう。
60年代(12歳~21歳)
ラリー少年の思春期~青年期。
アメリカはベトナム戦争まっただ中で、泥沼へと進んでいき、全米に反戦ムードが広がります。
公民権運動も盛んだった時代です。
60年代後半からはヒッピームーブメントが起こり、若者の意識に変革が訪れます。
音楽はジャズが衰退し、ファンクが生まれ、ブリティッシュロックが隆盛したりと、より細分化されていきます。
ラリーはこの激動の時代に少年~青年へと成長します。
恐らく社会や文化のあちこちで破壊、変革、融合、再構築という現象を目の当たりにし、それが彼の音楽観やスタイルの基礎となっていったのではないかと思われます。
70年代(22歳~31歳)
この時代のハリウッドには、全てのコーナーにスタジオがあると言われるほど音楽産業が盛んだったそうです*。
同時に、ジャズ以外のリズムで即興演奏を繰り広げるフュージョンが流行。
そんな中、ラリーはジョー・サンプルに誘われ、伝説的なフュージョンバンドJazz Crusadersのファーストアルバムにゲスト参加(1972年)、後に正式にメンバーとなります。
76年(28歳)までバンドに在籍し、キャリアや音楽性の基礎を築きます。
同時にセッションミュージシャンとして多くの楽曲にも参加。
そして1978年、リーダーアルバムとして「夜の彷徨」をリリースします。
Room335はその1曲目。
1978年(30歳)にリリースした「夜の彷徨」収録1曲目。
Room335という名前の由来は、ラリーが愛用しているギターGIBSON ES-335に由来するらしいです。
GIBSON ES-335
ちなみに、元々は「Room314」と題されていたのを後に335に変更*。
では1978年の音楽シーンを見てみましょう。
70年代アメリカは空前のディスコブームだったようで、77年公開の「サタデーナイト・フィーバー」がその象徴。
アメリカでは映画の挿入歌を歌ったBeegeesが人気絶頂だったようで、「Stayin' Alive」がヒットしたそうです。
うーん、なんだろうこのダサさ……
ちなみに、Beegeesの3人は兄弟で、さらに歳の離れた弟のアンディ・ギブもアイドル的な人気だったとか。
こちらも1978年のヒット曲。
ディスコといえばCHICKの「Le Freak」がギタリスト的には有名ですが、こちらも1978年の楽曲です。
あーなんかRoom335のサウンドに通じるものはありますね。
これが70年代後半のサウンドなのでしょうか?
ロックではVan Halenの「炎の導火線」が78年リリース。
こちらはディスコブームとは全然関係ないですね……。
ディスコに嫌気がさしていたロックキッズたちはさぞかし喜んで飛びついたことでしょう。
他にも今となっては伝説的なアーティストが次々とアルバムをリリースしていた年らしく、ディスコブームに押されつつも音楽的には結構混沌としていたような印象。
そんな中にRoom335を位置付けて捉えるとまた違った味わいがあるのではないかと思います。
簡単に言うといろんな要素が融合しながらもそれぞれの要素の美点がいささかも損なわれていないところでしょうか。
ロック的でもありジャズ的でもあり、ブルージィでもあり、ポップでもある。
また、そのどれでもないけどどの要素も光ってるという希有な楽曲です。
普通は何をやっても地金が出るもんなんですが、カールトンの場合全部が超一流で、しかもそれらを混ぜても中途半端にならないところが凄いです。
ちなみに個人的にはカールトン以外のフュージョンギタリストは、何やってもパっとしないという中途半端な印象しかありません。
あと、ギタートーンがそれまでの文脈と全く違うというのも当時のギターキッズは驚いたようですね。
1978年といえばもうハードロックなども出てきていますが、そういった荒々しいディストーションサウンドでもなく、60年代ロックの踏襲でもなく、もちろんジャズやブルースとも違う新しいトーンだったようです。
上品で知的、でも内なる情熱や荒々しさも秘めているという新しいトーンに魅了されたキッズは世界中にいて、今も量産されているようですね。
*出典:BS-TBS「SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜」|「Room335」ラリー・カールトン