*マークの出典は全て「SONG TO SOUL Room335/ラリー・カールトン」。リンクは記事末参照。
まず有名なAメロのフレーズを見てみましょう。
知っている人も多いと思うので譜面は省略。
ギター的にはかなり分かりやすいペンタトニックフレーズです。
これをAメジャーペンタと解釈するか、F#マイナーペンタと解釈するかで意見が分かれそうです。
結果的にどっちでも音は一緒なんですが、フレージングとしてややF#の雰囲気が強いのでここではF#マイナーペンタとしておきましょう。
Room335のAメロを弾いて、『ベタなペンタのはずなのになんでこんなに泥臭さがなくて洗練された印象になるんだろう?』と思った方は多いと思います。
なぜでしょう?
カールトンが弾いてるから?
フレージングがベタなブルースやロックとは違うから?
16ビートだから?
……どれも違います。
実はこのAメロの洗練された雰囲気は、アレンジに仕掛けられたギミックによって意図的に生み出されたものなのです。
以下、それを紐解いていきましょう。
まずおさらいとして、イントロはキーがAでありながら、ベースラインのF#によってDの匂いが強く漂っていることを思い出してください(E♭7もややその助けになっている)。
このF#の音はAメロからは消えていますが(理由は後述)、それでも一度イントロで強く印象付けられたDの匂いはそう簡単には消えません。
ということは、このAメロはある意味Dキーの中でF#マイナーペンタのフレーズを弾いているということになります。
それが何を意味するのかを見ていきましょう。
以下はDメジャースケールとF#マイナーペンタの構成音を比較した図になっています。
正確にはD Lydianと比較するべきかもしれませんが、今回は分かりやすくするためこうしています。
見ての通り、F#マイナーペンタの構成音は全てDメジャースケール内に存在しています。
しかも2度(9th)、3度、5度、6度、7度とオイシイ音ばかりです。
つまり、Dのキーで単純なF#マイナーペンタを弾くだけで、Dメジャーの構成音をしっかりと捉え、なおかつF#マイナーペンタの泥臭さもブレンドされるということです。
ここで改めてイントロ~Aメロのキーについて考えてみましょう。
もしここでDではなくAのキーを強く出していたとしたら。
AキーにF#マイナーペンタというごくごく単純なアプローチにしかなりません。
おそらくRoom335がリリースされた1978年ですらもうやりつくされて誰もが聞き飽きたサウンドにしかならなかったでしょう。
何より、AキーにF#マイナーペンタでは何も「フュージョン」していません。
ですからここはDキーの匂いを強く出す必要がどうしてもあったんだと思います。
このように、キーやコードと異なる構造のハーモニーやスケールをアッパー・ストラクチャーと言います。
コードであればアッパー・ストラクチャー・コード、ペンタトニック・スケールであればアッパ-・ストラクチャー・ペンタトニックとなります。
Room335ではキーD(の匂い)の上にF#マイナーペンタを弾いているので、これをアッパー・ストラクチャー・ペンタトニックと捉えることができるでしょう。
さて、既に述べたようにAメロに入るとベースはF#の音を弾かなくなっています。
せっかくF#でDの匂いを出していたのに、まだまだそれが必要なAメロでなんでやめてしまったのか?
理由は簡単です。
AメロでベースがF#を弾くと、F#マイナーペンタがF#マイナーペンタに聞こえてしまうからです。
これを流れで確認してみましょう。
イントロ
コード進行としてはAに終止していくパターン。
そこにベースがF#音を多用し、Dの匂いを強く出す。
イントロではF#マイナーペンタフレーズはまだ出てこないので、ベースがF#を弾くとDの匂いが強まる。
A7ではなくE♭7を使うことでDへの終止感も強まる。
Aメロ
テーマのフレーズはF#マイナーペンタ。
イントロでDの匂いをしっかりと出しているため、Dに対するアッパー・ストラクチャーとしてF#マイナーペンタが機能する。
ベースはここでF#を弾くのをやめる。
イントロでの匂い付けが効いているので、サウンドはDキーにF#マイナーペンタのアッパー・ストラクチャーに聞こえる。
イントロからAメロだけでもこれだけ複雑なギミックが仕掛けられているのです。
*出典BS-TBS「SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜」|「Room335」ラリー・カールトン