近年、どうやら譜面を書けない人が増えているようです。
やや正確に言うと、譜面とは呼べない情報不足のものを「譜面」として提示することが半ば当たり前のようになっているように感じます。
同時に、ちゃんとした譜面が書きたい、書き方を教えて欲しいというニーズも感じます。
そこでこのブログで譜面の書き方をレクチャーしていこうと思います。
その前に「譜面って何なの?」「必要なの?」「音符読めないんだけど…」「なんで書けた方がいいの?」「プロになるには必須?」などなどの疑問があると思うので、基本的な情報からお話していきます。
譜面とは、楽器を演奏するための記号や、演奏に必要な情報が掲載されたものの総称です。
楽譜ともいいますが、音楽の世界ではどちらかというと「譜面」の方が一般的な呼称となるのでこちらで通します。
英語ではScoreといい、これは和製英語のスコアと同じです。
さて、ひとくちに譜面と言っても様々な種類があります。
まずは比較的よくある譜面をご紹介しましょう。
総譜、バンドスコア
全ての楽器の演奏が記載されている譜面。
バンドの場合バンドスコアと呼ぶことが一般的。
当然譜面は大きくて見辛い。
指揮者、アレンジャーなど、音楽そのものを監督する立場の人が見ることが多い。
パート譜
ギター、ベース、ドラムなどの各パートのために書かれた譜面。
それぞれのパートの特性に合わせた書き方がされていることが多い。
例えばギターならコード記号だけ書いてあって、いちいち和音を五線譜に記さない、など。
譜面を見ながら演奏することも多いので、機能的である必要がある。
リードシート
簡略化された総譜兼パート譜。
ほとんどの場合コードとメロディが書かれてあるだけ。
歌詞がついている場合もあれば、歌詞もメロディもなくコードのみの場合もある。
ミュージシャンはそれを見て自発的にアレンジし、演奏する。
ジャズ、ポップスなどで使われることが多い譜面の形式。
歌詞+コード
以前も書きましたが、
ネットに多い、歌詞の上にコードを書いているだけで小節すらないもの。
さらには歌詞すらなく、ただ紙にコードを並べただけのものを譜面とする人もいます。
詳しくは後述。
その他、ギターパートとメロディのみとか、ツインギターのみといった譜面もあります。
本シリーズでは「リードシート」が書けることを目標とします。
これが一番汎用性が高い譜面だからです。
さて、譜面といえばクラシック、クラシックといえば譜面というぐらい、クラシック音楽と譜面は切っても切れないものです。
ただ、ポピュラーミュージックとクラシックの譜面は、使っている記号こそ同じでも、中身や概念、そしてミュージシャンの譜面に対する姿勢は全くの別物です。
簡単に挙げると、
クラシック
・コードがない、コードという概念がない
・演奏記号が満載
・原則、譜面通りに弾く
・譜面に書いてないことはできない、やらない
・譜面は作曲家の絶対的な意思であり、聖典
ポピュラー
・コード中心
・演奏記号は極力最小限に
・そもそも譜面に情報が少ないので演奏内容は自分でクリエイトしないといけない
・譜面にないことをやってもいい(そっちが普通)
・譜面は作曲者のメモでしかない、あとよく間違っている
もちろん、本シリーズで取り上げる譜面は後者になります。
ではそもそも譜面とは何なんでしょう?
あえて定義すると、
楽曲を知らなくても最低限演奏可能な記号が記載されたもの
これが譜面だと言えそうです。
「はいこれ」と渡されて、そこにある記号を読み取っていくだけで最低限楽曲として成立するだけの情報が記載されていればそれを譜面と呼ぶことはできます。
逆に言えば、曲を知っていることが前提となるもの、情報が足りないものは譜面とは呼べません。
これに対して深く頷く人と、「曲聴いたら分かるじゃん」と反発する人に別れると思います。
そこで、一度譜面の意義について考えてみましょう。
譜面には多くのローカルルールが存在しますが、国や地域で全く違うということはありません。
譜面はミュージシャンの世界共通言語です。
国や人種が違っていても、ある程度正しい譜面を読み書きできれば、誰とでもセッションすることができます。
国内だけで考えても、正しい譜面であればどの世代のどんなミュージシャンとでも即座にセッション可能です。
それが歌詞+コードだけになったらどうなるでしょう?
まずその曲を知らなければアウトです。
また、これから知ろうとしても日本語の歌詞なら日本人以外は読めません。
仮に曲を知っていたとしても、正しい譜面を読める側からすると、小節や拍の情報がなければ読みにくくて仕方ありません。
せっかく譜面という世代や立場、人種を超えた共通語が存在するのに、わざわざ特殊な体裁の譜面(?)を使って村を形成し、外部とのコミュニケーションを遮断する必要はありません。
(正しい)譜面という世界共通言語が既に存在しているので、そっちを覚えることでぜひそれぞれの音楽世界を広げてもらいたいと願います。
とはいえ譜面というものは見慣れないルールが多く、覚えるのにはかなりの苦労が伴います。
そこらへんはできるだけ分かりやすく、必要ないものは大胆に端折って教えていくつもりです。
このブログでも譜面については何度か書きましたが、改めて述べておきます。
プロを目指している人が必ず考えるのが、「プロミュージシャンになるために譜面は読み書きできないといけないのか?」という問題。
答えは
プロになるために譜面は読み書きできないといけない。でも譜面の読み書きができるからプロになれるということはない。
です。
日本人ミュージシャンの譜面認識率は、海外から見れば信じられないほど高いことで有名です。
ミュージシャンがほぼ全員譜面が読めるというのは恐らくポピュラーミュージックでは日本だけでしょう。
それはどういうことかというと、譜面が読めるということが武器にならないということです。
読めて当たり前の世界なので「譜面が読めないとプロになれない」というのは概ね当たっていますが、それが転じて「譜面が読めたらプロになれる」と勘違いするとがっかりすることになります。
余談ですが、譜面が読めないプロもいるにはいます。
当然そういう人は、譜面が読めないというアドバンテージを補って余りある実力や魅力が備わっているのですが。
譜面は他者とのコミュニケーションツールですが、それだけではありません。
譜面を書くことは自身の音楽認識力を確実に向上させます。
譜面を書くことで、なんとなく理解していたフレーズの構造を論理的に把握できるようになり、それが自分のプレイに還元されるということは多々あります。
また、小節、拍、音符、休符を視覚的に捉えることで音楽にたいする認識を深めることも可能です。
さらには、譜面としては四分音符だが実際はそれより少しだけ長い/短いなど、譜面を書くことで譜面にできない微妙なニュアンスに気づくことも可能です。
譜面を正しく書く訓練をすることで、音楽に対する認識は確実に変わります。
最後に、本シリーズの「譜面」がどの程度の完成度を目指しているのかをはっきりさせておきましょう。
目標としては、
読譜力のあるプレイヤーが初見でロストせず最後まで追える譜面
とします。
ちなみに「ロストせず」というのは、譜面制作者の不備によって迷ったり疑問を持たせたりしないという意味です。
簡単に言うと現場で使える譜面ってことです。
では次回より実際に譜面の書き方をレクチャーしていきます。