2017年発売
unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN
作詞・作曲:あいみょん
「君はロックを聴かない」のポイントを先にまとめておきます。
ロックを否定的に捉える世代感
プロットの明快さ
主人公が一生懸命行動するところ
主人公のメンタルがちょっとヤバい
この辺を軸に歌詞を解説していきます。
いきなりサビに飛びますが、「君はロックなんか聴かないと思いながら」というフレーズは、ある年代以上の人をドキっとさせる力があります。
常に若者に寄り添って力を与えてきたロック、それを今の若い子も今の形で継承してくれていると当然のように思っていたのに、サビで「君はロックなんか聴かないよね」とさらりと歌われていて、衝撃を受けた大人はいっぱいいるでしょう。
ここで重要なのは、「ロックが若者に聴かれなくなった!もうこの世の終わりだ!」と嘆いているのではなく、至極当然のことのように「ロックなんか聴かないよね」と流していることです。
この歌詞の登場人物たちにとって、それは当たり前のことで、いちいち確認するほどのことでもないのです。
ここに強烈な世代感が現れています。
ついでに言うと、「なんか」とけなしているのに、とても爽やかに聞こえるのもポイントでしょう。
「君はロックを聴かない」には、シンプルだが効果的なプロットが立てられています。
プロットとは、小説を書くときに使われる言葉で、ストーリーの骨格とか目印のような意味です。
歌詞ではあんまり言わないかもしれません。
プロットが緻密だと作品が成立しやすくなりますが、同時にいかにも作者の都合で配置したような印象が残ります。
一方、プロットがゆるいと自由がききますが、そのせいで主題が割れたり、世界観が崩壊する可能性が出てきます。
では本作のプロットを見てみましょう。
Aメロ 招待
Aメロ2 準備
Bメロ 再生
サビ 主題 気持ちの表明
ではこのプロットに従って、最初のサビまで歌詞を見ていきましょう。
少し寂しそうな君に
こんな歌を聴かせよう
手を叩く合図 雑なサプライズ
僕なりの精一杯
(作詞:あいみょん。以下同)
主人公は「僕」なので男の子、ということは「君」は女の子です。
年代は特に書いてませんが、10代~20代前半の「ロックなんか聴かない」世代でしょう。
「僕」は気になっている女の子に歌を聴かせてあげようと、恐らく自宅に招待します。
いまどきの若い子ならiphoneで音楽聴くし、いきなり自宅じゃないんじゃないの?と思うかもしれませんが、次のセクションで「ドーナツ盤」(レコードの一種)とあるので、iphoneではありません。
レコードが試聴できる、それなりのオーディオ機材が揃っている場所になります。
詳しい場所の描写はありませんが、全体からは自宅っぽい感じがするので、ここではそうしておきます。
さて、意中の女の子を自宅に招くまで、相当紆余曲折あったはずですが、そこはきっちりと端折られています。
それもまた、行間から甘酸っぱい青春の感じがにじみでていて、歌詞を盛り上げて行きます。
埃まみれドーナツ盤には
あの日の夢が踊る
真面目に針を落とす
息を止めすぎたぜ
さあ腰を下ろしてよ
「あの日の夢が踊る」と言っているところから、音楽に思い出を持っている世代ということが想像できます。
高校生だと「あの日の夢」が中学生頃になるのでちょっと若すぎる気がします。
20代前半ぐらいでしょうか。
さて、レコードをプレイヤーにセッティングする主人公。
もしかしたら父親の大切なコレクションで、「勝手に使うなよ」と普段は言われているのかもしれません。
それに加えて、ついに意中の子に自分の好きな音楽を聴かせるときが来たのです。
緊張は極限に達しているでしょう。
僕が感心したのが「さあ腰を下ろしてよ」というところ。
この台詞があることで、これまで準備が全て整ったこと、そしていよいよあの子にロックを聴かせるぞ!というこの歌詞のプロットを進める推進力になっています。
小説的に行間を読むと、「さあ腰を下ろしてよ」ということは、主人公がレコードをセッティングしている間、彼女はまだ立っていたようです。
もしかしたら、レコードというものを生まれてはじめて目にしたのかもしれません。
興味深く、心配そうに主人公を見守る女の子。
一方主人公は、下手うってかっこ悪いところを見られたくないと余計に緊張したり、女の子が近くに来ていい匂いがして頭がくらくらしてきたのかもしれません。
そんな行間もたっぷり含まれた、とても力のある歌詞の一節となっています。
フツフツと鳴り出す青春の音
乾いたメロディで踊ろうよ
ついにレコードを再生しました。
ここはあんまり深い意味はありません。
読んだままです。
君はロックなんか聴かないと思いながら
少しでも僕に近づいてほしくて
ロックなんか聴かないと思うけれども
僕はこんな歌であんな歌で
恋を乗り越えてきた
サビで主題が爆発します。
この歌詞の主題は「承認」でしょう。
自分はロックというちょっと古くさい音楽でいろんな障壁を乗り越えてきた、その過程を君にも分かって欲しい!という歌です。
もちろん、「少し寂しそうな君」を励ましたいという気持ちや、この子への恋心もあるにはあるんでしょうが、それよりも、「俺とロックの関係を知って!」という欲求が強いw
冷静に考えればけっこうめんどくさいやつですね。
たぶんこの女の子には振られるでしょうw
少し前にいきものがかりの歌詞について、想いばかりで行動がないと批判的に書きましたが、
「君はロックをきかない」の主人公はしっかりと行動しています。
「君」に声をかけ、自宅に招待し、「ロックなんか聴かない」だろうと思いつつも一生懸命ロックの良さや、自分の想いを伝える主人公は、素直に応援できます。
これが、一人でロックを聴きながら君を想っているよ、いつかこの想いを伝えるよ(でもまだ行動はしていない)…といった内容だったら僕はスルーしていたでしょう。
主人公にちゃんと行動させる歌詞を書ける人は、意外と少ないと思います。
そういった意味であいみょんは希有な作詞家と言えるでしょう。
ただ…
ただ、どうしても気になる点があります。
それは主人公の人格です。
そもそも、君が「ロックなんか聴かない」と分かっていて、それでも聴かせようとするところが一方的でちょっと怖いです……
相手が興味なさそうだと分かったら、普通一歩引くと思うんですが…。
まあ百歩譲って、若さ故の暴走と肯定的に捉えてもいいでしょう。
でもそれならそれで、彼女がロックを楽しめるように聴かせてあげるべきです。
というか、そもそもが寂しそうな彼女を励ますつもりだったはず…
それなのにこいつは「俺はあんな歌やこんな歌で恋を乗り越えてきた」と、ロックにかこつけて自分語りしています。
なんて自己中なやつでしょう。
2番で「なぜ今笑うんだい?」とありますが、もしかすると彼女に『あーあ、こいつ女の子に自分語りしちゃってるよww』と見透かされたのかもしれません。
それでもやめないどころか、「恋人のように寄り添ってほしくて」と君への一方的な想いを暴走させる主人公。
なんか将来家庭を持ったら問題起こしそうな気がします……。
あいみょんがなんでこんな男を描いたのかは分かりません。
こういうダメ男が好きなのでしょうか……