八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

瞳を閉じて/平井堅 歌詞解説


八幡謙介ギター教室in横浜

瞳を閉じて

www.youtube.com

2004年

作詞・作曲:平井堅

デフスターレコーズ

瞳をとじて - Wikipedia

 

平井堅

https://kenhirai.jp/biography/Copyright © PINUPS artist All Rights Reserved.

 

 

Aメロ

朝目覚める度に 

 

【目覚める度に】なので、一度だけではありません。

何度も同じことが起こっています。

数日か、数週間ぐらいでしょうか。

 

君の抜け殻が横にいる

 

要するに、【君】とはもう別れたということです。

別れる前は【君】は毎朝目覚めたら【抜け殻】ではなく、ちゃんと横にいた=同棲していたと考えていいでしょう。

 

ぬくもりを感じた いつもの背中が冷たい

 

主語が抜けているので分かり辛いですが、主語を入れて書き直すと【君のぬくもりを感じたいつもの僕の背中が冷たい】となります。

ここでちょっと気になるのが、【ぬくもりを感じ】ているのが【背中】だという点です。

背中合わせで寝ていたということでしょう。

普通恋人や夫婦なら向かい合って寝ると思いますが、背中合わせで寝ていたということは上手くいっていなかったのでしょうか?

 

苦笑いをやめて

 

主人公の心情が表現されています。

【苦笑い】からどんな感情を読み取るかがポイントでしょう。

「いつまで引きずってんだ、俺は……」

「未練たらたらじゃねーか…」

と自虐し、早く恋人を忘れようという気持ちが感じられます。

 

重いカーテンを開けよう

 

【カーテン】という、そもそも重さを感じる存在ですらないものを【重い】と表現することで、主人公の疲労感を表現しています。

ついさっき【苦笑い】して自虐していたばかりですが、本当は【カーテン】を【重い】と感じるぐらい疲弊しています。

 

眩しすぎる朝日

 

「眩しい」ではなく【眩しすぎる】というのがポイントです。

ただ、本当に物理的に太陽が燦々と照っているのではないと思われます。

曲調からして真夏でもなさそうですしね。

【カーテン】を【重い】と感じるほど疲弊しきった主人公には、普通の朝日ですら【眩しすぎ】て刺激が強すぎるのでしょう。

できれば「普通の朝日だけど今の僕には眩しすぎる」ぐらいの表現になっていればもっと分かりやすかったかなと。

 

僕と毎日の追いかけっこだ

 

【毎日】とは、「恋人のいない毎日」ということです。

【追いかけっこ】という表現がやや分かり辛いですが、要するに恋人のいない毎日に戸惑っているということでしょう。

 

 

Bメロ

あの日 見せた泣き顔

 

過去に恋人を泣かせた記憶が蘇っています。

 

涙照らす夕陽肩のぬくもり

 

時間帯は夕方、【涙】は恐らく恋人のもの、主人公は恋人をなぐさめようとしているのか、肩を抱いているようです。

 

消し去ろうと願う度に心が体が 君を覚えている

 

この記憶は相当ショッキングな出来事だったのでしょう。

肩を抱いて話を聞いてあげていたようなので、喧嘩ではなさそうです。

とすれば別れ話でしょうか?

 

Your love forever

 

ここで【Your Love】と言っているのが気になります。

別れてもまだ相手の愛を感じられるということは、主人公のことを想って去っていったのでしょうか?

サビ

瞳をとじて 君を描くよ それだけでいい

 

ここで主人公は行動を放棄し、自分の妄想の中に閉じこもろうとします。

うーん、それでいいのか……

 

たとえ季節が僕の心を 置き去りにしても

 

【季節】=世の中、世のうつろいと考えられます。

主人公は、世の中から【置き去り】にされても、妄想の中に君がいればそれでいいと宣言します。

そ、そうなのか……大丈夫か?

なんか不安になってきました。

 

 

A'

いつかは君のこと なにも感じなくなるのかな

今の痛み抱いて 眠る方がまだ いいかな

 

1番で「世の中に置き去りにされても妄想の中に君がいればそれでいい!」と高らかに引きこもり宣言をした主人公でしたが、それでも時間が経てばさすがに忘れるかも?と考えます。

まだ正気が少し残っているようです。

一方で、君を忘れるぐらいなら【今の痛み抱いて眠る方がまだいいかな】と悲劇のヒーロー気分もしっかり残っています。

ここへきてこの主人公、相当イタイやつだということが分かってきました。

B'

あの日 見てた星空

 

主人公はまた恋人との思い出にふけっています。

二人で星空を観ていたことがあるようです。

 

願いかけて 二人探した光は瞬く間に消えてくのに心は 体は 君で輝いてる

 

「流れ星を見つけて二人でお願いごとをしよう」みたいなことを元恋人とやっていたようです。

客観的に想像するとなんかバ○ップルみたいでちょっと引きます。

そして、恐らく元恋人は完全に忘れているであろう思い出で主人公は一人輝きはじめます。

引きずってんなあ……

 

I wish forever

 

【あの日】の【願い】と、今の自分の想いよ、永遠に!ということでしょうか。

つまり、元恋人と寄りを戻したいということ?

ちょっとそこは分かりませんが、未練たらたらだということは間違いありません。

なんかAメロよりも気持ちが一方的になってきていてちょっと怖いです。

そもそも【あの日】の願いってもう相手は忘れているし、覚えていても今は絶対違いますからね…

相手の気持ちとかももうちょっと考えてあげてほしいです。

サビ'

瞳をとじて 君を描くよ それしか出来ない

 

そりゃそうでしょうよ。

行動しないし、相手の気持ちも考えないし。

自己分析だけは明晰ですが。

 

たとえ世界が僕を残して 過ぎ去ろうとしても

 

そしてまた引きこもり宣言。

もし彼が友達だったら『わかった、引きこもるのはもういい、お前の勝手だ、だがストーカーだけはやめろよ!相手には相手の人生があるんだし、な!』

と説得し、しばらく監視対象にするでしょう。

 

 

間奏

Uh... Always my love.

嗚呼、(君は)常に僕の愛する人

 

Your love and soul is in my heart.

君の愛と魂は僕の心の中に

 

You're my everything.

君は僕の全てだ

 

Uh... Oh….. Fu...

Your love forever

君の愛は永遠に…

 

世間から取り残され、瞳を閉じ、一人発光しながらこれを呟いている姿を想像するとゾっとします。

サビ''

瞳をとじて 君を描くよ それだけでいい

たとえ季節が僕を残して 色を変えようとも

記憶の中に君を探すよ それだけでいい

 

ここまではこれまでと同じです。

ただ、次が問題です。

 

なくしたものを 越える強さを 君がくれたから

君がくれたから

 

え?……どした??

今まで高らかに引きこもり宣言して、一人で思い出に浸って発光してただけなのに、なんで突然こんなことを言い出したのか意味がわかりません。

そもそもこの主人公、【なくしたものを越え】ようとなんて一度もしてませんでしたよね??

【瞳を閉じて/記憶の中に君を探す】ことが【なくしたものを越える】ことだとはどうしても思えないし。

あまりにも唐突な展開に頭がついていきません。

そこを踏まえてもう一度この歌詞について考えてみましょう。

 

 

美と大衆とJ-POP

「瞳を閉じて」の歌詞をしっかり読み解いていくと、主人公は未練たらたらのくせに行動には移さず、世の中から置き去りにされても妄想の中に君がいればいい!と宣言する引きこもり野郎であることが分かりました。

それはそれでいいんです。

失恋から世を捨て、妄想の中で破滅に向かっていく男……なんとも文学的ではありませんか。

そこに間違いなく美は存在します。

しかし、この曲はそうした美に突然蓋をして、【乗り越える強さを君がくれた】と突然なんかそれっぽいことを言って終わります。

最後の最後で明らかに詞の世界が破綻しています。

なぜそんなことをしたのか?

それはJ-POPの不文律に由来します。

 

以前「やさしさで溢れるように」の解説でも書きましたが、J-POPという音楽は耽美主義よりも公益性を重んじる傾向があります。

k-yahata.hatenablog.com

J-POPの常套句を思い出してみてください。

 

未来はきっとキラキラ輝いている

諦めなければ夢は叶う

掴んだ手を離さない

気持ちは必ず届く

笑顔の輪が広がる

絆は永遠に…

 

このように、音楽は社会や人にとって良きものでなければならないというのがJ-POPの不文律であり、あるべき(とされている)様です。

身も蓋もない言い方をすれば、そうじゃないと売れないんでしょう。

 

J-POPでは、引きこもりが世間を離れ一人元恋人の妄想の中に生きていくことは許されないのです。

だから最後の最後で唐突に【なくしたものを越える強さを君がくれた】と入れなければならなかったのでしょう。

これが大衆迎合というやつです。

そして、この曲は明らかに最後で世界観が破綻しているにもかかわらず、見事に大衆の心を掴み、大ヒットを記録しました、

そういった意味では最後の破綻には意味があると言えるでしょう。

余談ですが、「瞳を閉じて」も「やさしさで溢れるように」も亀田誠治プロデュースです。

では、破綻がなければどうか?

では破綻部分の、

 

なくしたものを 越える強さを 君がくれたから

君がくれたから

 

がなかったらどうでしょうか?

主人公の性格やストーリーはすっきりします。

しかし、主人公が世を捨てて元恋人との思い出に浸っていく先には、どうしても死の匂いが嗅ぎ取れます。

近しい文学作品でいうと「ヴェニスに死す」や、

もっと極端な例だとエドガー・アラン・ポーの詞とか。

瞳を閉じて元恋人との思い出に浸る主人公、世の流れも忘れ、友人からの連絡も無視し、食事も摂らず、痩せ衰えて最後には【瞳を閉じ】たままもう二度と開かなくなってしまった……でもその奥には元恋人の笑顔が……

もしかしたら、当初はそんな内容だったのかもしれません。

そもそもタイトルの「瞳を閉じて」からして死への暗喩を感じられます。

しかし、それではJ-POPにはならない、J-POPにそんな耽美主義は要らない!ということでもしかしたらプロデューサーの亀田氏が最後に主人公への救いを(半ば無理矢理)与えたのかもしれませんね。

そのことで、主人公が持っていた破滅や死の匂いが消え、日本の大衆がJ-POPに求める希望や社会性、公益性が付与され、結果大ヒットにつながったのではないかと推察します。

ただ、何度も言っている通り歌詞は間違いなく破綻しています。

そこをどう捉えるか?

破綻したことで売れたんならそれが正解というのも十分分かります。

一方で、売れたらなんでもいいのかというとそれも違う気がします。

 

余談ですが、この曲は単に好きなので取り上げただけだったんですが、歌詞にこんな重大な破綻があり、<芸術と大衆>という主題を孕んだ楽曲であったことは今回この記事を書くまで知りませんでした。

そういう意味で面白い曲ですね。

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