いきものがかりの歌詞は、一見キラキラとしてどこか淡く、透明感とおしつけがましくないポジティブさに溢れています。
しかし、その構造を掘り下げていくと作詞者水野良樹氏のずるさが垣間見えてきたので、ここで自説を述べておきたいと思います。
まずはいきものがかりの歌詞の基本的な構造を認識しましょう。
ご存じの通り、作詞は水野良樹、歌は吉岡聖恵です。
また、歌詞の主人公は女性であることが多いようです。
つまり、男性が作詞した女性主人公の歌を女性が歌っている、これがいきものがかりの歌詞の基本構造です。
この点をしっかりと覚えておいてください。
この構造のおかげで、いきものがかりのキラキラ感、淡い美しさが保たれていますが、同時にその奥にある水野氏のずるさ、童貞的妄想を掘り下げていくことが可能となっています。
【公式MV】
この曲の主題は「以心伝心」です。
「ありがとう」と心で思ったときには、もうその気持ちは相手に伝わっているよ、という歌です。
女性歌手が歌う女性主人公が、日本的な価値観である「以心伝心」を歌っており、そのつつましやかな大和撫子風の気遣いに理想の日本人女性像を描く人もいるでしょう。
しかし思い出してください、この女性主人公、男性が作っているんです。
そう考えると、なんだか都合のいいオンナだなーとしらけてくるのは僕だけでしょうか?
まるでラノベに出てくるハーレム女のような…
男性にとって、いちいち気持ちを言葉にしなくてもいい相手というのは、かなり楽だしある意味理想の女性なんですよね。
それを男性主人公目線で「ありがとうなんて俺はいちいち言わん! そう思ったときにはもう伝わっているはずだ!」と男性に歌わせると、あまりにもストレートでマッチョな楽曲になってしまい、下手すれば炎上します。
女性からすれば「こいつ、何もわかってねー……童貞かよw」と呆れてしまうでしょう。
ただ、少なくともそういう歌ならずるさは感じないと思います。
しかし水野氏は、男にとって都合の良いオンナを描き、しかもそれを女性に歌わせて、いかにもそれが女性側の総意であるかのように提示しています。
さらに表現の巧みさや楽曲の良さもあいまって、結構しっかり聴き込み、歌詞を読み込んだとしてもふわっと騙されてしまいます
この深層に到達させない力、表層のキラキラやポジティブさを簡単に突破させないある種の防御力は、まごうことなき水野氏の才能といえるでしょう(皮肉ではなく本当に凄いと思う)。
深層までの到達を期待し待ち続けるのが純文学なら、それを阻止していかに表層で泳がせ続けるかというのがJ-POPなのかもしれません。
もうひとつ、「ありがとう」の主人公の都合のよさが分かる箇所があります。
歌詞に「あなたの夢がいつからか ふたりの夢に変わっていた」という部分がありますが、ここもよく考えたらけっこうゲスいくだりですよね。
「あなたの夢」とは男性の夢でしょう。
それが「ふたりの夢」になったということは、女性が男性に合わせています。
この男性は、自分の夢を諦めずに、それを追っかけたままこの女性と付き合い、恐らく結婚したのでしょう。
しかも、行間からは、この女性がしぶしぶ男性の夢に付き合っているのではなく、献身的に協力している節がうかがえます。
なんて都合のいいオンナ!
頼んだらホイホイ金用意してきそうな気さえします……
さらっと読むと『なんて素敵な関係なんだろう』とうっとりしてしまいますが、作詞者が男性であることを考えれば、『何しれっと都合のいいオンナ用意してんだよw』と突っ込みたくなります。
しかし、ここもやはり歌手が女性であることで、あたかもこれが女性側の自発的な意志であるかのような雰囲気が醸し出され、男にとって都合のいいオンナ像は消えていきます。
これが僕にはどうしてもずるく感じてしまいます。
水野マジック!
こうした、よく読めば都合の良いオンナは、いきものがかりの歌詞に頻出します。