八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

横浜のギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ギターのフィンガリングで音質は変わるのか? 変わります!


八幡謙介ギター教室in横浜
フィンガリングでギターの音は変わる?

ピッキングでギターの音が変わることはちょっと弾いていれば誰でも分かります。

一方、フィンガリングで音が変わるかどうかは昔から議論になっていました。

僕の記憶では、パンテラの故ダイムバック・ダレルがフィンガリングで音が変わると雑誌か何かで言っていて、本当かなーと不思議に思っていた記憶があります。

その後このトピックはあまり深く考えてこなかったのですが、最近『あ、そういうことか』と気づいたので、書いておきます。

フィンガリングで音が変わる理由

結論から言うと、フィンガリングでギターの音は変わります。

正しいフィンガリングで弦とフレットの接触点と接触圧を増やすことによって、ギターがより多く振動し、結果音量と音質が向上します。

以下その理由を述べます。

前提をしっかり把握しないと本題に進めないので、飛ばさずに読んでください。

 

まずギターの発音の仕組みをおさらいしましょう。

ギターは弦を押さえ、その弦をピックや指で弾き、ギター全体を振動させることで発音されます(今回は開放弦についてはスルー)。

このときに、弦とギターの接触ポイントに注目しましょう。

ストラトであれば、

 

・ペグ

・ナット

・フレット

・ブリッジ

・ボディ

 

と接触しています。

レスポールなら、

 

・ペグ

・ナット

・フレット

・ブリッジ

・テールピース

 

となります。

弦は、ピッキングで受けた力(振動)をこれらの接触点からヘッドやネック、ボディに伝達し、その結果発音されます。

このとき、弦はフレット以外のパーツに対し固定されているので、それら(ペグやナット)に対しては常に一定の強さや面積で接触していることになります。

そして、弦とフレットだけ毎回接触する力や角度が変化します

「振動の伝達」という文脈でフィンガリングを捉えると

ギターのフィンガリングは、弦とフレットをしっかり接触させて、特定の音を発音可能にするための行為です。

それだけを考えると、出したい音程がちゃんと発音できたらOKということになります。

しかし、ここにもう一つ、あまり知られていないフィンガリングの役割があります。

それは、「振動の伝達」です。

フィンガリングを、「弦がピッキングにより受けた力をフレットに伝達する行為」と考えてみましょう。

もちろん、フレットだけでなく、そこからネック→ボディと振動は伝達していきます。

その入り口としてのフレットです。

そう考えると、新しいトピックが見えてきます。

1、接触点の再認識

ギターのフレットを押さえるとき、発音が目的であれば押さえたフレットと弦がしっかり接触していればOKとなります。

5フレットを押さえるなら、極端な話、5フレットと弦がしっかり接触していればそれで目的は達成されます。

では「振動の伝達」が目的の場合はどうでしょう?

ひとつのフレットしか接触しないよりも、ふたつのフレットと弦がしっかり接触していた方がより振動がギターに伝わりやすくなることは容易に想像できます。

より多くの振動をギターに伝えようとする場合、ここを考慮に入れる必要があります。

2、弦を押さえる力の方向

ピッキングによって弦が受けた振動をフレットにしっかりと伝えるためには、弦とフレットが一定の圧力で接触する必要があります。

そのためにはフィンガリングで押弦する力の方向を再考する必要があります。

このブログでも過去に何度か書きましたが、

k-yahata.hatenablog.com

再度「振動の伝達」という文脈で考えてみましょう。

間違った力の方向
  • a

赤い矢印がフィンガリングの力の方向です。

aではフレットに対し斜めに力が向かっています。

そうなると、力が逃げてしまい、弦とフレットの接触が甘くなります。

 

  • b

bはギターをブリッジ側から見た図。

握力を使って手を握るように押弦するとこの方向に力が加わります(矢印の色が違うのは以前作った画像を使っているだけなので深い意味はありません)。

こちらもフレットに対して力が逃げることが想像できます。

 

ではどうすればいいかというと、以前書いたようにフレットに対して真っ直ぐ力が向かうようにします。

そうすると力が逃げずに弦とフレットがしっかりと接触してくれます。

間違った押弦の位置

ギター界ではよく、フレットきわきわで弦を押さえることが推奨されます。

そうした教則本や動画なども多く存在しています。

僕は以前から技術敵な理由でこれに反対していましたが、「振動の伝達」という文脈から考えても、フレットきわきわで押弦するのはやはりおすすめできません。

 

cの位置で押弦するとしましょう。

確かに、体感的にはやや押さえやすくなった気もします。

また、今回は真っ直ぐ押さえているので、力も逃げていません。

しかし「振動の伝達」としてはどうでしょうか?

仮にcで5フレットを押弦しているとしましょう。

こんなきわきわで押さえていたら、4フレットと弦の接触は確実に弱まります。

さすがに4フレットに接触しないということはないにしても、接触が弱まることで確実に振動の伝達も弱くなります。

改めて考えるとこの方法は、音が悪くなるフィンガリングだと言えるでしょう。

これを大々的に推奨している人は反省してください。

 

さらに、5フレットに対してdのように斜めに押弦したらどうなるでしょう?

4フレットへの接触はさらに少なくなり、せっかくの弦の振動がより伝わらなくなってしまいます。

これは最悪の押弦と言ってもいいでしょう。

やっている人は今すぐやめてください。

「振動の伝達」のための正しい押弦

ピッキングで生じた弦の振動をより多くフレット(そこからネック→ボディ)に伝えるための正しい押弦はこちらになります。

  • e

フレットに対し垂直に力を伝えることで弦とフレットの接触をより強くし、さらにフレットとフレットの真ん中を押さえることで上下のフレットに均等に弦を接触させます。

そうすることで弦の振動を余すところなくフレットに伝達できます。

その結果ギターの振動が増え、音量が大きくなったり、楽器のキャラクターが引き出されます。

つまり、音がよくなるということです。

押弦は振動を作る作業

このように、ギターの押弦は発音のためだけではなく、ギターそのものの振動を作る作業でもあるのです。

仮にピッキングで十分な振動を作れたとしても、その振動をうまくフレットに伝えられなければ、ギターの音はその分劣化します。

ただこれ自体はそんなに難しいことではありません。

上記eの位置と力の方向で押弦し、あとは強く押さえすぎなければOKです。

それ以外のフィンガリングをしている人は早急に正しい方法に直しましょう。

それだけで確実にギターの音がよくなります。