以前、作品から何が伝わってくるかを聴こう、と述べました。
若い人はピンと来ないでしょうが、歳とってくるとだんだんわかってきます。
まず、形式とかがどうでもよくなってきます。
若いうちは本質が見えないから、その表面を覆っている形式で芸術を判断してしまいます。
だから、ある形式に厭きると次、次と趣味を変えていきます。
しかし、中身が聴けるようになると、そうやすやすと趣味を変えなくなります。
なぜなら、中身のある音楽は何度聴いても厭きないからです。
じゃあその「中身」って何なんだと言われても、これだ!と定義はできません。
また、新しい音楽だから中身がないともいえないし、古いから中身があるというわけでもありません。
あと、歳とっても形式しか聴けない人もたくさんいます。
ずっと音楽を聞いていると、ある時点で「あれっ?」と思う瞬間があります。
あんなに好きだったはずなのになぜか楽しめなくなっている、どこか冷めてしまう自分を発見します。
概ねそれが、中身がないことに気づいた瞬間です。
そういった感覚と向き合っていくと、ちょっとずつ形式の奥にある中身が分かってくるようになります。
若いときに年上の人たちに薦められて渋々聴いてみたけど全然好きになれなかったアーティストが急にかっこよく感じたりします。
そうなると、聴きたい音楽がぐっと厳選されていきます。
音楽を生業にしていると「新しいものについていけない、ヤバイ!」とちょっとあせりますが、よくよく考えれば当然のことだと思います。
それだけ自分の感性が研ぎ澄まされているというということなので、中身のないものを最初からはじいてしまうようになるのでしょう。