八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

子供の演奏を動画サイトにUPしている親が考えておくべきこと


八幡謙介ギター教室in横浜

近年、Youtubeなど動画サイトで、小学生ぐらいの子供がギターで高度なテクニックを披露したり、難曲とされる曲を弾いているのをよく目にします。

もちろん親が練習させて、動画を撮りUPしているのでしょうが、仮に子供をミュージシャンにさせたいのであれば、よくよく考える必要があります。

以下、子供(特に小さい子)のうちから表に出させる際の注意点や将来起こり得る問題をギター講師目線で書いておくので、子供をミュージシャンにさせたい親御さん、小さい子供の演奏動画をYoutubeに上げている(上げようと考えている)親御さんは一度考えてみてください。

人は何に食いついているのか?

まだあどけない小さな子供がギターをスラスラと弾いている姿はとても魅力的で、動画などでUPされていればつい見入ってしまいますよね。

ではその魅力の本質はどこにあるのか?

おそらく「子供が」「こんな小さい子が」というところでしょう。

その証拠に、大人が同じ曲を弾いても同じような反応はまず得られません。

つまり視聴者は音楽ではなく、子供に食いついているのです。

もっと言えば子供という「コンテンツ」に食いついています。

まずそこを理解する必要があります。

 

子供でなくなったとき、再ブランディングが必要

例えば小学生のうちにUPしたギター動画がバズって名が知られるようになったとしましょう。

すると、それがキャリアのスタートになると考えがちですが、個人的にはそうはならないと思います。

というのは、本人が成長しもう子供ではなくなると、コンテンツとして一度リセットされるからです。

子供時代の動画等はあくまで「子供が」という文脈で消費されたコンテンツであり、成長するともう二度とそのコンテンツでは勝負できなくなります。

これは子役タレントで考えると分かりやすいでしょう。

子供の頃の芦田愛菜や鈴木福と、現在の彼らは地続きかというとそうではありません。

子役というコンテンツを卒業し、大人になって新たなタレント・俳優として再ブランディングした結果が今の彼らです。

芦田愛菜はもはや元子役ではなく、立派な大人の女優となっており、彼女に子役時代の面影を追い求める人は今やほとんどいないでしょう。

 

それと同じように、子供のうちに人気が出てしまったギタリストは、大人になってから再ブランディングしないと成功しません。

親御さんがそれを分かっていればいいんですが、なんとなく「子供のうちから人気が出たら将来絶対ミュージシャンになれるだろう」と高をくくって動画をUPしているだけならかなり危ないと思います。

特権意識

子供は良くも悪くも素直ですから、早いうちから世に知られ、「すごい」「かわいい」「天才」などと褒めそやされてしまうと、特権意識が生まれてしまいがちです。

それに対し親が「ちやほやされるのは子供のうちだけ、大人になったら皆離れていくから今の間にちゃんと練習しなさい」と釘を刺すことができればいいのですが、なかなかそう上手くはいきません。

特に近年は、子供の自信をあえて抑制しようとする親の方が少ないのではないでしょうか?

実際過去にあったケースをお話します。

某ジャンルで子供時代に「天才」ともてはやされ、メディアに多数出演し、世界的アーティストと共演したのはいいものの、特権意識を持ったまま成長してしまい、それが鼻について人が離れ、技術もそこまで伸びずに低迷していったミュージシャンがいます。

結構界隈では有名な人でした。

噂によると親御さんがちょっと独特な人だったようです。

子供のうちから名声を得ると大きくなってそうした落とし穴にはまってしまうかもしれません。

それを見越してちゃんと教育できるのなら、子供のうちからガンガン表に出していいのですが…

子供時代の自分を越えられない

最悪の場合、子供時代の自分の存在がいつまでも足かせとなり、どこまで成長しても子供時代の自分を越えられないという結果になります。

いくつになっても「あの頃はあんなに小さかったのに」とか「こんなに大きくなって」と子供時代と比較され、メディアでは「あの子は今」と成長した自分が昔の自分のオマケ的な扱いを受け、いつまで経っても”今”の自分を成熟した一人の人間として扱ってもらえない。

中には露骨に「昔の方が可愛かった」「今は生意気」などと言うアンチも出てくるでしょう。

そうなると子供時代の人気が黒歴史になってしまいます。

子供をミュージシャンにした親は、よかれと思って動画をUPしていたことで将来子供に恨まれたり子供の活動を阻害してしまうということもあり得ます。

 

メディア露出は成人前後が妥当

上記のことを考えると、しっかりとしたプランやブランディングのノウハウがない場合、メディア露出は成人前後、17歳~20歳あたりからが妥当な気がします。

特に、高校は出てからにした方がいいでしょう。

高校生もそれはそれでコンテンツだったりブランドになってしまうので、高校生じゃなくなったときに上記と同じ現象が起きる可能性があります。

制服を着て「弾いてみた」「歌ってみた」していた頃はそれなりにファンもいてPVも稼げていたのに、高校卒業した途端に潮が引いたようにファンや登録者が減ったというケースは多々あると思います。

ファンはあなた自身ではなく「高校生」というコンテンツを消費していただけで、その子がもう高校生でなくなったら新しい「高校生」というコンテンツに流れていくのは当然です。

もちろんそれを見越して高校生の間だけの楽しみとしてメディア露出するのなら構いませんが、その後のミュージシャン活動への足がかりにするつもりなら「小学生が」とか「高校生が」といった寿命のあるコンテンツは避けた方がいいでしょう。

子供に必要なのは人気ではなく体験

子供を本気でミュージシャンにさせたいなら、子供のうちに人気を得ようとせず、いろんな体験をさせてあげることをおすすめします。

膨大な音楽を聞かせる、ライブに連れて行ってあげる、ちゃんとしたレッスンを受けさせてあげる、人前で演奏する機会を与えてあげるなどなど。

そして、それらをあくまで記録として動画などに保存しておき、将来大人になったら本人に渡して自由に使わせてあげるのがいいと僕は思います。

子供時代の人気は大人になってから足かせになる場合がありますが、音楽的な体験は間違いなく大人になってからも財産になります。

親のエゴや下心で安易に子供をバズらせようとするのは、ギター講師として反対です。