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「セクシー田中さん」ドラマ化問題で二次創作への姿勢が問われている中、ジャズで考えてみるとかなり特殊だった


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漫画「セクシー田中さん」のドラマ化において、原作者の意図が汲み取られていなかった問題。

www.sponichi.co.jp

いろんなニュースを読んでいて、ふと他人の曲を中心に演奏するジャズってどうだっただろうかと考えてみました。

するととても特殊な世界であることに改めて気づいたので書いておきます。

ジャズにおける二次創作

あんまり知られていないことかもしれませんが、ジャズという音楽は本質的に二次創作の音楽です。

ジャズミュージシャンは、オリジナルよりは誰かが作った曲を演奏することの方が多いのが常で、もちろんオリジナル曲中心にやる人もいますが、どちらかというと少ないと思っていいでしょう。

アルバム全曲、ライブ全曲人の曲というのも全然普通です。

ジャズにおける二次創作のルール

では、ジャズミュージシャンが誰かの曲を扱うとき、原曲に忠実に演奏するのかというと、真逆です。

むしろ原曲をぶっ壊すことの方が圧倒的に多く、極端に言えば、そのぶっ壊し方が腕の見せ所だったりします。

そうやって誰かの曲を自分の曲にすることがある意味ジャズミュージシャンの二次創作の本質といっていいでしょう。

例えばこれ。

「ティファニーで朝食を」の挿入歌「Moon River」オリジナル。

www.youtube.com

グラント・グリーンのカヴァー。

www.youtube.com

3拍子を4拍子に変え、ノスタルジックな雰囲気を、可愛らしくポップにアレンジしています。

個人的に”破壊”は感じませんが、思いっきり改変しています。

これはジャズ的には全然ありで、「ほー、グラント・グリーンはMoon Riverをこんな風に解釈するのかー!」と感心することはあっても、「改変だ!作者に許可は取ったのか!」「オリジナルへのリスペクトがない!」と怒る人はジャズ関係者にはいません。

こんな例は掃いて捨てるほどあります。

 

余談ですが、ジャズの世界では「二次創作」という言葉は使いません。

誰かの曲を自分のものにすることが当たり前なので。

原作者の反応は?

気になるのが原作者の反応です。

原作者は自分の楽曲を壊されて平気なの?怒らないの?

……そもそもジャズ自体古い音楽で、原作はそこからさらに古かったりするので、もはやオリジナルレコーディングが存在していなかったり、原作者が亡くなっていることが多いです。

また、上記のようなジャズの慣習があるので、「ジャズミュージシャンが自分の大切な曲を壊した!」と怒る作曲家もあんまり聞いたことがありません。

まあ僕が知っている限りだと「Round Midnight」の作曲者であるセロニアス・モンクが、同曲をカヴァーしたマイルス・デイビスに「そんな曲じゃない」と説教したという逸話ぐらいですかね。

オリジナル。

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カヴァー。

www.youtube.com

カヴァーをオリジナル化するのが音楽の流儀?

そういえばジャズだけではなく、ロックでもカヴァーをオリジナル化することがある意味流儀であるとかもしれません。

有名なところだと、ロバート・ジョンソンの「Crossroad Blues」です。

こちらがオリジナル。

www.youtube.com

エリック・クラプトンのカヴァー。

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もはや別の曲ですが、今となってはクラプトンヴァージョンがオリジナル扱いとなっています。

「文化の破壊」という苦情もあまりない

まあロックという音楽はブルースに根ざしていて、ジャンル自体がブルースに対する経緯を根底にしているので、ブルーススタンダードをロックアレンジすることにそこまで違和感はありません。

クラプトンの「Crossroad Blues」からもちゃんとブルースが聞こえてくるし、ブルースマンも普通にロックを演奏しますしね。

 

実はジャズにもブルースがあるのですが、もう全然違います。

ジャズの典型的なブルースがこちら。

www.youtube.com

全然雰囲気が違いますよね?

ジャズに馴染みがない人は「これがブルース???」と首を捻るでしょう。

比較的年代も境遇も近い同じ人種なのに、ジャンルひとつ違うだけでこうも変わってしまいます。

これも、ジャズという音楽の二次創作(他ジャンルを自ジャンルに取り込むという意味で)の慣習に由来します。

じゃあブルースマンたちは「これがブルースだって?ふざけるな!冒涜だ!文化の破壊だ!」と怒っているかというと、あんまりそういった意見は聞いたことがありません。

なんとなく、「あいつらはあいつら、俺らは俺ら」とスルーし合ってる感じがあります。

ジャズは自由……なのか?

ただやはりロックやポップスは原曲重視、原作者崇拝という風潮は残っているようです。

ということは、やっぱジャズは自由の音楽ということになるのかな?

まあジャズはジャズで、原曲を自分のものにしないといけない、破壊しないといけない、進化させないといけないという妄想に囚われているので、その点ではある意味不自由だし、原曲破壊のツケみたいなものもあります(この辺はややこしいので今はパス)。

まあ少なくとも、何しても原作者やファンから攻撃されることはほとんど受けないというのがジャズの特徴です。

それどころか、ロックミュージシャンにちょっとでも改変されると怒るのに、ジャズミュージシャンにジャズアレンジされると「お洒落にしてくれてありがとう」といった風潮もなんとなくあります。

改めて考えると、ジャズってやっぱ特殊な音楽ですよね。