ジャズミュージシャンはオリジナルの楽曲ではなくスタンダードを演奏することが多いと書きました。
ではなぜそんなことをするのでしょう?
自分の曲の方が楽しいだろうし、自分の曲を作って演奏した方がお金が入るはずです。
理由はいろいろあると思いますが、ひとつはっきりしていることは、スタンダードを演奏した方が仕事がスムーズにこなせるということです。
というのは、ジャズの仕事は原則その場限りのものが多いからです。
例えば僕がリーダーで○月○日横浜のジャズクラブでライブをするとしましょう。
そのために共演者を探します。
さて、無事共演者が見つかったらどうするか?
99%の確率で当日までリハーサルはしません。
場合によっては譜面を用意するかもしれませんが、演奏内容がスタンダードなら何もなしで手ぶらで会場に向かうでしょう。
あとは当日曲順を決めるだけです。
なぜこんなことができるかというと、ジャズミュージシャンならスタンダードは知っていて当たり前だからです。
だからジャズミュージシャンを目指す人はとにかくたくさんのスタンダードを覚えます。
自分も知ってる、相手も知ってるということが前提なので、いちいちリハーサルをしなくても成立するというわけです。
これが自分の楽曲ならどうでしょう?
音源と譜面を全員に配布して、リハーサルも数回やって、その分のスタジオ代は最低自分持ち、メンバーのご機嫌も損ねないように……と非常にめんどくさいことが待っています。
曲目をスタンダードにするだけでその労力は一気に解消されます。
自分も楽だし、共演者も時間を取られなくて済む、こんなに効率のいいことはありません。
しかも、スタンダードにすることでお客さんも喜びます。
特に日本ではオリジナルや前衛的なものよりも古典的なスタンダードを聴きたがるお客さんが多いので。
めんどくさいオリジナルをやって「ファ?」となるより、手っ取り早いスタンダードをやって喜ばれる方がいいですからね。
いずれにせよ、ジャズミュージシャンはみなスタンダードが好きで演奏しているというよりは、ジャズという音楽を取り巻く環境がスタンダードを演奏せざるをえない状況にある、といった方が正しいでしょう。