まだ関西にいた頃、体のあちこちが痛くて複数のマッサージに通っていたことがありました。
A店は全国チェーンの有名マッサージ屋さん、B店は個人経営のお店。
ふとB店を思い出してとても心地良い気分になり、同時にA店を思い出すとなんか嫌~な気分になりました。
その理由ははっきりしているので、以下書いておきます。
お店とか接客やってる人は何かの参考にしてください。
全国チェーンのマッサージ屋で、資格を取った専門の施術師を雇っています。
場所は雑居ビルの中にあり、けっこう狭く、ベッドが3~4台あってそれぞれがカーテンで仕切られています。
いまでも覚えているのはA店では施術の際、店が用意したジャージに着替えるのですが、それが田舎の中学生でも着ないようなダサいジャージで、しかも毛玉がこれでもかとついています。
生地もゴワゴワで全然着心地がよくありません。
『よく客にこんなもん着せられんな』と思っていた記憶があります。
確かにそれを着て外に出るわけでもないし、施術師以外に誰にも見られないのですが、だからといって着ていて気持ちの良いものではありません。
また、カーテンで仕切られているとはいえ、隣で誰かが施術されているのがかなり気になっていました。
施術の腕はたぶんよかったとは思いますが、正直そこは記憶に残っていません。
ここは個人経営で、京都の町家を改装してお店にしています。
とても雰囲気がよく、ゆったりした空間で一対一で接してくれます。
施術室は二階にあり、八畳ぐらいの広さでこちらも一対一。
他に客はいません。
また、着替えは肌触りの良い綺麗な作務衣だったかタイパンツだったかがお盆の上に用意されていて、着替えるだけで良い気分になれました。
そういった環境なので、施術が始まると気持ちよくなって必ず寝てしまいます。
ちなみにここは知りあいのお店だったので、お弟子さんの実験台になるかわりに安くしてもらっていました。
腕はまあ見習いだなーって感じ。
最後の仕上げに店主がマッサージしてくれるんですが、これが的確すぎてめちゃくちゃ苦しく、悶絶することもありましたが、施術後は必ず楽になっていました。
さて、そんなことから10年以上経ち、A店を思い出すと嫌~な気分になり体がこわばってきます。
一方B店を思い出すと気持ちよくなり、心も体もリラックスしてきます。
最初、腕の違いなのかなと思っていましたが、そうではありません。
なぜかというと、A店はベテランマッサージ師が施術し、B店は9割見習いのお弟子さんが施術していたからです。
ということは、この感覚の違いはお店の環境や雰囲気によるものでしょう。
今考えるとA店ではかなりストレスを感じていたようです。
ダサい毛玉だらけのジャージを着て、狭苦しい仕切りの中で、他人の気配を感じながら施術を受けるのですから、よく考えれば当たり前です。
一方B店では、居るだけでリラックスできる空間で、肌触りのいいゆったりした服を着て、畳の匂いを嗅ぎ、他の客を一切意識せずに施術を受けられます。
A店は恐らく確かな施術をしていたと思いますが、それ以外の要素で全て台無しにし、客に嫌な印象を後にも与え続けています。
B店は僕個人は未熟なお弟子さんの(たぶんまだ)つたない施術を受けてはいましたが、それ以外の要素で今でも思い出すだけでとてもいい気分になれます。
10年以上経ってもまだリラックス効果を持続させているB店、改めて考えると凄いことです。
そして、それが単なる施術とか専門技術から来るものではないというところにいろんなヒントが隠されている気がしました。
専門技術を生業にする人間は、ともするとその純粋な技術のみで仕事が成り立っていると勘違いしがちですが、受ける側からするとそれ以外の要素もかなり重要、というか本当に大事なのは本業の技術以外のところです。
音楽でいうとミュージシャン(特にジャズミュージシャン)が、演奏さえよければ服はヨレヨレでも、MCはグダグダでも、宣伝しなくても、お客さん無視してもいいと考えてしまう現象と同じです。
人間はそこまで単純ではありません。
マッサージならマッサージだけではなく、音楽なら音楽だけではなく、そこに存在するあらゆる現象を同時に受け入れて、それをまたひとつの現象(マッサージ、音楽など)に還元し、良い/悪い、心地いい/居心地悪いなどと判断を下すのが人間です。
それをマッサージだけ、音楽だけと要素を限定し、それだけで良し悪しの判断を求めるのはあまりにも人間理解に乏しいと言えるでしょう。
修行が足りないとはこういうことを言うのでしょう。
このへんは実はここ数年実感してきたことでもあり、個人的には教室運営に生かすよう努力しています。
まあどれだけ生かされているかは分かりませんが。
一方、自分が客の場合は店選びの基準が高くなってしまうのでちょっと困っています。
飯が美味いだけ、技術が高いだけ、安いだけ、品は良いけど……というお店はだいたい二度と行きません。