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ジャズの世界で使われる「なのに」と、そこから見えてくる「○○ありき」の思想


八幡謙介ギター教室in横浜

ジャズの世界では、頻繁に「なのに」という言葉が出てきます。

『大御所なのに』

『こんなに上手なのに』

『素晴らしい音楽なのに』

続く言葉はネガティブなものです。

CDが売れない、客が入らない、お店が赤字……。

そして(ここがジャズ独特の思考なのですが)、『○○なのになぜ?』をもうずーっと何十年も考え続けて、いまだに答えが出ていません。

そこには「○○ありき」の思想が存在するからです。

 

 

例えば、「大御所なのに客が入らない」という嘆きを分析してみましょう。

そこには「○○氏は大御所」→「だから客が入って当然」→「でも入らない」→「大御所なのになぜ?」という思考のループが存在します。

これは、「○○氏は大御所」という前提ありきの思考ループであることがわかります。

しかし、普通に考えてみると、

まず「○○氏のライブに客が入らない」という事実があり、そこから「そのレベルの人気しかない」と納得して終了です。

仮に○○氏が昔は大人気だったと知ったとしても、今はそうじゃないんだと納得できるはずです。

しかし、なぜかジャズの世界ではそうはなりません。

あくまで「○○氏は大御所」というのが前提で、それが外れることはありません。

だから、大御所に客が入らない、なぜだ?と大騒ぎしてしまうのです。

いや……冷静に考えてください。

大御所だから客が入るのではなく、客が入るから大御所なのです。

客が入らなくなったらお払い箱、それがエンタメ業界の鉄則ではないでしょうか。

なぜかそれに抗い、不思議な理屈をこねくり回しているのがジャズ業界です。

 

 

「○○ありき」の思想はまだあります。

それは技術です。

「こんなに上手なのになぜ売れない、客が来ない」というのもジャズの常套句です。

これも、「上手な演奏には客が入る」という技術ありきの前提が存在します。

しかし、実際にそんな前提は通用しませんし、もう何十年も、そして今現在も通用していません。

普通に考えたら「上手ければ客は入るはず」を実際試してみて、そうならなければ「やっぱ違うのか…」と納得し、方向転換できるはずです。

あるいは、上手いけど客が入らないプレイヤーを観て、上手くても客は入らないんだと分析し、別の方向を模索することもできるはずです。

しかし、なぜかジャズミュージシャンはそういった簡単な発想ができません。

そしていつまでも「こんなに上手なのに」とぶつぶつ言いながら世間が悪い、音楽ファンが悪いと愚痴を言い合っています。

上手いのに客が入らないということは、客が上手さを求めていないというしごく単純なお話です。

それがわからないのは、技術ありきという前提、というよりもう信仰に近いものが根付いてしまっているからでしょう。

と、こういった記事を書いたのは、僕の「ジャズに人が集まらない理由」を読んで共感し、参考にしようとしてくださっているリベラルな方でも、上記のような「なのに」と「ありき」にどっぷりつかってしまっているのを知ったからです。

たぶんこういったことは、ジャズの世界から完全に離れないと分からないのでしょう。