1994年発売
wea Music
作詞作曲:槇原敬之
今朝からずっと雨音の すきまに耳をすましてる
TVドラマの電話と間違えないように
朝から誰かの電話を待っている主人公。
外は雨が降っているようです。
TVを観て気をまぎらわせているようですが、電話の方が気になっているのでしょう。
ちなみに、1994年の楽曲なので当然スマホはありません。
電話はだいたい家に1台、昔は廊下とか玄関においてあることが多かったので、部屋にあるとは限りません。
電話が鳴ったらわざわざそこまで行って取り、その場でしゃべらないといけないという時代です。
これは作品上結構重要なことなのでスマホ世代の子は想像力を働かせて読んでいきましょう。
マッキーは電話が聞こえてくる方を【雨音の隙間】と表現しています。
さすが、センスありますね。
ちなみに、この2行で本作の重要なメタファーである【雨】と【電話】というガジェットがバチっと登場します。
この時点で既に作品の世界観をはっきりと打ち出しているのが凄いと思います。
主題やメタファーに自覚的でないと書けない歌詞です。
内緒で二人5泊6日 国際線の窓で見た
雲をたたえて落ちる夕焼けが恋しい
「じゃあ、誰の電話を待ってるの?」に対する答えです。
【国際線の窓で見た】とあるので、電話を待ってる相手と海外旅行をしたようです。
5泊6日も旅する相手なので、恋人と考えるのが妥当でしょう。
ここで気になるのが【内緒で】という表現。
レッスンでは「不倫という匂いはないし……秘密の社内恋愛ってとこかな」という結論に落ち着いたんですが、改めて考えてみると、たぶんゲイの恋人との旅だから【内緒】なんでしょう。
そうじゃない人は、周りには秘密の関係と変換して読めばいいでしょう。
また、【夕焼けが恋しい】と、当時を懐かしんでいるということは、その頃は仲がよかった→今はぎくしゃくしていると考えられます。
誰かのうわさを聞いた 君をすこしうたぐった
そんな自分をもっともっと 疑いたくなる
誰かが主人公の恋人について噂をしていたようです。
主人公はそれを信じて恋人を疑います。
と同時に、恋人を信じてあげられない自分に強い疑いを向けます。
実は同じようなシチュエーションが「NG」という曲にもありました。
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二人で暮らした日々よりも
誰かの噂を信じた
僕になぜうつむいたままで
言い返せなかったの
(NG 作詞作曲:槇原敬之)
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「NG」では主人公は恋人を疑う自分を棚に上げて相手を責めていますが、本作では内省する心の余裕ができています。
ちなみに「NG」は90年、「2つの願い」は94年リリース。
4年経ってマッキーも成長したんでしょう。
雨がやみますように 電話がきますように
2つの願いは必ず ひとつしか叶わない
ここで【雨】が何のメタファーかを理解する必要があります。
僕は最初、<雨がやむ=恋人との関係改善>だと解釈しました。
一方、電話がくるというのも関係改善となるはずです。
ということは、主人公の2つの願いは実は恋人との関係改善という唯一の願いなのではないかという結論に至りました。
これなら初期マッキーのわがままで子供っぽい主人公像とも合致します。
しかし後半を読むとどうもそうではない気がしてきます。
結論を言うと、雨は<恋人への未練>のメタファーです。
雨がやむ=恋人への未練がやむので、この恋愛が終わって次に行くということになります。
つまり主人公は、
- 雨がやみますように
→今の恋人と別れる
- 電話が来ますように
→今の恋人とよりを戻す
という2つの願いを持っており、どっちを叶えるか迷っているということです。
僕の笑顔の元は 何も君だけじゃない
新聞でロードショー探す でもまだ迷ってる
ここでしれっと『お前以外にもいるから』とゲスなことを言ってるところがマッキーらしいです。
そして、電話はもう諦めて映画でも観にいくかと上映作品を探しますが(新聞で探すところが時代w)、心はまだ迷っています。
ここで改めて電話について思い出してください。
固定電話しかなかった時代、家を出たら帰ってくるまで電話があったかどうかは分かりません。
だから、外に出るということはもう電話は気にしないよということです。
映画館を出たらすぐ タクシーをつかまえよう
自分のために何か 思うのは久しぶり
この【映画館を出たらすぐ】という描写が非常に秀逸です。
どこが秀逸かを理解するために、まず本作において【映画】がどういう機能を持つかを再考しましょう。
本作において【映画】とは、外に出るためのきっかけにすぎません。
なぜ外に出たかというと、「もう電話が来るかどうかは気にしないよ」という主人公の強気な態度を表現するためです。
従って、映画の内容はどうでもいいので、マッキーは一切それを描写せずに【映画館を出たら】とすることで主人公が映画を観に行ったことを説明します。
簡潔で無駄のない描写です。
さて、主人公は映画館を出て【すぐタクシーをつかまえ】ます。
せっかくだから街をぶらぶらしてもいいし、電車で帰ればいいのになぜ【すぐ】タクシーをつかまえたのか?
それは電話が気になるからです。
強気な態度で外に出たものの、やっぱり主人公は恋人が気になっています。
また、彼は恋人とうまくいっていた頃は常に相手のためを考えていたようです。
もしかしたら相手にはそれが重かったのかも……
フロンドガラス雨粒を 赤信号がルビーに変える
きっと僕があげたくて 君が欲しかったもの
主人公はタクシーに乗り込みます。
【雨粒を】とあるのでまだ雨が降っているようです。
ここで【ルビー】が出てきますが、これは何かのメタファーでしょう。
それは【僕があげたくて君がほしかったもの】だそうですが、なんらかの気持ち的なものでしょう。
主人公が本当は心に思っていたけど、照れや強がりで恋人にあげられなかった何か……
ここははっきりしなくてもいいかと思います。
誰かにはくだらない ものでも両手にかかえて
大事にしてればいつか 何か教えてくれる
ここが本作で一番難しいところでしょう。
個人的には、作者であるマッキーが主人公(過去の自分?)に「くだらないと思えることも大事にしろよ」と教えていると解釈しました。
そうするとなんとなくすっきりします。
雨がやみますように そう君がやったように
2つの願いのひとつは この僕が選ばなきゃ
【そう君がやったように】とあるので、恋人は2つの願いのどちらかを選択したことになります。
ではどちらを選択したのか?
電話がまだ来ていないというところから考えると、この恋人は【雨がやむ】方を選択した=主人公と別れて新しい出会いを探す方を選んだと考えられます。
ということは、冒頭で考察した<2つの願い=1つの願い(恋人とよりを戻す)>説は消滅します。
主人公も【そう君がやったように】と、恋人がもう戻ってこないことを確信しているようです。
そして、自分も決断を迫られます。
さよならと言われるより 言う方がきっとつらい
優しさを手に入れる時は 胸が少しだけ痛い
主語がないので、誰が誰にが分かり辛いところです。
ここで重要なのは、
- 誰が誰にさよならと言ったのか?
- 誰がやさしさを手に入れて、誰の胸が痛いのか?
文脈からすると、恋人が主人公にさよならと言ったと解釈するのが自然です。
そして、主人公は「恋人にさよならを言われたけど、言われた僕よりも言った相手の方がもっと辛いんだろうな…」と優しい気持ちで受け入れています。
これは今までのマッキーの歌詞にはなかったことです。
マッキーは成長し、離れていく恋人を慮る優しさを手に入れましたが、それが辛いことだとはじめて実感したのでしょう。
雨がやみますように 電話がきますように
2つの願いは必ず ひとつしか叶わない
ここは単なる繰り返しです。
僕の笑顔のもとは 何も君だけじゃない
『マッキー成長したなあ…』と思ってたら、最後に振られた腹いせにまた「べ、別に君だけじゃないから!」ともっかい強がってますw
これもマッキーらしいですが。
着替えをしてドアを開けたら 雲間に陽がさしてた
【ドアを開けたら】という描写が普通すぎて見落としがちですが、これはもう電話は待ってないよという意味でしょう。
1回目のサビでは【でもまだ迷ってる】とありますが、今回は迷いがありません。
気持ちが吹っ切れたのでしょう。
そして外に出ると【雲間に陽がさし】ていました。
雨が完全にやんでいるようです。
ということは、2つの願いのひとつ【雨が止みますように】=恋人と別れるという方が叶ったということです。
余談ですが、主人公は着替えてどこに行くんでしょうか?
【僕の笑顔の元はなにも君だけじゃない】と言うぐらいなので、たぶん別の恋人候補、あるいは浮気相手に逢いに行くんでしょう。
そう考えると途端に初期と同じゲスな匂いがしてきます。
これがマッキーの歌詞なんですよねwww
こんなゲスな内容なのに、歌になるとなんともキラキラしてくるので不思議です。