八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

Bridge Over Troubled Water(明日に架ける橋)/サイモン&ガーファンクル 歌詞解説(原文/和訳)


八幡謙介ギター教室in横浜

最近久々にこの曲を聴いて改めて感動したので、取り上げます。

歌詞は比較的分かりやすく、そういえば中学校の英語の授業でも先生がかけていた気がします。

名曲中の名曲ですが、最近はメディアでも全然流れず、恐らくTIKTOKでもまだバズっていません。

知らない方はぜひ聴いてみてください。

公式動画

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曲と時代背景

楽曲は1970年発表。

アメリカはベトナム戦争(1960~75年)が泥沼化してきた頃。

アメリカの威信に傷がつき、自信を失い、若者がもう国を信じられなくなってきた時期の歌です。

そこら辺を留意して聴くと味わい方が変わってくる気がします。

 

1

When you're weary

君が疲れて

Feeling small

気持ちが小さくなったとき

When tears are in your eyes

君の瞳に涙があふれたとき

I'll dry them all

私がそれを乾かしてあげよう

I'm on your side Oh, when times get rough

苦しいときも、私は君の味方だ

And friends just can't be found

そして友達が見つからなかったとき

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will lay me down

私は自らを横たえる

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will lay me down

私は自らを横たえる

 

弱っている【君】に対し、主人公は「涙を乾かしてあげよう」「私は味方だよ」と告げ、サポートを表明します。

そして、【荒波に架かる橋のように 私は自らを横たえる】とまで言い出します。

基本的には読んだままなんですが、この最後の部分だけ一気に詩的になり、なんとなくで理解するとイメージを掴みそこねてしまうので、しっかりと考える必要があります。

 

まず、この【荒波】(troubled water)について。

これは海でしょうか、それとも川でしょうか、あるいは湖?

最初僕は、「自分を橋にする」というところからなんとなく川だろうと思っていました。

しかし読み進めていくと、どうやらそれは邦題「明日に架ける橋」にある意味ミスリードさせられていることに気がつきました。

「明日」はとりあえず置いておき、「架ける」という和訳がくせものです。

「架ける」と書いてあると、どうしても端から端まで届いている状態をイメージしてしまいますよね?

そこから自然と川を連想します。

また、歌詞には【荒波に架かる橋のように 私は自らを横たえる】とあるので、これをそのまま受け止めると、大人の身長ほどの幅の小川が氾濫しており、そこに主人公が身を横たえている図を想像してしまいます。

これでは【君】の苦しみや痛みが小さく感じられてしまい、小川程度のトラブルなら自分でなんとかしろよとつい思ってしまいます。

もちろん、【君】が直面している苦しみや痛みはそんなものではありませんし、主人公の献身もたかだが小川に身を横たえる程度でもありません。

この作品の世界観はもっと大きいものだということは、最後まで読めば分かります。

 

そこでまず「橋が架かる」というイメージを改める必要があります。

そもそも主人公の言う【荒波に架かる橋のように 私は自らを横たえる】とは、実際の行動というよりは、それ自体がイメージです。

だから物理的に可能かどうかを考えるのはナンセンスです。

物理的な制約がなくなると、やはり【荒波】のイメージは広大な海が最適だという結論になります。

海とすると、【君】が抱えるトラブルの大きさ、【君】の人生に困難をもたらす象徴としての荒れ狂う大海原、そしてそこにどこまでも伸びていく橋になってやるぞ!という主人公の献身が全てすっきりと収まります。

また、3番で少女が出航するイメージもやはり海が適切でしょう。

ですので、本作の【橋】は、大海原にどこまでも続いていく想像上の橋をイメージしてください。

 

さて、ここで本作の主題が見えてきました。

「献身」です。

それも、自分の身を横たえて荒れ狂う大海原にどこまでも続く橋になり、【君】を助けてあげようという大きな大きな献身です。

 

では主人公が自分の身を挺してまで守ろうとする【君】とは誰なのでしょうか?

普通に考えれば友人、恋人、家族であり、また時代背景をかんがみると、傷付いたアメリカでもあるのでしょう。

【Troubled Water】を「混迷する世界情勢」と捉えると、そこに【架ける橋】=平和と読み解くことも可能です。

こちらもまた海がイメージされます。

 

アメリカは個が強い国なので、この曲の「個人が架け橋となって世界のトラブルを平和に導く」というイメージが彼らの精神性と合致し、アメリカ人の心を打ったと想像できます。

2

When you're down and out

君が無一文となり

 

【down and out】は「無一文になる」「路上生活者になる」という意味。

 

When you're on the street

路上生活者になり

 

この場合はただ道ばたにいるという意味ではなく、路上生活者、つまりホームレスになったということ。

 

When evening falls so hard

陽が落ちるのを辛く感じたなら

 

直訳すると「午後がとても厳しく落ちたら」となりますが、後に【darknes comes】(暗闇が来る)とあるので、「陽が落ちる」と考えていいでしょう。

 

I will comfort you

私があなたを慰めてあげよう

I'll take your part

私はあなたの味方になる

Oh, when darkness comes

暗闇がやってき

 

ここは読んだまま。

 

And pain is all around

痛みにさいなまれたなら

 

この場合の【pain】は文脈からすると心の痛みと、あと生活の苦難、苦痛でしょう。

【君】はとにかくあらゆる苦痛にさいなまれているようです。

なんとなく退役軍人の姿も想像できます。

ちなみにベトナム戦争まではアメリカでは国のために戦争に行くことが名誉とされ、帰国すればヒーローになれたそうですが、ベトナム戦争からは元兵士や家族に嫌がらせなどがあったようです。

この曲がリリースされた1970年はベトナム戦争末期で、国のために戦ったのに退役しても辛い思いをしている軍人がいっぱいいたはずです。

そういった文脈で読むと【And pain is all around】という一節が深みを増してきます。

 

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will lay me down

私は自らを横たえる

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will lay me down

私は自らを横たえる

 

1番の繰り返し。

意味は特に変わりませんが、1番よりも【君】の境遇が悪くなっているところに注目しましょう。

そう考えるとより主人公の献身の意義が深まります。

 

3

Sail on silver girl

出航するのだ、銀色の少女よ

Sail on by

出航するのだ

 

ここが本作最大の難所。

まず「銀色の少女」がよく分かりません。

元恋人説もあったりしますが、答えは出ていないようです。

何にせよ、主人公が献身的にサポートしてきた【君】がここで【銀色の少女】として具現化しました。

ただしこれも象徴にすぎないので、【君】=特定の少女ということではありません。

【君】は相変わらず誰のことでもあるのですが、ここで作品上【銀色の少女】に一本化しただけです。

ここらへんが文学になれていないと戸惑ってしまうかもしれません。

 

【君】は2番ではもうボロボロに疲弊していましたが、どうやら主人公のサポートもあって船をこいで出航できるようになった=人生を再スタートできるようになったみたいです。

ここで改めて1番の疑問が再発します。

【銀色の少女】が船をこいでいるのは、川、湖、海……?

【荒波】のイメージや、人生、社会の大きさ、広さを考えると、やはり海が適切でしょう。

 

それにしても、なぜここへきて【君】が【少女】になったのか?

【君】は主人公の献身的サポートによってなんとか人生を再スタートできるようになりました。

とはいえ、まだまだ心の傷は完全には癒えておらず、社会的基盤も脆弱だと思われます。

つまりここで「弱い」、「危なっかしい」といったイメージが必要なのです。

そうなると大人よりは子供の方がいい。

ただ【boy】だとワクワクする冒険のようなイメージになってしまいます。

社会復帰はできたものの、まだ危なっかしくてつい見守りたくなる、必要ならまだ手を差し伸べたい……だから【girl】なのです。

もしかしたら、【銀色の少女】は、性別問わず、誰の心にも存在する最も脆弱な部分の象徴なのかもしれません。

それでも【銀色】の意味は全く分かりませんが。

ちなみに、【荒波】はここでは治まっている気がします。

 

Your time has come to shine

輝くときが来た

All your dreams are on their way

君の夢は上手くいっている

See how they shine

それらも輝いている

 

どうやら少女は順調に人生という航海を進めていっているようです。

主人公もなんだか嬉しそうです。

 

Oh, if you need a friend

もし友達が必要なら

I'm sailing right behind

私はすぐ後ろに(船をこいで)いる

 

人生という大海原をこぎ出した【銀色の少女】を主人公が岸から見送っているのかと思いきや、またまたおせっかいが出てきました。

せっかく自立しようとしてこぎ出しているのに、見送らずに【すぐ後ろにいる】とか、ちょっと怖いですね。

よっぽど心配なんでしょう。

 

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will ease your mind

私は君の心を癒やす

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will ease your mind

私は君の心を癒やす

 

最後は【I will lay me down】が【 I will ease your mind】になっています。

つい読み流してしまいそうですが、冷静に考えると意味が分かりません。

「荒波に架かる橋のように癒やす」とはどういう意味なんでしょうか?

荒波に飲まれてしまい、難破したところに橋が現れてそこにしがみついて癒やされる……みたいな解釈もできますが、【癒やす】と【橋】がどうしてもマッチしません。

正直ここは破綻しています。

ちなみにこの3番は元々なく、急ごしらえで後から付け足したそうです。

 

なんで「明日」なの?

さて、ここで本作を知っている方なら誰もが一度は思ったことのある疑問について考察してみましょう。

なんで「Bridge Over Troubled Water」を「明日に架ける橋」と訳したのか?

これについては、もっと適切な訳はないかと考えてみると答えが出そうです。

 

直訳系

「荒波に架ける橋」

「荒波に架かる橋」

「荒波に渡る橋」

「荒波橋」

 

訳は正しいんですが、ちょっと演歌っぽくなるので違うなという気がします。

 

意訳系

「僕は君の橋になる」

「僕が橋になろう」

「僕がいるから」

 

【荒波】が演歌臭いので省いてみます。

ちょっとポップになったけど、なんかまだ作品の全体像が見えてこない気がします。

 

ピンポイント系

「銀色の少女」

「セイリング」

 

3番の象徴をピンポイントでタイトルにした感じ。

なくはないけど、やっぱり【橋】は欲しい気がします。

 

○○に架ける橋

「君に架ける橋」

「友情に架ける橋」

「愛に架ける橋」

「人生に架ける橋」

 

どれもそれっぽいけど、どこかぼやけた印象になり、主人公の献身しかイメージできない気がします。

もちろん本作の主題は「献身」ではありますが、同時に【君】の再出発の物語でもある。

それらをふたつのイメージを組み込むとすれば「明日」が最適だと分かります。

「明日」とすることで未来志向のイメージが組み込まれ、その未来に「橋を架ける」とすることで、【君】の未来に主人公が橋を架けているところが想像でき、この曲を端的に表すタイトルとして機能します。

非常に秀逸で考え抜かれた和訳ですね。

お前は誰やねん?

最後にひとつ。

皆さんはこの歌詞を読んでこう思いませんでしたか……

 

お前(主人公)は誰やねん?

 

ちなみに僕は、

 

And friends just can't be found

そして友達が見つからなかったとき

Like a bridge over troubled water

荒波に架かる橋のように

I will lay me down

私は自らを横たえる

 

を読んでそう思いました。

だって、友達が見つからないってことは、この主人公は【君】の友達ではないということです。

じゃあ友達が見つからない【君】に救いの手を差し伸べるこの主人公はいったい誰?と考えるのが自然でしょう。

友達でなければ親?親戚?道行く親切な人??

まあこの献身ぶりは親に近いものもありますが、正直行間から親感は伝わってきません。

じゃあこいつ誰なの???

 

答えは神しかありません。

逆にそう考えるとすっきりします。

特に、荒れ狂う大海原にどこまでも架かる橋になるというのは、もはや神でしかできない所業です。

だから僕は「あーこの曲は神の愛を歌ってるんだ……」と思っていました。

そして改めて調べてみると、どうやらポール・サイモンはゴスペル・ソング「Mary, Don’t You Weep」に影響を受け、歌詞の中にある「Bridge Over Deep Water」という一節を拝借したそうです。

ちなみにこの曲はいろんな歌詞のヴァージョンがあり、The Swan Silverstonesが「Bridge Over Deep Water」と歌っています。

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なるほど、ゴスペルから影響を受けたとすれば主人公が神というのもうなずけます。

また、GODやJesusという言葉を歌詞に挿入していないところも、大衆向けポップバラードとして秀逸です。

 

ということで、改めて主人公を神だと思って聞いてみてください。

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サイモン&ガーファンクル公式サイト他

www.sonymusic.co.jp

サイモン&ガーファンクル - Wikipedia

 

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