局所性ジストニア(フォーカルジストニア)の勉強をしていて、改めて分かったことが長時間練習の弊害です。
ジストニアを発症した方は、口をそろえて「長時間の練習がきっかけになった」と言っています。
一方、この2023年でもいまだに「一日10時間練習して当たり前」だとか「12時間練習しないとプロになれない」と真面目に言う講師がいたりします(そんな人に限って人気があったりします)。
僕はこれまで長時間練習には懐疑的でしたが、ここで改めて長時間練習の弊害を述べておきます。
そもそも人は10時間も12時間も集中して何かをできるものではありません。
それを無理矢理行うと当然集中力が欠如し、練習の中身が薄まります。
練習を濃いもの(意味のあるもの)にしようと思ったら、練習時間を適正時間に縮める必要があります。
その適正時間は人それぞれでしょうが、どう考えても10時間や12時間は無理です。
薄っぺらい練習を12時間やるなら中身の濃い練習を3~4時間やったほうがいいに決まっています。
仮に12時間集中して練習できたとしましょう。
そんな量の学習を脳は一晩で処理できません。
そこまでやったら、その内容を脳にインストールするために必ずオフが必要となります。
その辺のことはDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の記事に書いたので参照ください。
体感的に言うと、12時間練習を脳に処理させるためには最低でも2日ぐらいはオフが必要でしょう。
だったらそんな無茶なことをしなくても4時間練習を3日やればいいだけです。
なぜ1日という単位で10時間とか12時間という量を詰め込む必要があるのか理解できません。
楽器の演奏とは見た目より何倍もハードなものです。
12時間も弾き続けたら間違いなくオーバーワークとなり、その後のケアが絶対に必要となります。
こうしたミュージシャンと身体の関係性を「ギタリスト身体論」に書いてから14年ほど経ち、
ようやくギター界にも身体のケアという概念がちょっとだけ定着してきた感がありますが、それでもまだまだ不十分です。
そもそも毎日3~4時間の練習ですらケアが必要なのに、10時間とか12時間となってくると医学的にも正しい筋肉のケア、それをうながす正しい食事、精神の正しい休息などが必要となります。
ただそこまでしてでも長時間練習をしないといけない理由は僕には分かりません。
長時間練習の最大の問題は、怪我や病気の発症です。
腱鞘炎はもとより、昨今では冒頭に述べたようにジストニアの発症も危険視されています(ジストニアは脳の病気)。
そういった危険を冒してまで長時間練習しないといけない理由はもはや不明です。
最後に、長時間練習の経験者は、その達成感からか間違った情報を発信しがちです。
ミュージシャンの間には、ある種の武勇伝として「俺は昔○○時間練習した」「いや俺なんか○○時間練習した」と、長時間練習でマウントを取る風習があります。
ミュージシャン独特の承認欲求や自己顕示欲でしょう。
多くの場合は「だから俺はプロになれた」→「お前もプロになりたければ俺と同じくらいは練習しろ!」と続きます。
そして、それができない人を見て承認欲求を満たす……なんともあさましい精神です。
ちなみに僕も1日10時間ぐらいなら普通に練習していた時期はありますが、今考えても無駄だったしやめとけばよかったと思っています。
そういった時間で得たものがあるとすれば、「長時間練習は無駄」ということだけです。
結局長時間練習って何なんでしょう?
それは、
・内容が薄く、
・その時間の数倍のオフを必要とし、
・怪我や病気の危険性が高まり、
・そのためのしっかりとしたケアが必要となり、
・後々間違った情報を発信するうざいミュージシャンになる可能性がある
ものです。
いろんな角度から考えてもほとんどいいことは何もありません。
長時間練習はやらなくていいし、やっている人は今すぐやめて練習プランを考え直して下さい。
内容の薄さはともかくとしても、怪我や病気をしてからでは遅いです。
蛇足ですが、1日3~4時間の練習は長時間練習には入りません。
内容にもよりますが、5時間越えてくると長いかなという感じです。