最近「局所性ジストニア」(フォーカルジストニア)について調べています。
その過程である程度自分なりに分かってきたこと、たぶんこれをこうしているからジストニアになったんだろうという仮説をギター講師なりに書いておこうと思います。
正式名称は「局所性ジストニア」または「フォーカルジストニア」。
以下「ジストニア」で統一します。
ジストニアは「イップス」や「スランプ」と呼ばれているものとほぼ同等らしいですが、最近の研究で脳の問題だと分かり、このような病名で呼ばれるようになったとか。
症状としては〈特定の動作中に起こる不随意運動〉だそうです。
例えば、楽器であるフレーズを弾くときだけ指がこわばる、極度に震える、などなど。
スポーツや文字を書くときにも起こるそうです。
何かの動きの反復練習で起こると言われています。
また、正確さや俊敏性が求められる動きの練習で発症しやすいとか。
Youtubeで検索すると、ジストニアを発症した方の動画があり、中には演奏をUPしているチャンネルもありました。
演奏動画をいくつか観てみると、すぐに共通点が分かりました。
それを説明する前に、まず「力の流れ」について理解していただきたいと思います。
そうでないとジストニアの特徴が理解できません。
例えば指で弦を押さえる動作で考えてみましょう。
①手を開く
これをフラットな状態とします。
実際の楽器演奏でこの状態から動き出すということはあまりありませんが、分かりやすいようにここから始めます。
②人差し指を曲げる
フラットな状態から弦を押さえるため、人差し指だけを曲げます。
このとき、他の指(恐らく多くは中指)も釣られて同じ方向に曲がるのが普通です。
なぜこうなるかというと、力の流れが矢印の方向に向かうからです。
③
この「力の流れ」とは、人差し指の運動のことではありません。
力を使う方向と考えてもいいでしょう。
人差し指はこの方向に向かって動きますが、大事なのは他の指もこの「力の流れ」に乗ってやはり同じ方向に曲がろうとすることです。
これが自然な指の動きです。
恐らく脳が「人指し指よ、この方向に曲がれ!」と命令したとき、その命令が他の指にも若干伝わるのでしょう(この辺は医学素人の仮説ですが)。
まあこうして他の指までつられて同じ方向に動くというのは、誰でも体感的に分かることだと思います。
しかし、ジストニアの人の指はこの流れに反して動いています。
例えばこんな風に。
④
運動としてはあくまで同じ「人指し指を曲げる」です。
ただ、人差し指と中指は同じ方向に向かっていますが(a)、薬指・小指は逆方向を向いてピンと突っ張っています(b)。
ギターの運指でいうと、人指し指で弦を押さえる際、他の指が立つ現象です。
このとき、力の流れがふたつ存在し、しかもそれぞれ逆方向に向かっていることになります。
「人指し指を曲げる(弦を押さえる)」という概念だけ考えると、『確かに他の指は立ってるし、逆向いてるけど、人指し指はちゃんと曲がってるしこれでも弦を押さえられるんだからいいんじゃね?』と思うかも知れません。
しかし、「力の流れ」で考えると、押さえる方向と真逆に向かっている指があるのはおかしいとわかります。
以下はあくまでギター講師としての仮説です。
そもそも、運動としては「人差し指で弦を押さえる」なので、まず脳は人差し指をaの方向に曲げる命令を出しています。
また、そのとき、他の指も人指し指についていくよう指示を出していると考えられます(あるいは人指し指への指示が誤って他の指にも伝わる)。
一方で薬指と小指がbの方向に向かっているということは、薬指と小指に「bの方向に曲がりなさい」という指示を出しています。
当然、このときも人指し指や中指に「bに方向に曲がりなさい」という指示も出ているでしょう。
つまり脳は同じ手に対して、
・aの方向行くよ (他の指もそっち行ってね)
・bの方向行くよ(他の指もそっち行ってね)
と真逆の命令を同時に出していることになります。
これでは脳がバグるのは当たり前です。
余談ですが、写真④を撮った後、しばらく薬指がムズムズしてめちゃくちゃ気持ち悪かったです。
これを毎日ずっとやってると想像するとゾっとしました。
ジストニアの人が力の流れと正反対の動きを同時にしているのは間違いなさそうです。
また、力を使わない場面でなぜか力を使っているケースもあります(ネックを持つと勝手に指が曲がる、などなど)。
ということは、力の流れに逆らわない動き、フォームを作っていけばいいということになります。
まずはその力の流れを観る訓練をしましょう。
ギターの弦を押さえる場合は、力は弦(指板)に向かっていきます。
⑤
写真⑤は人指し指でギターの弦を押さえている状態。
このとき、矢印の方向に力は流れています。
人指し指を矢印の方向に動かしているというよりは、力そのものが矢印の方向に向かっているというイメージです。
写真⑤は弦を押さえる人指し指も他の指もその力の流れに逆らっていません。
⑥
写真⑥は<人指し指と中指>、<薬指と小指>で力の流れ(方向)が異なります。
ひとつの手でこうした複数の(真逆の)力の流れをつくって使い続けていると、脳がバグってジストニアが発症するのではないかと想像できます。
「力の流れ」についてある程度分かってきたら、そこから改めて指というものを考えてみましょう。
指を繊細に扱うミュージシャンは、指が一本一本独立しているとつい考えてしまいます。
人指し指はある方向に動かし、同時に他の指を真逆に動かすことは可能だ、それが楽器の演奏だと思っている人は多いでしょう。
実際にそういったトレーニングも存在します。
もちろんそれは可能です。
しかし「力の流れ」と、それを命令している脳について考えたとき、指を同時に真逆の方向に動かすことには無理があると分かります。
そこで、四指の独立という概念を一旦捨てて、指は一度に一方向にしか動かないと考えてみましょう(親指について話すとややこしくなるので、今は親指はスルーしてください)。
ギターのフィンガリングでいうと、一つの指で弦を押さえる際、他の指も力の流れにそって同じ方向に動く。
指が弦から離れる場合、一本だけ離れるのではなく他の指も原則離れていく。
こう考えて弾くことで力の流れは統一できます。
もちろんそれだけでは弾けないフレーズもあったりしますが、これは「概念」のお話です。
ジストニアとは脳の疾患(バグ)なので、「力の流れを統一する」という概念を持つことで、ジストニアの予防、改善に十分役に立つのではないかというのが僕の仮説です。
さて、ジストニアについて調べている過程で、ある疑惑が生じ、それがほぼ確信に変わっていきました。
たぶん、僕、ピッキング研究の際ジストニアになっていました。
指が勝手に変な形に変形したり、行きたくもない方向に向かったり、突然力んだり……
ジストニアの定義にぴったり当てはまります。
ただその時はジストニアという名前を知らず(もしかしたらまだなかったのかも)、フォーム研究のしすぎでわけわかんなんくなったとしか思っていませんでした。
で、それをどうしたのかというと、ピッキングフォームが完成したら治りました。
今は指が勝手なことをしたり、意思に反して動く、固まるということは全くありません。
生徒さんにもそういう症例は一切ありません。
習得過程でフォームが崩れるということはありますが、習得が進んでいくと皆さん思い通りに指や他の部位を動かせるようになっていきます。
つまり……ジストニアはフォーム矯正で治ります!
ただ、僕もふくめて医師に「ジストニアです」と診断された人をまだ扱ったことがないので、これもやはり仮説となります。
ですのでもしこれを読んでいるジストニアの方がいらっしゃったら、一度ぜひ教室にお越し下さい。
ギターに限らず、どんな楽器でも対応可能です(楽器の専門的な奏法ではなく、力の流れ、身体の動きを見るので)。
プロの方は現在プロ限定無料レッスンも行っているのでそちらでも構いません。
ジストニアについては今後も勉強していきます。