サンタナの「哀愁のヨーロッパ」という曲があります。
若い子は知らないかもしれませんが、ギターを続けていると必ずどこかで耳にするはずです。
どちらかというと初心者向けの曲とされていて、個人的には16、17歳の頃習っていた教室で課題曲として出されたのを覚えています。
さて、最近生徒さんのリクエストでこの曲をやることになり、改めてじっくり聴いてみると、ある疑問が湧いてきました。
なんでこの曲調で「ヨーロッパ」なん?
いや、”哀愁”は分かりますよ(まあ邦題ですが)。
でもどう考えても僕が知ってるヨーロッパではないし、日本人が持つヨーロッパのイメージとも違います。
そこで、一段階深く掘り下げて考えてみることにしました。
文学作品を理解するとき、必ず作者についてある程度の情報が必要となります。
ではサンタナは?
メキシコ生まれで10歳頃までメキシコにいたそうです。
その後サンフランシスコに移住。
と、もうこれだけで見えてきました。
”ヨーロッパ”とは、メキシコ人(南米人)目線でのヨーロッパということです。
ではメキシコとヨーロッパの関係とは?
アステカがスペインによって滅亡したことは知ってますが……
調べてみると、
1519年、スペイン軍がメキシコ上陸。侵略開始。
1521年、現在のメキシコシティ占領、アステカ帝国滅亡。
とあります。
500年程前に自分たちの先祖が育んできた文化や言語が破壊され、ヨーロッパ(スペイン)に乗っ取られてしまったのです。
メキシコ人目線からのヨーロッパをこういった文脈で捉えると、この「EUROPA」の曲調やメロディが沁みてきますよね。
さらにもう一段階踏み込んでみましょう。
南米というとどうしても貧困や発展の遅れ、政治の混乱などが思い浮かびます(ステレオタイプかもしれませんが)。
過去の侵略は一旦置いておき、そんな地域からヨーロッパはどのように見えるでしょうか?
恐らく心理的に最も近い先進国であり、憧れの対象だと想像できます。
距離的にはアメリカの方が近いですが(特にメキシコから、しかもサンタナはアメリカとの国境の街ティファナに住んでいた)、言語の壁を考えるとスペインの方が心理的に近いと想像できます。
ここで情報が揃いました。
メキシコ人のサンタナから見た憎悪と憧れの地、それがヨーロッパなのです。
この「EUROPA」を弾くとき、最低限これぐらいの理解は必要でしょう。
そうでないとただ記号を弾いてるだけ、ただ渋く弾こうとしてるだけ、あるいは変に感情を出そうとして(その感情は理解できていないのに)取って付けたような弾き方になったり、やたらロックっぽく弾いたりと楽曲と表現が乖離してしまいます。
もちろん技術も必要なんですが。
十代の僕にこの曲を課題として出した先生は、当時今の僕と同じぐらいの年齢だったと思いますが、こんなことを一言も教えてくれませんでした。
今考えると薄っぺらい先生だったなあとがっかりします。
最後に、音楽は芸術です。
芸術は人間から生まれます。
なぜこの人からこの曲が生まれてきたのかを考察することは決して頭でっかちではなく、作品や作者、ひいては芸術そのものを理解することにつながり、それがそのまま演奏の質につながります。
本気である曲を自分のものにしたければ、作者と曲の関係性について最低限調べてみましょう。