エレキギターはかつては音楽の中心でした。
音楽はギターのために存在し、ギターが音楽そのものを生み出す力を宿していた時期が長く続いていました(もちろんジャンルによっては異なりますが)。
しかし、その時代はもう終わりました。
ギターはアンサンブルを構成する楽器のひとつとなり、強烈な個性を持ったギターヒーローはもう必要とされなくなっています。
といっても、この状況を嘆く必要はありません。
やっとエレキギターが普通の楽器になったというだけです。
普通の楽器としてのエレキギターってどういうことでしょう?
じつはこれがかなり難しい問いなのです。
なぜかというと、エレキギターの過去の名演、名盤では、普通の楽器としてのエレキギターがなかなか確認できないからです。
ロックの歴史に残るリフや、テクニカルなソロ、トリッキーなサウンドなどはいずれもギターヒーローたちが編み出した特殊な技であり、それらはしばしば普通の楽器としての機能を逸脱しています。
まあ、だから格好いいのですが、それらを「もういらないよ」と言われたとき、ギタリストは途方に暮れてしまいます。
『じゃあ俺、何したらいいの???』
と。
例えば、ギターのリフがない、伴奏でパワーコード弾いちゃダメ、でもオープンコードもNG、ソロ弾かなくていい、という楽曲があったとき、本当に何もできない、何やったらいいかわからないというギタリストは沢山います(さすがにプロにはいないでしょうが)。
というか、そもそも上記のような楽曲をギタリストはやりたがりません。
なぜかというと、ヒーローがやる曲ではないからです。
では、普通の楽器としてのエレキギターって何なんでしょう?
総じて言うと、引き算ができるということでしょう。
例えばヴォイシング。
なんでもかんでもオープンコードで6弦から1弦まで全部使って弾いてしまうと、アンサンブルとしては邪魔で仕方ありません。
それが当たり前に出来るのは、ギターのための音楽だけです。
ギタリストが当たり前に弾いているオープンコードは、実はヒーローだから許されるわがままなのです。
ギタリストがもはやヒーローでなくなり、ギターが普通の楽器になったとき、そんなわがままなコードワークは許されません(求められていれば別)。
そこで、引き算のヴォイシングを作る必要があるのですが、ほとんどのギタリストはそんな概念すら聞いたことがないので、できません。
「そのコードでかすぎるから音減らして」と言われて的確に対応できるギタリストがいれば、かなりのレベルだと言っていいでしょう。
また、楽曲に合わせていらないものを躊躇なく削ることができるというのも「普通の楽器」の条件のひとつでしょう。
リフを弾かないなんてギターじゃない、ソロがないなら自分の存在価値はない……そう思っている人はいまだにギターヒーローを目指している旧人類です。
これからギターで仕事をしていくにはかなり厳しいと思った方がいいでしょう。
逆に、リフなし、ソロなし、歪みなしでも普通に自分に与えられたことができる人は、ギターを普通の楽器として弾ける新しいギタリストです。
そちらは今後どんどん必要性が出てくるので、重宝されると思います。
じゃあもう速弾きやカッティングやパワーコードのリフは必要ないかというと、それはそれでありえないと思います。
楽曲によっては往年のギターサウンドが必要になる場合もあるでしょう。
それが要求されているとき「できません」では話になりません。
ただ、一昔前ほどに必要とはされなくなっていることは確かです。
これからのギタリストは、一方ではアンサンブルに合わせた引き算ができ、もう一方では往年のギターヒーロー的なプレイも求められればできるという二面性が必要になってくると思います。
そして、引き算のプレイが求められる比率はどんどん上がってくるでしょう。
そんな場面で往年のギターヒーロー的なプレイ(ギタリストにとっては当たり前の演奏でも)をする人がいたら、『あ、この人古いな~』と思われるでしょうし、仕事なら別の引き算ができる人に流れていくのではないかというのが僕の予測です。
もちろん、往年のギターヒーロー的プレイもニッチな世界で生き残ってはいくと思いますが。