以前から時々、「ギタリストが何考えてるのか分からない」「ギタリストの扱い方が難しい」「ギタリストってなんでこれができないの?」といった苦情を聞くことがありました。
その都度「ギタリストってこうなんだよ」と説明してきたんですが、今回それをまとめてブログで書いておこうと思います。
ギタリストに仕事を発注したり、バンドで注文をつけたり、ギタリストに関わる非ギタリストの方は参考にしてください。
これはこのブログで何度も言っていますが、ギタリストは2023年現在もギターが楽器の王様だと思っています。
「思っている」というか、もうそれが当たり前で空気みたいなものだと感じています。
確かに、かつてはギターは楽器の王様でした。
クラシックやジャズは少し違いますが、ロック、ポップスではギターが中心、ギターがないとはじまらない、成立しないという時代が最低でも50年は続いてきました。
2023年現在、もう既にギターは王様ではなくなっているのですが、それでもかつての栄光にどっぷりと浸かって、ギターは王様、ギターがないと音楽は成立しないと本気で思っている人は大勢います。
非ギタリストはまずここをしっかり押さえておきましょう。
ギタリストはギターが王様だと思っているので、当然ギターがアンサンブルの中心であると信じて疑いません。
だから他楽器との兼ね合いを無視して好き勝手な音を出し、アンサンブルの邪魔でしかないでっかいコードをジャーンと鳴らし、もはや時代遅れとなったギターソロに執心します。
「なんでこのアンサンブルでそんなでっかいコード掴むの?」
「なんでこの曲でそんな音にするかな?」
「この曲調でそのプレイいる?」
「ギターソロにそこまでこだわられても…」
などなど、非ギタリストが理解不能なギタリストの習性は、全て「ギターは王様」「ギターがアンサンブルの中心」という考え方から来ています。
ギタリストがギターを弾く意義は大きく分けて以下のふたつ、
・格好いいリフを弾く
・ギターソロを弾く
ギタリストはこのためにギターを弾いているといっても過言ではありません。
極端な話、リフがない、ソロもいらないという曲でギター弾いてと言われたらギタリストは『俺、何したらいいの?』と思ってしまいます。
そして伴奏をしながら『俺、こんなことやるためにギター弾けるようになったんじゃないのに…』と意気消沈します。
このブログで何度も言っているように、楽器とは本来アンサンブルに貢献するものであり、それはギターも同じです。
なのでリフなしソロなし伴奏だけというのは、楽器としての本来の姿に戻っただけです。
しかしギターは長年王様であり、ギタリストは王様になるために楽器を練習してきました。
そしていざ王になったと思ったら一般職に回されたとしたら、確かに『こんなことやるためにギターを持ったんじゃない』とがっかりするのは当然です。
とはいえそういう時代なので、ギタリストの方が時代に合わせる必要があるのは当然です。
非ギタリスト、楽器ならピアニストや、制作ならエンジニア、アレンジャー、ディレクターなどが頭を悩ませるのがギタリストのヴォイシング問題です。
ある程度大所帯のアンサンブルでオープンコードを6弦から1弦までジャカジャカ鳴らされたり、ピアノがいるのにまるで無視するかのようにテンションを入れまくったり、明らかにメロディとぶつかってるコードを弾いて平気なギタリストはいくらでもいます。
なぜそんなことをするのかというと、ギターは王様だからです。
王様は臣下に合わせる必要はありません。
だから好き勝手なヴォイシングでコードを押さえます。
というかそもそもギタリストにはまだヴォイシングという概念が浸透していません。
私事ですが、僕は12年ほど前ギタリストがヴォイシングを知ることの必要性を痛感し、こちらの教則本を書きました。
本書はかなり売れ、今でもそれなりに売れ行きがあるので、ある程度ギター界隈に浸透したと思いますが、ヴォイシングの重要性そのものはそこまで伝わっていないようです。
ではなぜコード楽器であるギターを弾くギタリストがヴォイシングを知らないかというと、ギターが王…(以下略)
ギタリストに地味で簡単なプレイを要求すると、だいたい「これで成立すんの?」「薄っぺらくない?」と不安がられます。
なぜそうなるかというと、オケに入った状態をイメージできないからです。
特に2音3音程度で簡単なパターンを弾くだけのバッキングとかだと、それが何なのかを理解できません。
なぜならギタリストは、一人で弾いても分かるような楽曲を象徴するリフやギターソロばかりを弾いているからです。
オケと合わせてはじめて役割が理解できるというプレイには慣れていないし、それだけ弾いても何のことか想像すらできません。
だから地味なバッキング(オケにとっては重要)だけをやることに意義が見いだせないのです。
極端に言えば、ギターパートに楽曲を象徴するプレイがない場合、ギターがいる意味がないとまで考えます。
なぜならギターは王…(以下略)。
ギターという楽器にはある呪いがかかっています。
それは「速弾き」です。
どのようなかたちであれ、ギターを弾くということは「速弾き」という呪いと対峙することになります。
完全に拒否するのか、ある程度は克服するのか、どっぷり浸かるのか、その世界の王を目指すのか……。
非ギタリストからすればバカじゃないのか?と思うかもしれませんが、もはやこれは呪いなので、全ギタリストはこの呪いをどうにかしないといけないのです。
僕もしっかりとこの呪いにかかり、ようやく近年克服しました。
非ギタリストはギタリストの速弾き問題に関しては関わらない方がいいでしょう。
気軽に「ソロで速弾きやってよ」とか頼むとコンプレックスを刺激したり、逆に野に放たれた獣のように暴れる可能性があるので注意しましょう。
あと、速弾きにもいろんな流派があるので、頼んだはいいものの思ってたのと違うという場合もあります。
ギタリストの問題については他にも語り尽くせないほどありますが、きりがないのでこの辺にしておきます。
結局あらゆる問題の根源は、かつて王様だったということに集約されます。
さて、ではギタリストにディレクションする際どうやったら言うことを聞いてもらえるのか?
コードを小さくしてと言ってもポカンとされ、サウンドについて注文をつけると不機嫌になり、ソロを与えると好き勝手やる……。
リフやソロがないとなんか覇気がなくなる………。
「ギタリストにやってほしいことをどうやって伝えたらいいんですか?」と制作側の人からも切実な相談を受けたこともあります。
答えは教育するです。
なぜギター独特のオープンコードが必要ないのか、なぜギターソロをカットするのか、なぜ本人の作ったサウンドが合わないのかを、アンサンブルの仕組みから紐解いたり、時代性を説いたりして少しずつ教育していくしかありません。
王権を剥奪された王族が突然市井に放り出されたと考えてください。
家はどうやって借りるのか、税金の仕組みは?パンはどこで売ってるのか、服はどこで買えばいいのか……いちいち教育しないと分かりませんよね?
それと同じです。
アンサンブルにはベースがいるからギターの6弦5弦の音はベースとかぶる、ピアノとギターが好き勝手にコードを押さえたら音がぶつかる、ギターソロなんて今どき飛ばされるから入れる意味がない……。
いつまでも王様然としているギタリストがいたらそうやって音楽の仕組みや時代の趨勢を紐解きながら根気強く教育してあげましょう。
そうすればギタリストもバカではないのでちょっとずつ理解していきます。
また、そうやってアンサンブルに貢献するギターを学び、そのことで仕事が増えればギターの常識も変わっていきます。
僕はずっとそうやって孤軍奮闘してきましたが、さすがに個人の力ではどうしようもないので、そろそろ非ギタリストがギタリストを教育するようになってほしいです。
そうすれば使いやすいギタリストはどんどん増えていくでしょう。