このシリーズは「ジャズは難しい」という前提に立って話していくという趣旨ではじめたのですが、その根幹となる問題がちょっとわかった気がしたので書いてみます。
横浜ギター教室にジャズを習いにくる生徒さんは、どこかの時点で必ずといっていいほど「何を聞いたらいいのかわからない」と相談してきます。
もちろんレッスンの生徒さんですから楽器は演奏できますし、中には楽器の歴でいうと僕よりも上の方もおられます。
ほとんどはギターですが、ピアノや管楽器の方もおられます。
そうした非ギタリストでもやはり「何を聞いたらいいのかわからない」と必ずおっしゃいます。
よくよく考えてみれば、これってジャズ特有の悩みなんですよね。
それもそのはずで、ジャズという音楽は一人のミュージシャン、ひとつのバンドが全てを体現しているものではないからです。
例えば、レゲエを知りたければボブ・マーリーを聞けばだいたい分かるし、ファンクならジェームス・ブラウン、ボサノバならジョビン、ヴィジュアル系ならX Japan、メロコアならハイスタ……、とだいたいこの人(バンド)聞いたらそのジャンルの7割ぐらいわかるよという人がいます。
また、もう少し込み入ったジャンルでも、何組かのアイコニックなアーティストを聞けばだいたいそのジャンルは分かります。
しかし、ジャズにはそういう人はいません。
例えば、チャーリー・パーカーだけ聞いてもバップはまだまだ分からないだろうし、じゃあデューク・エリントンを聞けばジャズの7割はわかるかというとそんなこともありません。
じゃあ一番有名で売れたマイルス・デイビスの重要なアルバムを何枚か聞けばジャズが分かるかというと、もっとわかりません。
ジャズという音楽には、レゲエのボブ・マーリーやファンクのジェームス・ブラウンのように、この人がジャズを作った!というアーティストがいないのです。
仮にいるとすれば、それこそ100人ぐらいのミュージシャンが総体としてジャズという音楽をつくったと言えるでしょう。
だからジャズには「この人から聞きなさい」「この5人を聞けばわかる」というアーティストが存在しないのです。
そこが面白いといえば面白いのですが、それを面白いと言えるのは既にジャズをそれなりに知ってからです。
だから最初は戸惑い、絶望すら感じてしまうでしょう。
そういえば僕も、17歳ぐらいでジャズを本格的にはじめたとき、音源のあまりの多さに目眩がしたことを覚えています。
まだ若かったからじっくり広げていけばいいかとぼんやり考えていましたが、30歳40歳でこれからジャズをやろう、聞いていこうとする人にとっては、聞くべき音源の多さをかなり苦痛に感じることでしょう。
とはいえ、「何から聞いたらいいですか?」という質問に20枚も30枚もアルバムを挙げるわけにもいかないので、とりあえず僕はハンク・モブレーの「Soul Station」を最初にオススメすることにしています。
もちろんこれだけでジャズの全部はとうてい分かりません。
ただ、僕が思うにこれが一番聞きやすく入りやすいし、ジャズの要素も学びやすいのでオススメしています。