1978年生まれの僕がまだギターキッズだった頃、楽器屋は社会の縮図でした。
商品を売る店員は、単なる「店員」ではなく、僕らを叱ってくれる大人であったり、ギタリストとしての先輩であったり、ちょっとした裏情報を教えてくれる頼りになるお兄ちゃんだったりしたものです。
僕らは僕らで、今でいうお客様とはちょっと違い、そういった大人や先輩、お兄ちゃんに相談したり話を聞くために楽器屋に行っていました。
まだインターネットも携帯電話もない時代、楽器屋は掲示板であり、SNSであり、質問サイトだったのです。
そして、大人であり先輩でありお兄ちゃんである店員たちは、ときに厳しく、僕らを正しく導こうとしてくれていました。
あるとき僕がFenderのストラトを買おうとすると、「その値段ならもっといいのがあるよ」と教えてくれたのが、今でも愛好家の多いSeimour Duncanのストラトでした(今剛さんが使っていることでも有名)。
今剛(写真はVarita Guitar)
また、「ギターをこんな風に改造したい」と言うと、「それは故障の原因になるからお薦めできない」と断られました。
また、僕の友人が「誰それみたいな音を作りたい」と言うと、「君はどうしてその人の真似がしたいの?自分の音を作ったらいいんじゃないの?」と説教をし始めました。
こんな話は掃いて捨てるほどあります。
今だと老害と一蹴されるか、「こんなうざい店員がいた」とツイッターにでも書かれてしまうんでしょう。
ふとそうしたことを思い出してみると、僕が音楽やギターに関してかなり厳しい意見を言うのは、彼らの影響だったのかという気がしてきました。
当時言われてむかついたり傷ついたこともありましたが、今思い出してみると、正しいことの方が多かった気がします。
昨今は、「お客様至上主義」みたいなのが流行っていますが、それって実は、一番お客様を馬鹿にしているのではないか、と改めて思えてきます。
もちろん、当時がよくて今がダメだと言うつもりはありません。
インターネットの普及や、長引く不況、音楽産業の聚落で状況は全く違っています。
楽器屋業界も、昔より今の方がよくなっていることもあるでしょう。
ただ、ちょっと懐かしく思ったので書いてみました。