時々聴いては「面白いなー」と思っていたこの曲。
MVの映像と聞き取れる歌詞で大体の内容は分かってはいたんですが、最近またYoutubeで観て、いいかげんちゃんと歌詞を知りたいなと思い、訳してみることにしました。
1998年リリース。
作詞・作曲:デクスター・ホーランド
アメリカではヒップホップが台頭し、メタルは完全に過去のものとなり、オルタナティヴ・ロックも陰りが見え始めた90年代末期の楽曲。
モテたいがために黒人ラッパーやギャングスタの真似ごとをする白人の男の子が多かったらしく、OFFSPRINGは本曲でそれらを皮肉っています。
作中にはふたつの視点があります。
・主人公視点
・主人公を観察している視点
後者はバンドやリスナー視点。
また、それらは白人を客観視する白人の視点でもあります。
Give it to me baby, uh huh, uh huh(×3)
ここは単なる掛け合いなので特に意味はないです。
【Give it to me】は直訳すると「それをください」ですが、性的な意味で「ねぇ、ちょうだい……」というニュアンス。
【un huh】は「うん」。
And all the girlies say I'm pretty fly for a white guy
女の子たちは僕が白人にしてはイケてるって言ってるよ
ここで言う「僕」は主人公の言葉です。
【girlies】は【girl】をもっと馴れ馴れしくした言い方。
【fly】は「イケてる」。
また、この場合の【pretty】は「可愛い」ではなく「そこそこ」という意味になります。
「かなり」と訳している場合もあるけど、間違いです。
ここで理解しておきたいのは、「女の子たちが自分のことをイケてると言っている」とこの白人主人公が自分で言っているということ。
つまり本人の妄想であり実際はそうではありません(そこらへんは映像を観れば直感的に分かるようになっている)。
Uno, dos, tres, cuatro, cinco, cinco, seís
スペイン語で1234556。
なぜここで突然スペイン語なのかは分かりません。
何かのネタかも?
You know it's kinda hard just to get along today
近頃じゃ上手くやっていくのは難しい
Aメロは観察者視点のボヤキから始まります。
【You Know】は枕詞みたいなもの。口語でめっちゃ使うけど意味はないです。
【kinda】はkind ofを縮めた言い方でこれも口語。
【get along】は「仲良くする」という意味ですが、「誰と」という対象がはっきり描かれていないので、「(近頃の世の中と)上手くやっていく」と訳しました。
【today】は「今日」ではなく「こんにち」とか「近頃」というニュアンス。
Our subject isn't cool but he fakes it anyway
俺たちはクールじゃない、けどあいつはフェイクすりゃいいと思ってる
【Our subject】は直訳すると「自分たちの主語」ですが、要は自分達のことです。
じゃあ「自分達」って誰かというと、白人のことです。
90年代後半にそういうムードがあったのでしょう。
【he】とは主人公である白人少年のこと。
と同時に安易に黒人を真似してクールぶろうとする白人全般のことでもあります。
観察者である白人は、そんな同胞たちを「どうせあいつはフェイクすりゃクールになれると思ってるんだろ?」と呆れます。
He may not have a clue and he may not have style
あいつはクルーもいないしスタイルもない
【crue】はヒップホップ用語で「仲間」や「メンバー」の意。
But everything he lacks well he makes up in denial
けど、あいつは自分に足りてないものから目を背けごまかしている
【lack】は足りないという意味。
【make up】はこの場合「ごまかす」でしょう。
【in denial】は目を背ける、現実逃避する等々。
So don't debate, a player straight
ストレートなやつらはごちゃごちゃ言うな
ここもやはり観察者視点ですが、二手に分かれているようです。
①主人公に説教しようとする観察者
②主人公に説教しようとする観察者を止める観察者(こちらがバンド視点)
【player straight】は恐らく【straight player】のことで、【debate】と韻を踏むために逆にしただけだと思います。
つまり、「ストレートなやつら」ということです。
で、「ストレートなやつら」とは①のこと。
そのグループが主人公に対し「お前白人なのにそんな黒人ぶってフェイクして恥ずかしくないのか……」と説教したり、嘆いたりしているようです。
それを見た②のグループが「ごちゃごちゃ言っても無駄だよ」と諭しています。
You know he really doesn't get it anyway
どうせあいつには理解できないさ
これも②が①に言っていること。
Gonna play the field, and keep it real
手広く遊んで、リアルを貫く
これは主人公がやろうとしていること。
【gonna】はgoing toの略。
口語でめっちゃ使います。
【keep it real】は一昔前のラッパーやギャングがよく使っていた合い言葉みたいなもの。
「リアルでいろよ」「フェイクになるな」みたいなニュアンス。
最近はあまり聞かなくなった気がします。
主人公はそんな黒人ギャングっぽく生きようとしているみたいです。
For you no way, for you no way
お前には無理だよ、お前には無理
また観察者が呆れてボヤいています。
【no way】は「絶対無理」といったニュアンス。
So if you don't rate, just overcompensate
(客観的に)自己評価しないのなら強がってみな?
【rate】は格付け、この場合は客観的な自己評価という意味でしょう。
【overcompensate】は自分の欠点などを補うために過剰に逆のことをする様子です。
本当は弱くて臆病だからこそ強がって喧嘩ばかりする少年みたいな感じ。
つまり観察者は主人公に対し呆れながらも「俺たち同胞の言うことを聞かずに自分を客観視できないのなら、せめて自分の欠点を隠すために強がってみせろよ」と突き放します。
要するに、「じゃあ本気でギャングやってみろよ!ラップやってみろよ!できんのか?」と煽ってるのでしょう。
At least you'll know you can always go on Ricki Lake
(そしたら)少なくともお前ができることはリッキー・レイク・ショーを見続けることだけだって分かるだろう
前のラインのアンサー。
ここがかなり難しかったです。
まず【Ricki Lake】とはアメリカのTV司会者で、「リッキー・レイク・ショー」という人気トーク番組を持っていたそうです。
日本で言うと「徹子の部屋」みたいな、アメリカ人なら誰でも観ている番組なのでしょう。
どうやら素人番組のようですね。
【go on】をどう取るかでこのラインの意味が変わってきます。
個人的には「続ける」という意味を採用しました。
「出演する」と訳している人もいますが、それだと【always】の意味がちょっと分からなくなります。
黒人をフェイクしたからといって人気トーク番組にいつも出演できるわけではないでしょう。
ですので、【always go on】で「いつも流し続ける」「いつも観続ける」と解釈しました。
で、結局どういう意味かというと、「お前がどんだけイキったところで、お前ができることはTVの人気トーク番組を観続けることぐらいだろ?」と揶揄しています。
捻った言い方ですが、要するに「お前には何もできない」ということですね。
The world needs wannabes
世界はワナビを必要としている
ワナビは日本語にもなっていますよね。
この場合は、「お前はワナビとして企業やメディアの食い物になっていればいい」と皮肉を言っているのでしょう。
Hey, hey, do that brand new thing!
新しく手に入れたヤツをやれよ!
そうやってワナビ向けにリリースされた流行のファッションや音楽を楽しんでいればいいと揶揄しています。
He needs some cool tunes, not just any will suffice
あいつは誰でも知ってるわけじゃないクールな曲を欲している
【will suffice】で「事足りる」とか「十分」という意味。
直訳すると「誰もが事足りている」となりますが、それだと分かり辛いので「誰でも知ってる」に意訳しました。
主人公がイキってみんなが知らない曲をディグろうとしているところを想像しましょう。
But they didn't have Ice Cube so he bought Vanilla Ice
アイス・キューブがなかったのでバニラ・アイスを買った
【Ice Cube】は元N.W.Aのメンバーで黒人ギャングスタラッパー。ソロになってからも大御所としてヒップホップ界に君臨。
【Vanilla Ice】は白人ラッパー。90年に「Ice Ice Baby」で大ヒットするも、後に無許可のサンプリングや経歴詐称などが発覚し、人気が低迷。
馬鹿にされるラッパーの代表です。
アイス・キューブとヴァニラ・アイスはヒップホップにうとい人がよく混同するアーティストですが、ギャングスタラッパー気取りの主人公がまだその段階というのがミソ。
Now cruising in his Pinto, he sees homies as he pass
あいつは(フォード)ピントで街を流し、ホーミーを見かける
【Pinto】は恐らくフォード社の「Pinto」という車のこと。
こちら。
71年~80年まで販売されていたらしいです。
楽曲が98年リリースだから当時からすると一世代前のダサい車の象徴として歌詞に使ったんでしょう。
もしかしたら90年代末期に「ダサい」の代名詞として「Pintoに乗ってるようなやつ」という表現が流行っていたのかも。
ちなみにMVで主人公が乗っているのはPintoではなさそう(格好いいし)。
もしかしたらMVで使おうとしてフォード社からクレームやNGが入ったのかもしれません。
まあ、イメージ悪いですしね……。
【homies】はヒップホップ用語で地元の仲間あるいはギャングの別称。
But if he looks twice, they're gonna kick his lily ass!
もしあいつが二度見したら、やつらはただじゃおかないだろう
【they】はホーミーズ(ギャング)のこと。
【kick his ass】は直訳すると「あいつのケツを蹴る」となりますが、kick assで「やっつける」とか「シメる」という意味になるので、いちいちassを「ケツ」と訳す必要はないでしょう。
【lily】は百合に花ですが、転じて白人女性や清純な女性のことを指すスラングとなります。
この場合は勘違いした白人男性に対して、差別的な意味合いで使っています。
ただ、「白いケツを蹴る」と訳してもイマイチ伝わらないのでスルーしました。
同じ。
Now he's getting a tattoo yeah, he's getting ink done
あいつはタトゥーを彫ったらしい
直訳すると「タトゥー(の筋彫り)をして、インクも入れた」となります。
He asked for a 13, but they drew a 31
「13」と頼んだのに「31」と彫られてしまった
【they】は彫り師のことでしょう。
【13】とは有名なギャングの「MS-13」にちなんだものでしょう。
Mがアルファベットの13番目にあたるので、メキシカンギャングは好んで13のタトゥーを入れるらしい。
主人公はなぜか間違って「31」と入れられてしまったそうです……
Friends say he's trying too hard and he's not quite hip
友達曰く、「彼はかなり努力してるけどそこまでイケてない」
【hip】はスラングで「cool」と同じ意味です。
But in his own mind , he's the dopest trip
だけどあいつの中じゃ自分は一番イケてるやつらしい
【dopest】はヒップホップ系のスラングで「イケてる」。
この場合の【trip】は「人」になると思います。
そういう意味もあるらしいです。
【hip】と韻を踏むために【trip】を使ったのでしょう。
残りは既出と同じ意味です。
ちゃんと読んでみると、皮肉やジョーク、小ネタに溢れた楽しい歌詞でした。
基本的には歌詞の通り、勘違いした同胞を馬鹿にして皮肉ってるだけの内容なのですが、深読みするとそこに白人の悲哀とプライドが見え隠れします。
ヒップホップが台頭し、白人であることがクールじゃなくなってきた90年代後半、同胞ですらモテたいがために黒人の真似ごとをし出す世の中に白人たちは悲しくなってしまったのでしょう。
そして、そんな同胞を皮肉りつつも「もっと白人としてのプライドを持てよ!俺たちだってクールだろ!」というメッセージがこの曲には隠れている気がします。