八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

Change The World/エリック・クラプトン 歌詞解説(原文/和訳)


八幡謙介ギター教室in横浜

「Change The World」公式動画

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クラプトンの曲ではない

まず始めに、この曲、実はクラプトンの曲じゃないって知ってました?

オリジナルはワイノナ・ジュッド(Wynonna Judd)というアメリカのカントリー歌手が1996年にリリースしたものです。

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収録アルバムはこちら。

レヴェレーションズ

レヴェレーションズ

  • アーティスト:ワイノナ
  • コロムビアミュージックエンタテインメント
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「Change The World」はシングルカットされなかったそうです。

同年、映画「フェノメナン」でクラプトンが歌ったヴァージョンが大ヒット、

フェノミナン (字幕版)

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  • ジョン・トラボルタ
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その後グラミー賞を受賞し、世界的な名曲となりました。

カヴァーした方がここまで称賛を受けて、作った方は存在すらほとんど知られないという、背景を知るとなんともやりきれない気持ちになる楽曲です。

まあ音楽の世界ではよくあることですが(ただ、クラプトンそういうことやりすぎなんだよなー…)。

一応世間的な認知に従ってクラプトンの曲として扱いますが、以下原作者のワイノナに敬意を表しつつ、女性目線ということを留意しながら解説していきたいと思います。

主人公は男性?女性?

まず、誰が誰に向けた歌なのか?

主人公は男性か女性か?

オリジナル歌手が女性なのと、全体的に女性らしいイメージが漂っていること、さらにオリジナルではBメロで主人公が【queen】、相手が【king】となっていることを考えると、女性から男性への歌として読むべきでしょう。

ただ、クラプトンヴァージョンでは主人公を【king】、相手を【queen】としています(それ以外変更箇所はなさそう)。

かなり乙女チックなところもありますが、主人公は奥手で妄想癖のある男性と捉えても成立すると思います。

今回はそれを踏まえて主人公を「私」、相手を「あなた」としました。

読み手の好みでそれぞれに性を振り分けてください。

Change The World

If I can reach the stars

(もし)星に手が届くなら

 

Pull one down for you

あなたのためにひとつ引っ張ってこよう

 

冒頭からかなりメルヘンチックな内容。

この辺で既に女性っぽさ、女の子っぽさが出ています。

「クラプトン乙女かよw」と思っていた人は原作者が女性だと再認識しましょう。

 

Shine it on my heart

それで私の心を照らすと

 

ここで注意するべきは【Shine it on】という表現。

【in】ではないので、【心の中を照らす】というよりは【心を(外から)照らす】というイメージでしょう。

星を引っ張ってきて、それを自分の胸にかざして「さあ、私の心を観て!」と言っています。

 

So you could see the truth

あなたは真実を知ることができる

 

【真実】とは、主人公の心の中にある気持ち、つまり相手への愛情ということでしょう。

それを相手に知ってほしいようです。

 

That this love I have inside Is everything it seems

私の心の中にある愛は見たまま

 

この【that】は特に意味はなさそうです。

自己開示し、これが本当の私の気持ち、嘘偽りはないと言っています。

……日本人的にはそう言われると逆に疑いたくなってしまいますが、そこはアメリカンな表現ということで理解しましょう。

 

But for now I find It's only in my dreams

だけど今は夢の中だけだと気づいた

 

ここがちょっと難しいところです。

まず【for now】。

【now】だけなら【今】ということでいいのですが、【for now】になると、【今だけは】というニュアンスに近くなります。

一時的な状態やシチュエーションに対して使います。

【I found】も普通に訳すと【私は見つけた】となりますが、どちらかというと【気づいた】というニュアンスで使うことが多いでしょう。

どうも主人公は、何かが【一時的】に【夢の中だけ】だと気づいたようです。

では何に?

ここがややぼやけて分かり辛い。

自分の気持ちや愛なのか、それともそれらが【見たまま】であることなのか?

また、もしかしたらそもそも【あなた】が存在していなくて、全部が妄想だと気づいたのか(だから夢の中でしかできない)。

でもそれだと【for now】の意味がやや薄れます。

【あなた】は現実に存在するし、自分の愛情も確かだが、一時的にその気持ちが揺らいで、全部が【夢の中】のことのように思えてきたのか……

いずれにせよ、移り気で妄想の激しいメンヘラ気味の主人公だということは分かりました。

 

And I can change the world

私は世界を変えられる

 

せっかく自分の妄想が夢だと気づいて正気に返ったと思ったら、またいきなり妄想かよ?と引きそうになりますが、実はちょっと違います。

この【世界を変えられる】は、本当にそう思って言っているのではなく、世界を変えるぐらいの勇気がないと自分の想いが伝わらないと知っているから、自分を奮い立たせるためにそう宣言しているようです。

クラプトンのイメージが強いとどうしても「俺はお前のためなら世界を変えられるぜ」というマッチョな男性像を想像してしまいますが、この先を読むとマッチョさは全然ありません。

むしろ悲壮感が漂っています。

 

I will be the sunlight in your universe

私はあなたという宇宙を照らす(太陽)光になる

 

これはとりあえず読んだままでOK。

 

You would think my love was really something good

(そうすれば)あなたは私の愛もそんなに悪くなかったと思うだろう

 

さて、ここが本作一番の問題箇所です。

さらっと読めば、「自分が太陽となってあなたを照らせば、あなたは私の愛を認めてくれるでしょ?」という風に理解できそうです。

が、実はそれでは不十分です。

まず主人公の行動を見てみましょう。

【I will be~】とあるので、未来のことを言っています。

自分はこれから(ずっと)あなたという宇宙を照らす太陽の光になる、と宣言しているのです。

その真意は後で説明するとして、未来の事を語っているのに、次の一節で【was】と過去形が使われていることが不可解です。

普通なら、自分が行う未来に対して相手が未来でどう思うかをイメージするはずです。

しかし原文では【私があなたという宇宙を照らす光になれば、あなたは私の愛について「それなりに”良かった”」と”思い返す”でしょう】と、【あなた】の思考がなぜか過去形になっています。

ここにある【私】と【あなた】の時間軸のズレは何なのでしょうか?

【私】は【あなた】のためにする未来の行動(光になる)を見据えている、一方それ自体を【あなた】は過去のものとして回想する……

ここにはまるパズルはひとつ……それは【消失→永遠」という概念です。

【私】は物理的に「消失」し、【あなたを照らす太陽の光】=「永遠」と化し、【あなた】を見守ります。

そして【あなた】はこれからいろんな出会いをし、誰かと結婚し、家族を設けて、晩年「そういえばあいつ(主人公のこと/まだ存在していた頃)もなかなかよかったな…」と回想する……。

あるいは【あなた】は【私】のことすら全く認識していなくて、ただ死ぬ間際に太陽の光を思い出して「なかなかよかったな」と回想する、実はそれは【私】だった……。

主人公はそういったことを見越しているのではないでしょうか?

そう考えると【私】と【あなた】の時間軸のズレや、なんとなく漂うすれ違い感もすっきりします。

そもそも西洋人、特にアメリカ人(原作者のワイノナ)が恋愛の成就を表現するとき【あなたを照らす太陽の光になる】と回りくどいことを言うとは思えません。

【私】が【あなたを照らす太陽の光】になれたとき、【私】はもうこの世あるいは【あなた】の世界には存在しないのです。

つまり、これは失恋の歌であり、殉死の歌なのです。

 

Baby, if I could change the world

もし世界を変えることができたなら

 

さて、そうなると【If I could change the world】という意味がまた変わってきます。

【もし世界を変えられたなら、私はあなたという宇宙を照らす太陽の光になる】と言っている主人公ですが、その暁には自身の「消失→永遠」が待っています。

ですが、これ自体が【if】の話なので、実際にはそうはなりません。

恐らくその勇気もないのでしょう。

ということはどういうことか?

主人公は「消失」しないけど、その代わり【太陽の光】にもなれない、つまり恋愛は成就しないということです。

自分は「消失」しても、【あなたを照らす光】になれたらこの恋は永遠になる……でもそんな勇気がない、でも、もし世界を変えられたなら……

という曲のようです。

 

まあなんともこじれた歌ですが、女性ならではの念の重さが感じられる迫力のある歌詞ですね。

自分を消失させても想いを遂げたいというのは、ちょっと日本の悲劇の概念に近い気がします。

ワイノナさんは東洋趣味も持っているのでしょうか?

あるいはカントリーにそういった主題が多いのか??

 

If I could be king Even for a day

私が一日だけでも王になれたなら

 

I'd take you as my queen

あなたを王妃にしてあげよう

 

これはそのままの意味です。

1番の【星に手が届くなら~】から一編して、非現実的ではあるけおまあなくはない程度に妄想が変化しています。

ちなみにオリジナルでは【If I could be queen Even for a day I'd take you as my king】となっています。

クラプトンヴァージョンはそこを男性目線に変えていますね。

 

I'd have it no other way

そうする意外にない

 

これも深い意味はなさそうです。

たぶん、【way】と【day】で韻を踏んでいるだけでしょう。

 

And our love would rule In this kingdom we have made

そして我々の愛は(我々が作った)王国を支配する

 

【支配】という言葉がどこか男性的です。

Bメロでやや意志が強くなったような気もします。

 

'Til then I'd be a fool Wishing for the day

その時まで私は愚か者にでもなって 一日中その日を願おう

 

翻訳するとかなり分かり辛いのですが、まず【その時】【その日】は【王になる】日のことです。

要するに、自分がバカになってでも王になれる日をずっと願っていようという意味でしょう。

主人公は、これもやはり非現実的な妄想であると認識しているようです。

ということは、【あなた】を王妃にする=恋人にするということが非現実的であるということです。

2番は【あなた】と結ばれることがどれだけ非現実的かを再認識するという印象が強いです。

 

And I can change the world

私は世界を変えられる

 

I will be the sunlight in your universe

私はあなたという宇宙の(中の)光になる

 

You would think my love was really something good

(そうすれば)あなたは私の愛もそんなに悪くなかったと思うだろう

 

Baby, if I could change the world

もし世界を変えることができたなら

 

で、そこからまた「消失→永遠」という主題に戻ってきます。

もう、そうでもしないと【あなた】の側にいられないと分かったのでしょう。

うーん、この悲壮感……

結局、何の歌なの?

ちゃんと読み込むとかなり文学性の強い歌詞なので、慣れていない人は説明を読んでも「で、何の歌なの?」と首を傾げるかもしれません。

めちゃくちゃ簡単に言うと、高嶺の花に全然太刀打ちできなくて、玉砕する勇気もないメンヘラの恋の話です。

どう考えても「俺はお前のためなら世界を変えられるぜ!」というマッチョな歌ではないので、そこだけ理解しておきましょう。

Change The World収録アルバム

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歌詞解説シリーズ

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