ずっと前からフレディ・キングの「Same Old Blues」がいつか弾けるようになったらいいなーと思っていました。
オリジナルはこちら。
技術的には難しい曲ではないんですが、この雰囲気はちょっとまだ俺には……と思ってずっと聴き込むことすらしてきませんでした。
さて、45になり、ギター歴も30年を過ぎて、なんか突然かつてないほどブルースづいてきて『もしかして、そろそろ』と思ったので、試しにやってみることにしました。
動画はこちら。
使用機材
ギター:プロト(個人制作のプロトタイプ)
アンプ:LINE6 HELIX Rack(Stone Age 185/Gibson EH-185)
マイク:AKG Lyra
1971年リリース。
作詞はDon Nixという60年代を代表するプロデューサーだそうです。
あまり表には出なかった方のようですね。
今ではすっかりフレディ・キングの曲ってことになってます。
ちなみに、「Goin Down」もDon Nixの曲だそうな。
さて、弾いてみるにあたって歌詞を読むと、内容はとにかく暗いの一言。
冒頭から「朝から雨が降り続けている/この雨は俺の目から落ちる涙のようだ」と、何があったん??というはじまり方をし、途中で光が見えたと思ったらそれもすぐに曇りになり、笑いは痛みになり……そして全ては「いつもの古いブルース」(same old Blues)へと回収されます。
てことはこのタイトルをしっかり理解できればたぶんこの曲は理解できたことになるのでしょう。
まずBluesですが、これは一般的な解釈として「憂鬱」や「悲しみ」と捉えていいでしょう。
作中に出てくる「涙」や「痛み」、「暗闇」といった単語がそれを示唆しています。
次にold。
sameは置いといて、old Blues(古い憂鬱)って何?と考えると、黒人が奴隷として扱われてきた歴史に対する憂鬱だと考えられます。
なるほど、そう考えるとこの歌詞のなんともいえない暗さ、やりきれなさ、どうあがいても振り切れない憂鬱感が理解できそうです。
では最後にsameってどういうこと?
まずこの曲のリリースは71年です。
奴隷制はもう随分前に終わっていますが、人種差別的な法律や慣習はつい10年ぐらい前までにはまだ存在していた時代です。
もちろん71年というとまだまだ黒人差別は根強かったと思います。
この楽曲リリース時に物心ついていた黒人もきっと辛くてやりきれない日々を過ごしていた人が大半だったでしょう。
そして「これって古い時代と同じじゃん?」と思った人も多いと思います。
そう、現代(71年頃)の黒人も、奴隷時代の黒人の憂鬱=same old Bluesを感じながら生きている……それがこの曲の主題であると僕は理解しました。
ただ……
そんなん分かるか!
幸か不幸か、日本人の僕には理屈では理解できても、心からそれを感じることは不可能です。
日本の歴史は最近ひとさらいしましたが、そんな悲しい歴史は日本のどの時代にもありません。
原爆投下も戦後の占領も、長引く経済不況も文脈や内容が全然違うし。
そこで、変に奴隷制や黒人差別に想いを寄せ共感したつもりになるよりは、とりあえず自分の中の悲しみや憂鬱に置き換えてイメージした方がこの曲が弾けるはずだと考え、そうやって弾くことにしました。
あと余談ですが、この曲は雨が重要なモチーフになっているのですが、全然じめじめしてないんですよねえ。
変に雨を想像するとこの曲のカラっと乾いた感じが出なさそうだと思ったので、雨についてはあんまり考えないようにしました。
というか、実際弾く段階に入るとどうしても雨がイメージとして浮かばないんですよね。
まあそれはそれでいいかなと思ってそのままにしました。
先日の記事にも書きましたが、
どうしてもストラトや330ではブルースにならなかったので(私見)、ハムバッカーを搭載したプロトで弾くことに。
HELIXで一からアンプを探していくと、いくつか候補が挙がりましたが、一番良かったのはGibson EH-185をモデリングしたStone Age 185でした。
音の張り、艶、アタックのゴリっとした感じ、きしんだような歪み方などがハムバッカーと見事にマッチして、ブルースにどんぴしゃです。
このアンプにして出力を目一杯上げ、それを基本超絶ソフトピッキングで弾くといい感じになっていきました。
ちなみにピッキングはもちろん「ギタリスト身体論3」掲載の八幡式です。
MP関節のロックは7割程度、プラス人指し指を極限まで緩めて入力を抑えて弾いています。
入力を上げるときはそれぞれ少し締める。
そうやってサウンドをコントロールしています。
以下HELIXのセッティングです。
生音はベストだったんですが、録音してみると空気感やマイクの性質でなんかマイルドになりますね。
もう少しキンキンにして歪みも足しても良かったかもしれません。
リバーブもうちょい上げてもいいですね。
あとディレイもかければまた雰囲気が出たかもしれません。
ジャズミュージシャンの癖でついエフェクターをかけることを忘れてしまっていました。
一番難しかったのは歌の部分です。
やってみたら分かりますが、音符を普通に弾くとムード歌謡みたいになって恐ろしくダサくなります。
そこであらためてフレディの歌をよく聴いて、できるだけ近づけるようにしてみました。
といっても完全には無理なので、ある程度はギターらしい弾き方も加えています。
最終的に、タイムをあまり気にせず、音を詰め込むところは詰め込み、溜めるところは大げさに溜めるようにして弾くとわりとそれっぽくなってきました。
この辺はジャズの文脈にも通じますね。
歌をギターで弾く練習としてこの曲をやってみるといい訓練になりそうな気がします。
恐ろしく難しいですが…
ソロは冒頭、真ん中、最後にちょっとだけと都合三回あります。
ここも変にロングトーンを強調するとムード歌謡化するので、歌と同様詰め込むところは詰め込む、溜めるところは溜めるというのを意識しました。
あと真ん中のソロの冒頭は極限までソフトに弾くとブルースがにじみ出てくるので、それを心がけました。
最初のところで間違ってミュートして音が出なくなってしまいましたが、まあテイク全体がよかったのでそのままにしてます。
ブルースってペンタなら何でも合うと思ってる人は多いようですが、やってみると合わないペンタや合わないフレーズがいっぱいあってそれも新しい発見になりました。
最後にどういう意識で弾くか。
これはレッスンでは話す人は話して実践していることですが、演奏時の意識で歌や音は如実に変わります。
まず、絶対的な中心は肚(はら)、丹田です。
お腹の底のあたりですね。
ここに意識を置き、ここから音が出ているイメージを持ちます。
で、今回はブルースなんで自分の中にどこまでも沈んで弾くとそれっぽくなるんじゃないかと思っていましたが、なんかイマイチ音が遠いので逆に気を広げて弾いてみました。
するといい感じになったので、いくらブルースという憂鬱な音楽でも気は詰まらせてはいけないということが分かりました。
まあ冷静に考えれば憂鬱な音楽を表現し、他者に届けようとするわけで、そうなると当然気は広がっていないと伝わりません。
こういった話をするとオカルトに聞こえてしまいますが、そうではなく、超実践的な技術として言っています。
意識の置き所で歌や演奏は即変化します。
レッスンでもやる人はやっており、すぐに体感できることなので、興味ある人は一度教室にお越し下さい。