少し前、たまたま観たギター動画で、ギタリストがヴォイシングについて語っていました。
珍しいなと思って観ていたら、「ギターでコードを格好よく弾きたかったら、このように半音をぶつけるコードを弾くといい」みたいなことを言って、次のようなコードを教えていました。
開放弦を利用して半音をぶつけ、複雑でミステリアスな雰囲気のコードを作るという、ギターによくあるヴォイシング手法です。
確かにこれはこれで美しい響きですが、その動画ではどこでどう使うのか、さらには使うべきでないシチュエーションについては一言も触れられていませんでした。
恐らく視聴者は『そうか、A-7のときはこれを使えば格好いいんだ!』と思い込むでしょう。
仮にこのコードを使うとしたら、
・使用する楽曲
・どんなアンサンブルで演奏するのか
・楽曲のどの部分で使うのか
・そのときのメロディの流れ
・ピアノがいれば、ピアノが何を弾いているのか
・そのコードの前後のヴォイシング
最低でもこれだけの情報が必要となります。
そして、この情報に照らし合わせて上記のヴォイシングが「合う」と判断したとき初めて使うことができるのです。
その判断力がない人が上記のような半音をぶつけるヴォイシングを使うと、間違いなく事故が起こります。
件の動画で全くそういったことが説明されていなかったのが残念でした。
じゃあお前はA-7でどうヴォイシングするんだ?と思う人もいるでしょう。
仮にポップスでピアノ込みのアンサンブルだとしたら、とりあえずこういうヴォイシングで様子を見ます。
6弦のルートを抜いて、♭3、5、♭7のみを押さえ、とりあえずこれで機能するか様子を見て、さらに小さくするか、テンションを足すか、ポジションを変えるかを考えていきます。
その結果、ルートも弾いた方がいいと思ったらルートも押さえるし、半音をぶつけるのがいいと分かればそうします。
いずれにせよ一番最初はアンサンブルとの兼ね合いを考えて、ぶつからないコードを弾くのが鉄則です。
初心者から音大生ぐらいまでは、コードを「それ自体」で判断してしまいがちです。
これをやっているうちはまだアマチュアです。
経験を積んでいくと、コードには流れがあり、歌や他の楽器との兼ね合いがあり、周波数の分布があるということが分かってきます。
それら全体のバランスを考慮して適切なヴォイシングを即座に作れるようになって、はじめてプロと言えると僕は思います。
その際、ギターに求められるのはコードを小さくしていくことです。
これについてはこのブログでも何度も言及しているし、レッスンでも教えています。
ギターのヴォイシングはアンサンブルの中では、一部の例外を除いて小さくなっていくという宿命があるのです。
これが理解でき、習得できればプロの扉が一つ開くというのが僕の持論です。
もちろん生徒さんでプロの現場で生かしている人や、プロにレコーディングに誘われた人もでてきています。
ギターでヴォイシングを学ぶなら、コードの響きとか理論を学ぶのではなく、総合的に音楽を学ぶ過程でヴォイシングを知っていくべきでしょう。
この曲にはこういったヴォイシングが合う、この流れでこのヴォイシングが使える、このジャンルではこういったヴォイシングをするべき……などなど。
コード単体でヴォイシングを作って『これカッケー!』とやっててもいざ実践するときに浮いてたり、メンバーから『変なコード使うやつだなー』『こいつの伴奏歌いにくいなー』と思われたら本末転倒です。
音楽ありきのヴォイシング、アンサンブルの中でのヴォイシングということをしっかり把握しましょう。