ジャズのアドリブというと、一瞬のひらめき、その場の空気感、ノリなどで即興で行うものだというイメージが強いと思います。
もちろんそういった要素も多分にありますが、同時に戦略的な構築も必要であると僕は考えます。
特に初心者はそうでないと早々と成長が止まってしまうからです。
戦略的な構築というと難しそうですが、要はひらめきに頼り切らずにある程度計画を練ってアドリブしようってことです。
ではアドリブにおける戦略とは何なんでしょう?
戦略的にアドリブするとは、手持ちのネタをいつ出すかを先に考えておくことです。
例えば、ブルース(ジャズ形式の)を弾くとしましょう。
あなたは以下のネタを持っています。
ペンタ一発のフレーズ
コードトーンを使ったフレーズ
ⅡーⅤーⅠフレーズ
とりあえずこの3つだけなんとか使えるようになりました。
そうすると、多くの人は1コーラス目からこの3つをいきなり投入してしまいます。
もちろん、それが悪いわけではありません。
が、そのやり方だと戦略性に乏しく、せっかく学んだ上記3つのネタを生かしきることができません。
そこで、手持ちのネタを順番に出していくことにします。
では、
ペンタ一発のフレーズ
コードトーンを使ったフレーズ
ⅡーⅤーⅠフレーズ
これら手持ちのネタをどういう順番で出していけばいいのか?
そのためには、各ネタの性質を把握する必要があります。
・ペンタ一発のフレーズ
シンプル。ブルージー。ちょっと野暮ったい。
・コードトーンを使ったフレーズ
少し複雑。コード感が出る。お洒落。
・ⅡーⅤーⅠフレーズ
さらに複雑。ジャズらしさが出る。
だいたいこんな感じでしょう。
では改めて、これらを戦略的に使う方法を考えてみましょう。
例えばペンタとコードトーン。
シンプルでちょっと野暮ったいフレーズと、やや複雑でお洒落なフレーズをいきなり同時に出すよりも、順番に出した方がシンプル→複雑、野暮ったい→お洒落という変化ができて面白いと僕は思います。
また、お洒落→野暮ったい、複雑→シンプルと変化するよりも、野暮ったい→お洒落、シンプル→複雑と変化した方が自然でしょう。
そこで、次のようにアドリブを行います。
・1、2コーラスはペンタのみで弾く
・3コーラス目からコードトーンを使っていく(ペンタと混ぜてもOK)
こうすることでシーンが変化し、アドリブに映画やドラマのようなストーリーが生まれてきます。
さらにⅡーⅤをどこかで投入するともうひとつ変化します。
また、ひとつひとつ順番に出していくことで、各フレーズ、ネタのカラーやキャラクターが際立ってきます。
もちろん、ペンタとコードトーンが混ざった複雑さを良しとする人もいるんでしょうが、それ一発で5コーラス10コーラスとごり押しされると逆に退屈になることが多いと思います。
もちろん、コルトレーンレベルでそれができるのであれば別ですが…
また、ペンタとコードトーン(あるいは異なる何か)を混ぜて弾くことは、何も最初からやらなくても後でもできます。
それぞれを単体で出す→まぜて弾く、と分けるのも戦略と言えるでしょう。
アドリブを練習する人は、自宅であれこれと入念に準備するのに、いざ本番になると戦略も何もなく、その場で起こる(はずの)アーティスティックな啓示を待つという人が大勢います。
そんな場当たり的なことをせず、戦略を練りましょう。
どのネタをどこらへんで出してくるか、何コーラス温存するか、何と何を混ぜるか、それとも単体で使うか……これだけでも立派な戦略です。
また、アドリブに戦略を持つことはジャズミュージシャン失格ではありません。
歴史上の偉大なジャズミュージシャンたちも、戦略をもってアドリブしていた形跡があります。
ギタリストに一番分かりやすい例だとウエスでしょう。
ウエスの戦略は、短音→オクターブ→コードソロという流れです。
これを「予定調和、型にあてはめてるだけ、つまんない」というジャズギタリストはいないと思います。
余談ですが、初っぱなからフルスロットルでいきなり全部ぶっ込んでくるタイプのアドリブは、恐らくコルトレーンに端を発しているのでしょう。
驚異的なテクニック、無尽蔵のフレーズ、枯れることのないイメージでもって最初から怒濤のように吹きまくるのは、確かにジャズミュージシャンなら一度は憧れますが、それはそれでひとつのスタイルに過ぎません。
そこに向かわないといけないと思い込んでいる人はコルトレーン病です。
「戦略」という文脈でアドリブを聴いてみると、また違った側面が見えてくるはずです。
マイルスのようにアンサンブルを巻き込んでアドリブしていくのも戦略ですし、ロリンズのように同じフレーズを徹底的に使い切るのも戦略、モンクのようにメロディを常に組み込んでおけばあとはどこまでもアウトできるというのもまた戦略でしょう。
当教室ではこうした戦略的な視点からもアドリブを教えています。
ですので、少ないフレーズで効果的にアドリブができるようになります。