八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ジャズ的な時間感覚を解説してみる


八幡謙介ギター教室in横浜

ジャズには時間に対する独特の感性や感覚があります。

それはとても前衛的であると同時に野蛮でもあり、現代的なリニアで正確な時間の捉え方では理解し辛く、体現することは困難を極めます。

しかし、そうしたジャズ独特の時間感覚を持つことで単なるアドリブをよりジャズにしていくことが可能となります。

ある程度ジャズが弾けるようになってきた方は、一度考えてみてください。

初心者の人は混乱するかもしれませんが、知識としてだけでも入れておくといずれ役にたちます。 

余談ですが、以下僕が使う用語はジャズや音楽の公用語というよりは僕の造語に近いのでご了承ください。

点の時間感覚

時間を”今”の一点で捉えること。

どんな初心者でも無意識的に時間を点で認識しています。

この”点”は、短くて一拍、長くても一小節。

要するに、アドリブにおいて”今”弾くフレーズ、”今”弾くコードしか認識できていないというときの時間感覚です。 

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リニアな時間感

リニアとは「一直線の」といった意味になります。

点の時間感覚が”今”しか認識していないとすれば、リニアな時間感覚は先のことも認識できている状態です。

今このコードを弾いているけど、次はあれが来て、その次の小節であのコードが来て……というのが見えている状態。

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どこまで先が見えているかはそのときそのときで違います。

ジャズの複雑なコード進行を弾きこなすためには、リニアな時間感覚は必須です。

しかし、これだけではジャズ的な時間感覚を持っているとはまだ言えません。

ジャズ的な時間感覚

下図はコーラス終わりから次のコーラスへと突入する場面です。

縦二本線から次のコーラスになります。

次のコーラスに侵入するかたちに変更しました。

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このように、フレーズを弾く際、音楽的に正しい位置から早めて、あえて小節をまたがせるようにするとジャズらしさが出るというのは周知の事実です。

これが僕の言う「ジャズ的な時間感覚」かというと、そうではありません。

ここにもう一つ大事な要素があります。

それは、上記のようにフレーズを弾く位置を早めることを”いつ”決定するのかという問題です。

既に次のコーラス頭にさしかかっているとすれば、それを1拍2拍早くするということはもう無理でしょう。

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ということは、頭から弾くフレーズを2拍早めようとすれば、意思決定は2拍以上早く出されているということになります。

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整理すると、フレーズの位置をずらしてコーラス頭に侵入する際、時間感覚は以下のようになっています。

 

 

コーラス最終小節が”今”と仮定。

そこからリニア的時間感覚で先が見えている(以下同)。

次のコーラス頭で何らかのフレーズを弾くことを予定している(点線)。

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”今”は少し時間が進んで、最終コーラス1拍目か2拍目あたり。

次のコーラス頭でフレーズを弾こうと思っていたが、頭からはじめると硬くなるので時間をずらして早めに弾くことに決定。

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コーラス頭から弾く予定だったフレーズを2拍早めて、今その瞬間に到達したので、それを弾く。

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3つの時間認識
上記のジャズ的な時間感覚の中に、3つの時間認識があることが理解できるでしょうか?
 
  • 1 今の時間

  物理的に”今”何小節の何拍目で、自分が何を弾いているか。

 
  • 2 未来の時間

  1拍2拍先に何を弾くか、次の小節に何のコードが来るか、などを把握。

 

  • 3 未来の時間を歪める

  4拍先から次のコーラス頭に入るが、それを勝手に2拍早めて弾く。

 

ちなみに、これらをひとつひとつ認識し、別個に行っているのではなく、全て同時進行で処理します。

つまり、ジャズ的な時間とは、今弾くことを弾きつつ、次何のコードが来るかを把握しつつ、その時間を自分の意思で歪めて意図的に時間のずれを作る行為のことを言うのです。

さらに言えば、そこからまた正しい時間に戻るという作業もあります(これ自体は単に休符を入れて休み、ロストさえしなればいいだけですが)。

ジャズという音楽は、このようにいろんな時間を同時に扱って演奏するものです。

そこがクラシックやロック、ポップスなんかと決定的に違うところでしょう。

 

 

プロは体感的にジャズ的な時間で弾いている

ちなみに、プロのジャズミュージシャンならこのようなジャズ的な時間感覚で自然に弾けています。

でないとプロではできないからです。

問題は、いい線まで行っているのに、どうしてももうひとつジャズにならない、何かが足りないという人。

そういう人は恐らくまだリニア的な時間感覚しか持っていないのでしょう。

先のコードは見えるけど、それを自分の意思でずらすというところまではできない。

もちろん、リニア的時間感覚でアドリブするだけでもかなり難しいのですが、アドリブをさらにジャズにするためには、上記のようなジャズ的な時間感覚が絶対に必要となってきます。

横浜ギター教室ではここを理解してもらうことに重点を置いています。

もちろんそれ以外もちゃんと教えていますが。

従来の練習ではジャズ的な時間感覚は獲得できない

一般的なスケール練習や、フレーズの手癖化、時間に沿って”今”フレーズを投入していくといったアプローチでは、ジャズ的な時間感覚は獲得できません。

まずリニア的に時間感覚を伸ばして先が見えるようにし、そこから自分の意思で時間をずらすということをちょっとずつ訓練していく必要があります。

言葉や図で説明するととても分かり辛いのですが、実際はジャズ好きなら誰でも聞いたことのあるフレージングでしかありません。

じゃあ誰でもできるかというと、できない人の方が圧倒的に多いのが現実です。

それどころか、そういった概念すら知らない人がほとんどでしょう。

ですので、講師として噛み砕いて説明できるように努めています。

細かいところや実践は横浜ギター教室にて。