八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ジャズにおけるタイパのジレンマ レパートリーの数と中身の問題


八幡謙介ギター教室in横浜

アーティスト・クリエイターとタイパの関係性についてご説明しました。

k-yahata.hatenablog.com

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では具体的にジャズで何が起こるのかについて書いてみます。

 

ジャズミュージシャンはスタンダードを知っていてナンボです。

最低でも100曲は譜面なしでいつでも弾けないとたぶんまともに活動できないでしょう。

ジャズミュージシャン時代は僕でもその程度はクリアしていました。

しかし、ここで問題が発生します。

プロ活動を始めるために、できるだけ早くたくさんの曲を覚えたい、そのためにはタイパを上げる必要があります。

100曲覚えるのに10年もかかってたら遅いです。

だからジャズミュージシャン志望者は、できるだけ効率よく沢山のスタンダードを覚えようと苦心します。

僕も学生時代そうでした。

そこで何が起こるかというと、まず真っ先に歌詞を無視します。

歌詞なんていちいち読み込んでいたらタイパが悪い、自分で歌うことはまずないし、それにテーマを弾くにしてもどうせフェイクするし、あとは記号を覚えてアドリブやバッキングできるようにするだけ……。

ジャズスタンダードのあらゆるヴァージョンを聴き込むのもタイパが悪いから有名なのを1、2作だけ。

そうしてタイパを上げ、レパートリーを増やしていくことに成功できれば、ジャズミュージシャンの仲間入りです。

その結果、中身を削って記号だけで演奏するいわゆる「ジャズミュージシャン」のできあがりです。

中身がないから一般の人が聞いても楽しくない、だから人が集まらないという、ジャズの負のスパイラルの始まりです。

この辺についての批判は「ジャズに人が集まらない理由」にも少し触れています。

 

スタンダードを沢山知らないとジャズミュージシャンはできない、といって10年単位の時間はかけられない、だからタイパを上げて曲を覚えていく……。

一方そうすると中身が薄れて記号だけの演奏になってしまう、だから1曲1曲歌詞を読み込んで、いろんなヴァージョンを聴き込んで自分のものにしていかなくてはならない……でもそうすると膨大な時間がかかり、いつになったらジャズミュージシャンとして活動できるのか分からない……

これがジャズにおけるタイパのジレンマです。

 

僕がジャズミュージシャンをやめた理由のひとつがこれです(他にもいろいろとありますが)。

スタンダードを大量に覚え、いつでも弾けるというレベルには到達していたのですが、あるとき自分が中身のない記号だけの演奏をしていることに気づいて愕然とし、そこからタイパ(その時はそういう言葉はありませんでしたが)のいい曲の覚え方に疑問を覚え、さらには一般的なジャズミュージシャンのあり方も疑問視するようになりました。

「ジャズに人が集まらない理由」を書いたのはその数年後です。

 

それから一般的なジャズミュージシャン的活動をせず、必要に応じてジャズスタンダードをじっくり時間をかけて覚え直すということをやるようにしています。

そうすると今までただの記号の集まりでしかなかったスタンダード曲が、色彩を帯び、物語が生まれ、1曲1曲が独自の世界を形成するようになりました。

今僕は曲を覚えるのがめちゃくちゃ遅いです。

もちろんただ弾けばいいだけなら、かつてやったスタンダードなら1分で思い出せます。

でもそのレベルのジャズならいくら仕事が入ってもやらない方がましなのでやりません。

僕の場合は、ジャズミュージシャンとして活動しないという選択肢を取ることで、ジャズにおけるタイパのジレンマを解消したことになります。

ジャズミュージシャンになりたい人がこのジレンマを解消するには、やはりできるだけ早く、子供の頃からはじめるというクラシックミュージシャン的な結論になるのでしょう。

これからジャズミュージシャンを目指す人は、よくよくこのことを考える必要があります。

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