前回、ルーツを聞くことの重要性をお話ししたところ、意外と反響があったので、もう少し突っ込んで書いておきたいと思います。
前回の記事はこちら。
各ジャンルのルーツにはいったい何があるのか?
なぜミュージシャンや音楽通は、口を揃えて昔のアーティストや楽曲、演奏を聞けと言うのか?
僕なりの答えとしては、ルーツには記号におさまりきらない衝動が詰まっているから価値があるのだと思います。
どこにもない新しい音楽が創りたい、あるいは何らかの感情を表現したいけどそれに見合った音楽がない、じゃあ俺たちで創ってやれ!とはじまった音楽は、衝動や情熱がこれでもかと記号(コードやリズム)から溢れ出しています。
だから何度聞いても厭きないし、何年何十年経っても色あせない魅力があるのでしょう。
そして、そこからそれぞれのジャンルが確立されていくとだいたいダメになっていきます。
それは恐らく、そのジャンルを形成する記号がはっきりと打ち立てられたからでしょう。
こういうフレーズを弾けばファンクになる、こういうスケールを弾けばジャズに聞こえる、レゲエはこのパターン、ボサノバならこんなテンション……と、後進は既に確立され、隅々まで理論化された記号からどうしても入ってしまいます。
そうして学んだ際、記号からエネルギーが溢れ出るということはめったにありません。
初期のアーティストよりも良くも悪くも上手にはなるでしょうが、どうしたって衝動や情熱は記号の中に綺麗におさまってしまいます。
それは、初期アーティスト(ルーツ)との温度差として如実に表れます。
だから、後進がルーツを越えることは不可能なのです。
ルーツを聞く意義は、単にジャンル固有のパターンを採取するとか、タイム感の違いを認識するといった技術確認よりも、音や記号の奥にある衝動やエネルギーを感じることにあります。
それらを感得し、何らかのインスピレイションを得ることが出来れば、それは必ず見えない部分で自分の演奏や音楽感を深めてくれます。
リスナーが求めているのは、正にそこです。
記号の上手な扱い方ではなく、その奥にある何か、です。
長年音楽に関わっているとそういうことがだんだん分かってきます。
だから長くやっている人はルーツを聞け、と口やかましく言うのでしょう。
若い人は、昔の音楽を毛嫌いせず、それぞれのジャンルのルーツを聞き、そこにある衝動や情熱に耳を傾けてみてください。
きっと何かが変わってくるはずです。