以前から不思議に思っていたことですが、メタル系のギタリストで「この音使ったらジャズになる」と軽々しく言う人が結構います。
例えば、「メジャーセブンに9thを入れるとジャズになる」とか、「スケールをクロマチックでつなげるとジャズになる」などなど。
そういった文言を目にするたび「え?」と絶句してしまいます。
先にいっておきますが、上記をことをしてもジャズにはなりません。
ジャズは記号を寄せ集めた音楽ではないので。
といってもそれは全ての音楽に言えることです。
例えば「ディストーションかけてピロピロ速弾きしたらメタルになる」といったインスタントメタル論を誰かが言っていたらメタルの人は全力で反論するでしょう。
あるいはメタラー独特の諦観から「はいはい、そうそう」と受け流しつつも心の中では『そうじゃない!』と強く反発するはずです。
一方で、他ジャンルに対するインスタント論を言う人は、圧倒的にメタルに多いように思われます。
中には「メタルが弾けたら何でも弾ける」とまで言う人もいます。
そう考えると、ジャズミュージシャンは他ジャンルに対してそれなりに敬意を払っているような気がします。
敬意というほどでなくても、少なくとも他ジャンルの音楽を「違う世界のもの」であり、「インスタントにできるものではない」という認識は持っているはずです。
ジャズ自体かなり特殊な世界の音楽なので、それを習得する課程で他の音楽ジャンルが持つ独自性や、ある種の自治権を尊重していくようになるのでしょう。
改めて言うと、たかだかテンションを足したりクロマチックでスケールをつないだり、もっと言うとジャズスタンダードですらすらアドリブができたところでジャズにはなりません。
それは、ディストーションかけて低音弦をザクザク刻んだり、ちょっと速弾きができたところでメタルにならないのと同じです。
自分の演奏をジャズにするため、ジャズミュージシャンは一生涯をかけます。
メタルも同じなのではないでしょうか?
他のジャンルがインスタントに弾けると思っている人は、結局自分のジャンルもどこかでそう思って弾いているのでしょう。
自分が演奏するジャンルの歴史や、そこにある心を深く掘り下げていくと、自然と他ジャンルへの敬意も生まれてくるのではないかと思います。