ギタリストが行うコード研究はたいてい時間の無駄です。
なぜかというと、コード研究は得てして足し算になるからです。
どんな分厚いコードを作れるか、どれだけテンションを乗せられるか、どんな奇抜な響きに出来るか、ピアノに勝てるようなヴォイシングを…… まず実際の楽曲でそんなコードを使う機会はありませんし、あったとしたらだいたい音楽的に独りよがりな内容になっていることが多いです。
その結果煙たがられて誘いが減ったら本末転倒です。
そういったことにならないためにも、コードは引き算で作れるようにしておくべきです。
では引き算のヴォイシングはどうやって作ればいいのか?
結局それもコード研究じゃないの?
……
似ているようですが、違います。
引き算の ヴォイシングは、アンサンブルとの兼ね合いです。
ベースがいたらルートはいらない、ヴォーカルがいればメロディラインの邪魔をする音は省く、ピアノがいたらもう大きなコードは弾けない、さらにギターが二本あれば、ストリングスが入ってたら……その中で最適なヴォイシングを探していくのが引き算のヴォイシングです。
ギターという楽器は、一般的な(ギターミュージックでないという意味で)音楽の中ではヴォイシングを縮小していく宿命を持っていると言ってもいいでしょう。
良いか悪いかではなく、そういう役割の楽器なのです。
だからその役割の中で最大限に効果を発揮するヴォイシングを見つけられる必要があります。
それができれば「あのギターいい仕事するじゃん」と一目置かれることもあるでしょうし、演奏の誘いも増えてくるはずです。
一方、足し算のヴォイシングは独りよがりになりがちで、僕もよくヴォーカルの人から「誰それ君にバッキングしてもらったけど変なテンションいっぱい入れるから歌いずらかった」と愚痴を聞かされました。
そういうのを聴いて僕は徐々に引き算のヴォイシングの重要性を理解していきました。
実際にこの引き算のヴォイシングをすることで気に入られて仕事をもらったことや、目上のミュージシャンと共演できたこともあります。
余談ですがヴォーカルの人はそこまでコードの知識がないことが多いので、はっきりと「ここがこうだから歌い辛い、だからこういうコードにかえて」と言ってくれません。
ただ、なんとなく歌い辛い、でもちゃんと言えない、ということですっと距離を置くのでしょう。
だからギタリストはいつまでも自分のヴォイシングが歌の邪魔をしていると気づけません。
ヴォーカルやピアノのためにヴォイシングの音を減らすことにある種の屈辱感を感じるというのも分からないでもないです。
しかし、もう少し視野を広げて、自分が何がしたいのかを考えればヴォイシングなんてささいなことだと思えてきます。
そもそもは音楽を仕事にしたい、それ以前にいい音楽が作りたいからギターを弾いているはずです。
引き算のヴォイシングで音楽がよりよくなり、それで仕事が増えたら大成功ではないでしょうか?
プロを目指す人、あるいはアマチュアでも音楽の幅を広げたい人は、コード研究(足し算のヴォイシング研究)はやめて、引き算のヴォイシングを身につけましょう。
そのためにはまず音楽をよく聴くことです。