ジャズがある程度弾けるようになってくると、必ずどこかで次の二択を選ばなくてはならない瞬間が訪れます。
ソロを弾き始めて2~3コーラス目、ここから新しい展開が欲しいという場面で、
新しい展開に行きたいけどいまいちそれが作れず、一度立て直そうとする。
アドリブの安定性はキープできるが、ここから次の展開に行くというところで「はい、もう一回」となるので流れが途切れてしまう。
伴奏者は「え、もう一切最初からやるの?」としらけてしまう。
そうして、最終的に何がいいたいのか分からないままソロを終える。
事故なく無事には終われるが、それ以上得られるものがほとんどない。
新しい展開に行きたいが、その先が全く見えない。
それでも無理矢理そちらに一歩踏み出す。
頭はパニック状態となり、不安や恐怖でいっぱいとなる。
だからこそ緊張感が出て、ジャズらしい演奏になっていく。
伴奏者もそれにつられて一歩踏み出す必要に迫られるのでインタープレイが白熱する。
終わってから心の中では後悔と絶望でいっぱいになるが、なぜか周りから褒められる。
ジャズという音楽を演奏していく上で得られるものは大きい。
日本人の99%は無意識的にAの「安定」を選びます。
そういう民族、遺伝子なのでそれは仕方ありません。
だとすれば、意識的にBの「不安定」を選ぶ訓練をすればいいだけです。
こっちに行ったら何も分からなくなる、絶対崩壊する、評価が下がる、怖い、嫌だ……それでも不安定な方に向かうと必ずジャズにおける重要な何かが見えてきます。
ジャズとはそういう音楽なのです。
もちろんこれは経験から言っています。
この二択が僕の眼前に現れ、そして意識的に「不安定」を選んだ瞬間を、今でもありありと覚えています。
ちなみに場所はアムステルダム、曲は「ST. Thomas」でした。
このとき「不安定」を選んだことで、僕のジャズ人生が完全に変わったと言っても過言ではありません。
今考えれば、僕はあのときジャズメンになったのでしょう。
それぐらい重要なことなのです。
なんとなく心当たりがある人は、一度腹をくくって「不安定」を選んでみましょう。
それも、できればお客さんがいる前で。
一度きっちりそれをやっただけでおおげさではなく人生が変わります。