八幡謙介ギター教室in横浜講師のブログ

ギター講師八幡謙介がギターや音楽について綴るブログ。

ジャズにおけるテーマ最終小節の重要性 伴奏者と意思疎通するためには<逸脱>が必要


八幡謙介ギター教室in横浜

ジャズのアドリブで自分がテーマを弾き、そのままソロに入るとします。

このとき、特に何も考えずにソロに入る人が割と多いと思います。 

ジャズだからどうソロに入ろうと自由だと思う人もいるでしょう。

しかし、テーマ→ソロと正に変化する瞬間にアンサンブルで何が起こっているのか、他の楽器は何に気を付け、どうしたいのかを考えると、テーマ最終小節の重要性が見えてき、ここで要求される役割を果たすことができるようになってきます。

テーマ→ソロでの各楽器の役割

テーマからソロに変わる際、伴奏している楽器はどんな役割を持っているのでしょうか?

ざっくり書いてみると、

 

ピアノ、ギター

どんなヴォイシングで伴奏するか、どういうリズムで伴奏するか

 

ベース

2フィールで弾くか、ウォーキングで弾くか

 

ドラム

どの楽器(ハイハット、スネア、ライド)を使うか、スティックで叩くかブラシで叩くか、2フィールにあわせるかウォーキングにあわせてドライブするか。 

 

ピアノやギターなどのコード楽器は軽く様子見してから作っていくことができますが、ベースとドラムはソロの頭からはっきりとスタイルを提示しなくてはいけません。

ということは、ソロコーラスの頭に入る前にはもう意思決定できていないといけない、ということです。

その意思決定は、極論1拍あれば可能です。

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ソロセクション突入前に『よし、ソロに入ったらこんな伴奏でいくぞ!』と意思決定し、ソロ頭でバーンと切り替えます。

そこでドラムとベースの意思が合えばおなぐさみ、まあ合わなくてもいろんな処理の仕方があります。

ソロイストとしては、じゃあそれはリズム隊に任せて、自分はやっぱり好きなことを弾いていればいいんじゃないの?と思うかもしれませんが、そういう悠長なことをしているからリズム隊が困惑するんです。

 

 

伴奏の意思決定の基準

テーマ最終小節の4拍目で伴奏楽器がソロパートをどう演奏するか意思決定するとします。

このとき、彼らは勝手に決めているのではありません。

これからソロを弾くあなたがどうしてほしいかを考え、それを最大限にサポートしようとしてディレクションを待っている状態です。

そう、ドラム、ベース、ピアノなどが伴奏の意思決定をする基準はソロイストであるあなたなのです!

さて、ここでタイムパラドックスが起こります。

先ほどの図を見てください。

あなたのソロは中央の線から始まります。

しかし、あなたのソロにあわせて伴奏しようと待っている伴奏者たちは、その一拍前に意思決定をしないといけません。

明らかに順序がおかしいですよね。

この矛盾を解決するために必要なのが、本ブログでおなじみ<逸脱>です。

ソロの<逸脱>で伴奏へのディレクションを行う

伴奏者は自分の演奏に合わせて伴奏しようと待ってくれている。

しかし、自分のソロは伴奏者が意思決定するより後に始まってしまう。

この矛盾を解決するため、ソロの開始地点を<逸脱>し、テーマ最終小節1拍目からとします。

するとどうなるか?

伴奏者が意思決定するより3拍も早くソロを開始できるので、<自分のソロ→それを聴いて伴奏者が意思決定→ソロセクション開始>という一見矛盾した時間の流れが成立します。

図にするとこうなります。

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このソロの<逸脱>を2小節前から行っても構いません。

そうするとディレクションはよりはっきり打ち出せます。

 

……なんのことはない、普通にジャズで行われている、ちょっと早めにソロを弾き始めるというアレです。

実はそのアレにはこんな意味があったというお話です。

自分のソロに没頭するのはジャズではない

ジャズは自由の音楽、アドリブはその自由を最も謳歌できる時間、だから自分の心のままに弾けばいい……

と考えて本当にそうしている人は、まだジャズを弾いていません。

ジャズをジャズにしたければ、各場面場面で他楽器が何を求めているのか、自分が他楽器に何を求められているのかを考え、そこでアンサンブルにとって最適なプレイを選択する必要があります。

時折、「ジャズは自由だけど、本当は自由じゃない」と言われるのは、そういうことです。

まだテーマが2小節も残っているのにもうソロをはじめているのは、自由だからではなく、むしろ即興におけるアンサンブルへの役割を果たしているというだけなのです。

もちろん、そうしないパターンもありますが。