宮崎駿アニメの「魔女の宅急便」の主題歌で、松任谷由実が歌う「ルージュの伝言」という曲があります。
以前から思っていたのですが、この歌詞の主人公があまりにも姑息かつ卑怯極まりないので、ここでその思いを書いておきます。
まず歌詞から察するにこの女性は主婦でしょう。
「黄昏迫る町並み」つまり夕方日が暮れる前に、自宅に伝言を残してぱっと列車に乗って出かけられるということは、おそらく仕事はしていません。
また、「うちには帰らない」とも言っている通り、思いつきで出かけてうちに帰らなくても大丈夫なようなので、やはり主婦と考えるのが自然でしょう。
ついでに、「あの人」の住む「うちには帰らない」と言っていることから、相手との関係性は結婚していると考えられます。
ここで一端登場人物をまとめてみましょう。
登場人物
主人公=女性、主婦。仮にA子とする。
あの人=主人公の旦那、仮にB男とする。
ママ=旦那の母親、主人公にとっては姑(義母)。
備考
A子とB男は結婚して同居、子供はいなさそうなのでまだ新婚。
姑とは別居し、列車に乗っていく距離に住んでいる。
話は、A子が姑に会いにいくために黄昏時少し前に列車に乗るところからはじまります。
「うち」にはルージュの伝言を残し(内容不明)、不安な気持ちを持ちつつも、旦那が「浮気な恋」を諦めないかぎりもう帰らないぞと強く心に決めつつ、姑に会いに行って旦那を叱ってもらおうと行動に移したという内容です。
この歌詞、細部を考えれば考えるほどA子のおぞましい計略が浮き彫りとなり、男としては背筋が凍る思いがしてきます。
では細かい部分を見ていきましょう。
まず時系列の一番最初を考えてみましょう。
この歌詞の世界の中で、「一番最初」は何だと思いますか?
列車に乗るところ?
それとも「あの人」の浮気発見?
いやいや、もっと前です。
それはA子と「あの人のママ」である姑との蜜月です。
A子は、ある日突然列車に乗って会いに行けるほど(そしておそらく数日は泊まらせてもらえるほど)姑と友好な関係にあります。
これは一朝一夕に作られるものではありません。
おそらくA子は婚約の挨拶をしたあたりから姑と徐々に徐々に距離を詰め、良好な関係を築いていったはずです。
しかし、冷静に考えてみましょう。
同居が決まっているならそうした良好な関係を築いていくのもうなずけます。
が、実際姑は、列車に乗っていかなければ会えない距離に別居しています。
普通の女性なら、結婚しても姑と別居することが分かっていれば、そこそこの関係性でいいかと思うでしょう。
また、その程度の関係性なら、旦那の浮気問題を姑にチクるということもしないはずです。
ではなぜA子は姑と、突然列車に乗って会いに行き数泊できるほどの関係性を構築したのでしょう?
それはB男の浮気癖にあるはずです。
(これは想像ですが)B男は付き合っていた当初も、何度か浮気をしたのでしょう。
それを乗り越えてなんとか結婚までこぎつけました。
しかしA子は女の感で、B男の浮気癖は結婚しても治らないだろうことを予感していました。
そんな中、B男のご両親に挨拶することになりました。
A子はそこではじめて、B男が「ママ」に頭が上がらないことを見抜いたのでしょう。
そしてA子はあることを思いつきます。
『姑と仲良くしておき、今度B男が浮気したときはチクって叱ってもらおう!』
そう、A子はB男の浮気撲滅のため、姑を懐柔し、味方に付けておいたのです!
きっと食事会などで女子トークの合間に、過去の浮気のことをそれとなく匂わせて反応を試したりもしたでしょう。
「もし息子が浮気でもしたらすぐに知らせなさい、私がとっちめてやるから!」という約束なんかも取り付けたのかもしれません。
だからある日突然列車に乗って会いにいき、しばらく泊めてもらうことができたのです。
重要なのは、A子が決して旦那の浮気を知って錯乱し、ヒステリックに家を飛び出したのではないということです。
こうした行動を何年も前から計画し、その日のために周到に根回しをしていたのです!
恐ろしや!A子の奸計!!
これが「ルージュの伝言」の一番最初、前提部分です。
そして、この根回しが完了してから歌詞が始まります。
あのひとのママに会うために
いま一人列車に乗ったの
黄昏せまる町並みや車の流れ
横目で追い越して
さて、旦那の浮気を発見したA子は、周到に根回しした通り姑に連絡し、夕方少し早くに今から行くと伝えたのでしょう。
あのひとはもう気づく頃よ
バスルームにルージュの伝言
浮気な恋を早くあきらめないかぎり
うちには帰らない
それにしても、なんで「バスルーム」に伝言を残したのでしょうか?
ひとつは時間稼ぎでしょう。
家に帰ってきてすぐに見えるところに伝言を残しておくと、早々と足がつくかもしれません。
「あれ、あいつどこいったのかな?」
「飯はどうするんだろう?」
イライラしながら嫁の帰りを待つB男。
しかしいつまでたっても連絡も取れず帰ってもこないのでひとまず出前か何かで遅めの夕飯を摂り、らちがあかないので風呂にでも入ってさっぱりしようと思ったらルージュで伝言があり、ショックを受ける、という効果を狙ったのかもしれません。
怖いです……
また、バスルームなら後で落とせるからという女性的な感覚もあるのでしょう。
つまり、「うちには帰らない」とは言っているものの、実はまた帰って生活することをちゃっかりと想定しているのです。
だから壁でもドアでもなく、「バスルーム」なのでしょう。
この辺も背筋がゾクっとしてきます。
不安な気持ちを残したまま
街はDing-Dong遠ざかってゆくわ
そういった、「もう帰ってやらない!」という怒りの気持ちと、「また帰ってやり直せるかしら?」という不安な気持ちを残しつつ、A子はまだ列車に乗っています。
姑の家、けっこう遠いんですね……
さて、この曲の中で僕が最も恐怖を感じた箇所にいきましょう。
明日の朝ママから電話で
叱ってもらうわMy Darling!
ぱっと見、怖いどころか可愛いとすら思える一節ですが、よくよく考えてみるとA子の恐ろしさが垣間見えてきます。
A子はたぶんまだ電車の中にいて、策略を練っています。
どうすればB男に最大限のダメージを与えられるか?
また、それだけではまだ不十分で、B男にはダメージを受けると同時にどれだけ自分が大切かを思い出して欲しいという気持ちもあるでしょう。
そこでA子は、明日の朝まで連絡しないという作戦を立案します。
すぐに連絡して今姑の家にいるとでも告げたら、B男は安心してしまいます。
だから明日の朝までは連絡せず、B男を一晩苦しめようというのです。
B男にしてみたら、永遠のように長い夜になるでしょう。
事故にでも遭ったのか、もしかしたらさらわれたのかも?それともあいつも浮気してるんだろうか?……
このへんはルージュで書かれた伝言の内容次第ですが、それを言わない松任谷由実もかなり性格悪いですw
きっと相当思わせぶりなことを書いたのでしょう。
B男は当然「ママ」にも電話するでしょうが、もちろんA子は先手を打って姑はもちろん、自分の親や友達にも口止めしていることでしょう。
あのひとはあわててる頃よ
バスルームにルージュの伝言
てあたりしだい友達にたずねるかしら
私の行く先を
そうして一晩虫かごの虫をいたぶるように旦那を苦しめた翌朝、自らは手を下さずにB男が頭が上がらない「ママ」から叱ってもらうというとどめの一撃を食らわせようとするA子の鬼畜ぶり!
B男にしてみれば、心配と睡眠不足で憔悴しきったところにようやくA子の無事を確認して安堵したところ、今度は浮気を攻められ、しばらく立ち直れないぐらいのダメージを受けるでしょう。
かくしてA子は大勝利をおさめたのでした。
と、このように、「ルージュの伝言」は女の怖さをこれでもかと凝縮した恐ろしい曲なのです。
この曲を楽しそうに歌っている松任谷由実、この曲をBGMに楽しげに空を飛んでいるキキ、そしてこの曲を映画に起用した宮崎駿が僕は怖いです……