ジャズをむやみに奴隷制度と結びつけずに、黒人精神としての<逸脱>という文脈で捉えると、我々日本人にも理解しやすくなります。
逆にこの<逸脱>という精神を忘れ、日本人の常識や価値基準を当てはめてしまうと、ジャズはいつまでもよくわからない音楽になってしまったり、あるいは間違ったとらえ方をしてしまいます。
ですから、ジャズを楽しむときはジャズにチャンネルを合わせておく必要があります。
では具体的にどうすればいいのか、いくつかポイントを挙げてみましょう。
日本人はあらゆる面で完璧を求める傾向があります。
電車の運行、サービス業、もの作り、などなど。
音楽においても日本人はミスを気にしすぎると海外ではよく言われます。
他の音楽は別として、ジャズにおいては完璧を求めるという態度自体が間違っています。
そもそも、<逸脱>という精神は<完璧>とは正反対のものですし、極論すれば即興音楽であるジャズには<完璧>という概念は存在しません。
ジャズで注目するべきは、完璧さではなく、危うさです。
「こんなに音が外れて大丈夫なのか?」
「これってもうリズムがズレてるんじゃないの?」
「なんか気色悪いハーモニーだなあ…」
「なんでこの曲をこんなアレンジで演奏するんだろう?」
日本人からしてみたらそうした瞬間は、間違いや失敗しているように思えたり、練習不足に感じたり、下手だと断定してしまうところですが、実はそういったところにこそジャズの本当の魅力が現れているのです。
そして、黒人ジャズミュージシャンは<逸脱>の精神からそういったギリギリの演奏を目指します(今はそうではなくなってきているのかもしれませんが)。
そこを理解し楽しむために、日本人はまず<完璧>から<逸脱>にスイッチを切り替える必要があります。
そうしておくと、ギリギリ崩壊寸前の危うさが最高に気持ちよく、スリリングに感じられます。
試しにジャズを聴いてみて、なんとも居心地が悪くなったことがあるという人も少なくないでしょう。
実はそれは悪いことではありません。
ジャズをきちんと異文化として感じていれば、居心地が悪いのは当然です。
例えば外国人が畳の上に正座をしてじっとしていれば確実に居心地は悪くなるでしょう。
それと同じ現象です。
<完璧>を求める日本人が<逸脱>という正反対の文化から生まれた音楽を聴いているわけですから、最初から居心地がいいと感じるほうがどうかしています。
その居心地の悪さを一端そのまま受け入れてみましょう。
こちらのアルバムはハーモニーとしての<逸脱>を比較的初心者でも楽しめます。
はじめて聴いた人は「なにやってんだ? こいつら??」と思うでしょうw
慣れてきたら、ハーモニーの<逸脱>と<回復>が分かるようになってきます。

- アーティスト: McCoy Tyner
- 出版社/メーカー: Blue Note Records
- 発売日: 1999/02/04
- メディア: CD
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また、前回ご紹介したこちらのアルバムで、サックスのデクスター・ゴードンはずっと正しいタイムから遅れて演奏しています。
注意して聴くとよくわかりますが、最初はものすごく気持ち悪いです。
もちろん下手なのではなく、本人がそういうグルーヴで演奏したいからそうしているのです。