では今度はタイムについて考えてみましょう。
タイムとは楽曲のテンポのことです。
各楽器がそのテンポに合わせて演奏しないとむちゃくちゃになってしまうので、タイムに正確であることは音楽を演奏する必須条件ともいえます。
ただ、正確であればあるほどいいということではありません。
楽器をやらない人や、初心者の人にはわかり辛いかもしれませんが、タイムは各楽器が微妙にずれていた方が演奏に迫力が出てきます(よくグルーヴと言われるのがそれです)。
そして、そのずれ方でそれぞれのジャンルらしさが出てきます。
もちろん、ずれすぎていると破綻するので、それはそれで注意が必要です。
例えばYOUTUBEの「弾いてみた」などで、いずれも上手なのにある演奏はノれる、ある演奏はノれないということがよくあると思います。
おそらくノれる演奏はいい具合にタイムがずれている=グルーヴしているのでしょう。
ジャズは他の音楽に比べて最もタイムがずれるジャンルだと言えます。
そして、そのずれ方が音楽にどのように影響するかをかつてのジャズミュージシャンたちは熟知していました。
だから昔日の名盤は何度聴いてもダイナミックで躍動感に満ちています。
現代のジャズにそのダイナミックさがないのは、タイムが合いすぎているからです。
その分安定感やシャープさはあるけど、どこかこじんまりして優等生的な印象を受けてしまいます。
仮にそうした現代のタイム感がいいものであるのなら、過去の名盤はすでに廃れて誰も買わなくなっているはずです。
しかし、2017年になっても未だに60年以上前のアルバムが聴き継がれ、語り継がれているところを見ると、やはり人はずれたタイムによるダイナミックな演奏を好むのだということが分かります(もちろんそれ以外の要素もあるでしょうが)。
日本人の感覚だと、タイム(時間)は正確であればあるほどいいと無条件に考えてしまいます。
しかし黒人文化のジャズでは、タイム(時間)はずれていた方が格好いいのです。
これも<逸脱>という黒人精神から生まれた感覚でしょう。