ジャズ・フュージョン系のミュージシャン、特に機材の多いギタリストやベーシストは、本番中にやたらと機材をいじくる癖があります。
これはまあ仕方ないといえば仕方ないことです。
まず、多くの場合はPAもなく、リハもそんなにきっちりと取れなかったり、本番前にしっかり作り込んだ音が、観客が入ったことによる湿気や温度の上昇でガラリと変わってしまったり、本番で全員の演奏が乗ってくるとどうしてもヴォリュームが足りなくなってきたりと、想定外の事態に見舞われることが多いからです。
ですから、本番中にも手元や足下、あるいは後ろに置いてあるアンプなどをちょくちょくいじる必要が出てきます。
それもこれも、観客にいい音を届けたいという一心であることは間違いありません(まあ、「本番中に機材いじって音作ってる俺かっけー」という意識もないこともないですがw)。
しかし、こうした本番中の動きは、観客にはどう見えているのでしょうか?
意外とミュージシャンはそういったところに無頓着だったりします。
本番中に手元や足下をやたらといじったり、後ろを向いてアンプを調節したりする動きは、間違いなく観客に違和感を与えます。
曲が始まり、その世界を楽しもうとしている、あるいは既に楽曲の世界観に引きこまれている最中に、ミュージシャンがもそもそと手元や足下をいじったり、首を傾げたりしていると、見ている方は『何やってるんだろう?』『機材の調子悪いのかな』と思い、一瞬我にかえってしまいます。
そして、改めて音楽を楽しもうとしたら、また手元をもそもそ……。
これを繰り返しているうちに、完全にではないにしても、確実に興は冷めてしまうでしょう。
実際、本番中に機材をよくいじっていると、ライブが終わってから必ず「あれは何をしてたの?」と訊かれたのを覚えています。
それだけ強く印象に残ってしまっているのでしょう。
観客にそういった印象を与えたまま終わってしまったライブは、はっきりいって失敗です。
言うまでもなく、観客には楽曲やその世界観、あるいはプレイヤーのかっこいい姿を印象に留めて帰ってもらいたいはずです。
極論すれば、「いい音を提供する(そのために本番中でも機材をいじくる)」というのは、単なる自己満足ともなりえます。
一方、ちょっとぐらい音が悪くても、ステージでの見栄えの方が大事だ、という考え方は、一見ナルシストのようで、実は観客からどう見られているのかをきちんと考慮した素晴らしい姿勢であると思います。
実際、演奏をやめていち観客としていろんなライブや動画などを観ていると、本番中の動きは相当気になります。
機材をいじるのはもちろん、譜面をめくったり、キューを出したり、演奏中のそういったひとつひとつの動きが楽曲のクオリティと密接に関わっているんだなというのが、やめてはじめて分かってきました。
だからこそ一流のアーティストたちは、世界観を徹底的に練り上げるのでしょう。
ラフな場で、ラフな雰囲気でライブを行っている人は、そういったことも一度考えてみるべきではないかと思います。
観客からしてみると、それこそ、ミュージシャンの目線ひとつで我に帰ることもありますからねえ。