「ジャズギターがつまらない理由」で僕は、ジャズギターの役割はBLUESフィーリングを出すことであると述べました
教科書的な回答をすると『BLUESフィーリングとはBlue Noteを多用した演奏』ということになりますが、これは間違いです。
なぜなら、いくらBlue Noteを多用してもBLUESに聞こえない、BLUESを感じない演奏はたくさんあるからです。
逆に、そういった特徴的な音階を使わなくてもBLUESに聞こえるものもいくらでもあります。
大事なのは、音階や記号ではなく、どうすればBLUESっぽいフィーリングが出せるか、どうしたらそう聞こえるかというところです。
実はこれについては、僕の中ではほぼ回答が出ています。
BLUESフィーリングを出すためには、
・レイドバック
・ラグ
の二点を強調することです。
なぜかジャストのテンポより遅らせて弾くと、BLUESっぽい感じが出ます。
逆に、ジャストや突っ込んで弾くとちょっとBLUESっぽさが減退します。
ウエスの演奏からBLUES色がちょっと薄いなと感じるのは、彼のタイムが基本少し突っ込んでいるからです。
これは音楽用語としてはあまり定着していないのですが、ラグタイムのラグだといえば分かる人はわかると思います
英語では「ぼろ布」「ぼろ着」といった意味ですが、和製英語の「ラフ」が一番ニュアンスとして近いと思われます。
要するに、ちゃんとしていないこと、小綺麗でないこと、荒削りな感じです。
音楽的に言うと、まずタイムが正確でないこと(レイドバックしていることが望ましい)、そしてタッチやサウンドが流麗でなく荒々しいこと、さらに言えばミストーンを気にしないこと(ミスが減点対象にならない)もあるでしょう。
多少なりともBLUESに親しんだ人なら分かると思いますが、キラキラしたサウンドで、ひとつもミスをせず、テクニカルな演奏をされると、どこかBLUESとは違った印象を受けてしまいます。
そうではなく、サウンドやタッチは荒削りで、時々変な音が出たりする方がBLUESっぽさを感じられますよね。
BLUESフィーリングのある演奏には、必ずこの「レイドバック」と「ラグ」のふたつの要素があると僕は確信しています。
ということは、BLUESフィーリングを出したければ、そこを訓練すればいいということになります。
しかし、ここで問題がひとつあります。
それは日本人の気質です。
僕がまだ十代の頃から(恐らくもっと前から)、日本人にはBLUESは弾けないといったことがよく言われてきました。
こういった議論は、だいたい人種論や、歴史(奴隷の先祖を持っているかなど)、最後には魂がどうのこうのといった抽象論に行き着き、決着のないまま終わってしまいます。
確かに、僕も日本人にはBLUESは難しいと思いますし、BLUESフィーリングの習得は、クラシックやロックの習得よりもかなりの難関だと思います。
しかしそれは、人種論や背負っている歴史ではなく、単なる気質にあると思います。
BLUESフィーリングの要素を思い出してください。
「レイドバック」も「ラグ」も、几帳面な日本人が本来持ち合わせていないものです。
タイムといえば物理的な正確さを波形でわざわざ確認するほど「ジャスト」信仰が根付いていますし、プレイはミストーンを親の敵のように嫌い、まるで機械のような正確なタッチでの複雑な演奏を好む傾向があります。
日本人は、生来BLUESフィーリングと正反対のものを志向する性質を持っているのです。
だから日本人にBLUESは難しい、ということだと僕は思います。
ただし、ここには突破口はあります。
それは、音楽的認識を完全に入れ替えることです。
ジャスト信仰を捨て、ミストーンに大らかになり、シンプルな演奏をよしとすることです。
そうすればBLUESフィーリングは少しずつ出てくると僕は思います。
ただしそれをすると回りの評価は下がりますが(これは身をもって体験しています)。
意識的にレイドバックしているのに「あいつはタイム感がない」と言われ、工夫に工夫を重ねピッキングを「ラグ」にすると、「音の粒が揃っていない」「下手だ」と言われます。
日本人は、苦労して作り上げたものは必ず正確かつ複雑で美しいものであるという信仰を持っています。
苦労の末獲得したものが不正確で荒っぽいということが信じられないのです。
だから「レイドバック」や「ラグ」に触れると、不正確だ、荒い→下手、練習不足と条件反射的に否定してしまうのでしょう。
そうした否定的な評価は嫌なので、皆「ちゃんとした」演奏をしようとする、その結果BLUESフィーリングからどんどん遠ざかっていくのです。
これが日本人がBLUESフィーリングを持てない要因です。
ということは、逆に回りの評価さえ気にしなければBLUESフィーリングの獲得もそう難しくないと僕は思います。
回りの評価が大事なのか、それとも自分が信じるフィーリングの獲得を優先するのか、決めるのは自分次第です。